アスタリス領
ソウマsideを書くのが難しい……
遅くなって申し訳ありません
フィランシェ帝国五公爵の一角、アスタリス家。
皇族と大公位を除く貴族の序列の中で最高位に位置するこの五つの家には主に三つの役割がある。
それは国土の防衛、政治、司法である。
五つの内、三つが国土の防衛、そして他の一家ずつが政治と司法を司っている。
何故国土の防衛を三つの家が担っているか。
それは『平和の壁』に存在する砦の数にある。
フィランシェ帝国の国境の大部分に存在する平和の壁には三つの門しか存在しない。
その三つの門の名をそれぞれ“阿門”、“修門”、“羅門”と呼ばれ、三つ合わせて“阿修羅門”と呼称されることもある。
この内ソウマ達が通ってきたのが修門だ。
歴史上、今まで一度も破られたことも無い平和の壁、アリの子一匹通さない堅牢な壁に存在する門が破られればそれは国家の一大事と同義になる。
その為、この三つの門を三つの公爵家がそれぞれ一つずつの門を家を上げて防衛している。
この三つの家が武の名門と呼ばれ、尚且つ国の守護を任されているのには訳がある。
それは彼等が強力無比な遺伝型の特殊属性を所持しているということ。
平和の壁という難攻不落の砦、そして各公爵家が保持する特殊属性。
この二つの存在により、帝国は過去数百年一度も敵国を国土に踏み込ませたことがない。
そんなフィランシェ帝国五公爵が一角、“鏡のアスタリス”と呼ばれる彼等が統治するのが『阿門』のあるアスタリス領。
つまりはソウマの故郷である。
☆★☆
フォット達と別れてからさらに一ヶ月。
予定よりは遥かに早いが、やはり帝国に来るまで馬車に乗っていた弊害からかやけに道が長く感じられた。
その間、帝国の冒険者ギルドの依頼を受けギルドのランクをDランクにまで上げることが出来た。
しかしここからが冒険者にとっての一つの登竜門となる。Dランクにまでランクを上げることはさほど難しくは無い。
依頼の実績とある程度の腕があればこのランクになることができる。
しかしここからCランク以上に上げるにはギルドの課す試験を突破しなければいけなくなる。
Cランクからは一人前の冒険者と世間から見られるようになりギルドとしても彼等なら大丈夫、という人材を出さなければいけなくなる。
その為Cランクからランクを上げるにはギルドの与える試験、若しくはそれに足る実績が必要になって来る。
そしてギルドに与えられる試験の中には長時間の期間を要するものもある。
たとえ実力があろうとも、それに足る実績を作るのも、試験を受けるのも先を急ぐ彼等からすれば余計な足枷にしかならない。
依頼を時々こなしつつも、移動を続けて一ヶ月。
ソウマ達の目の前にはガレスの街に匹敵、若しくはそれ以上の規模を誇る街の前があった。
アスタリス領最大の街“スオン”。
そしてこの街にはアスタリス公爵の本邸が存在する。
つまりはここが旅の目的地であり、ソウマの家族がいる街ということである。
「ここが、僕の……」
ソウマはポツリと呟く。
感慨が湧くような、湧かないような不思議な気持ち。
それはそうだろう。彼の故郷がこの街とは言っても、彼はレイに育てられずっと森の中の屋敷に住んでいたのだ。
しかしどこか既視感のようなものがあるのは、まだ自意識が目覚める前にこの街を見たことがあるからか、それとも彼がここを故郷だと思うことによる錯覚か。
ただ間違えようも無いのは、この街に、彼が半ば諦めていた家族と会うことができるということである。
彼等とは月一の頻度でレイの手を借りて文通がなされていた。
つまりは彼等のことを文面上のことしか知らない。
そして今後における貴族教育、というより常識はレイによって叩き込まれた。
だが所詮はそれも付け焼き刃。貴族社会というのは魑魅魍魎が集うと称されることもある。
そんな貴族達の頂点たる公爵の嫡男と言われても実感が湧かないのである。
それに手紙の内容も親が子供に向けるごくありきたりなものだった。
中には拙い文字で書かれた妹らしき字もあり頬を緩めたのは記憶に新しい。
立ち止まっていても仕方ない。
ソウマは彼に合わせて待っていてくれた彼女達に向かって決意の込めた声で歩き始める。
「行こう!」
「ソウマ、列はあっちだよ」
「あ、はい」
「締まらないわねぇ」
決意を込めたと言っても物事が一気に進むわけもなし。
ソウマは長い列の最後尾へと並ぶのだった。
「次の人〜」
「あ、僕たちです」
国は違えどシステムはさほど変わらないらしい。
順調に列を消化していき、ソウマ達の番になるのはそれほどの時間はかからなかった。
「あ、じゃあお名前と何か身分を証明できるものを……!」
「………?」
なぜか門兵がこちらを見つめて固まっている。
その様子を怪訝そうな顔でソウマは首を傾げた。
「あ、いや! 失礼しました。お名前と身分の提示できるものをお出しください」
「名前はソウマです。後ろがティニアとフレア。これがギルド証です」
「はい、拝見しました。通ってどうぞ。ようこそ、スオンの街へ」
ソウマは後ろもつっかえている為そそくさとその場を通り過ぎた。
☆★☆
「おい! 見たか!」
「おう、しっかりとな」
まだ幼い冒険者達が三人通り過ぎたのを見た兵士は相方のもう一人の兵士に確認するようにそう告げた。
この場は三人一組でまわっている為もう一人が街に入る者達の対応をしている。
「閣下にご報告しろ! 御嫡男がこの街に着かれたとな」
その声音はだいぶ興奮しているようでもある。
その声に触発されるようにもう一人の兵士は走り去るようにしてこの場を飛び出す。
彼の目指すは公爵邸。
「通達よりも早いような気がするが、まあ見た感じ問題はなさそうだった。これでこの領も安泰だな」
彼が思い浮かべるのは先ほど見た少年。
まだあどけない顔だったがその顔は彼等の尊敬する領主ととても似通っている。
あの黒髪は恐らく奥方様の色を受け継いだのだろう。
とても優秀で利発そうな少年だった。
この国に於いて貴族というのは尊敬の対象である。
常に最前線に立ち人々を先導する、言わば最も理想的な貴族がこの国の貴族である。
そしてこの街を治める領主は絶対的な魔法の力を持ち、その力を以ってこの領に、国に安寧をもたらしてきた。
尊敬すべき領主一族は人柄も良く、そして見た目も良かったため民衆からも深く愛されていた。
しかしそこに入った幼き領主子息の訃報。
まだ生まれて間もなき赤子が行方不明になったことに多くの者が悲しんだ。
長期間にわたる捜索も実らず多くの領民が悲しみに包まれた。
そこへ来ての数年前の領主子息の生存の報。
数年しか経っていなかった当時、ますはじめに領民が感じたのは困惑。なぜ今頃? と言った感じだ。
しかし公爵様の騒ぎようを見るとそれが真実のように思えてくる。
そこからはお祭り騒ぎだった。
それから数年。
公爵家夫妻の両方の面影を持つ少年がこの街に訪れた。
これで気づかない者はいないだろう。
兵士はこの瞬間に立ち会えたことを喜び、噛み締めながら自らの職務に戻るのだった。
☆★☆
国が変われば街並みも変わる。
王国の建造物は一部を除き、その多くが木造だった。だが帝国はそれと違い大部分が石造で出来ている。
それに加え王国は道が整ってはいたが吹きさらしの地面だったのに対し、帝国は石畳が敷き詰められている。
王国と帝国の国力の差がこの光景を一目見ただけで分かろうというものだ。
そして活気にも満ちている。
「ねえ、先にどっちに行くの? 冒険者ギルド? 屋敷?」
「先に屋敷かな? 今は何も依頼を受けてないからギルドに行かなきゃいけないということでもないしね」
ソウマは肩に乗るノーラの頭を撫でながらそう答える。
ノーラは目を瞑りながら黙ってその撫でを受け入れている。結構気持ちいいようだ。
「じゃ、屋敷に行きましょう。どこかは分かるの?」
「多分、この道をまっすぐ行けば、道が違っても分かるんじゃないかな? 多分すごいでかい建物だろうから」
フレアもその言葉に肯定するように頷く。
貴族、それに加え領主の館は権威を示す他にその建物がそれであると分かりやすいように造られる必要がある。
例えば一般市民では解決出来ない問題にぶち当たった時、一般市民は兵士に頼ろうとする。
しかしその兵士でも解決出来ない問題であれば領主関係者に頼らなければ行けなくなる。
その一連の流れを迅速にするには、早い話が領主邸が何処であろうともすぐに見つけられる位置である必要がある。
基本、領主邸というのは街の中心にあることが多い。
そのため真っ直ぐ進めばそこにたどり着くというわけだ。
「ねえソウマ。ソウマの両親ってどんな人なの?」
この質問にはソウマも少し首を傾げざるを得ない。
「うーん、手紙でしか知らないから、良かったらそれでも良いかな?」
「うん、いいよ」
これにはフレアも少し興味はあるのかこちらに目は向けずとも耳を傾けている。
「基本的に両親共に過保護って感じがしたな〜」
「まあ、そりゃそうでしょ。長年行方不明だった息子が生きてたんだから」
フレアの言葉にソウマも頷く。
「あと、父さんは明るく元気な感じかな」
「なんか子供っぽい表現ね……」
「それと母さんはピチッとして少し厳しそうな感じ」
「分かりやすいご両親だね」
ティニアの言にはソウマも同意する。
だが両親二人の気持ちは手紙越しであっても自分への愛が伝わってくるほど強かった。
「楽しみだなぁ………」
ソウマはそうポツリと呟く。
その時、肩のノーラが「ピヨピヨ!」と騒ぎ始めた。
「ん? どうしたのノーラ?」
ソウマが聞くと「ピヨ!」と小さい翼をある方向に指し示す。
そこは串焼き屋の屋台だった。
「あら? そういえばそろそろ昼ね」
「どうするのソウマ?」
ソウマは「まあ一本ずつくらいならいいでしょ」と言って屋台で串焼きを三本買い二人に一本ずつ渡す。
「ムグッ、おお! ここは当たりだ!」
「あら、本当。美味しいわね」
ティニアも手を頬に当てながら「んーっ!」と言っている。
どうやら彼女もこの味はお気に召したようだ。
ソウマはノーラに串焼きを食べさせてやる。
「ピヨピヨピヨ」
ノーラもお気に召したようで凄い勢いで肉を啄ばんでいる。
ソウマはノーラの口の周りについた肉汁とタレをそっと拭き取る。
「さ、行こう」
途中寄り道してしまった彼らではあるがそこからは真っ直ぐ道を進んで行く。
一度軽食という休憩を挟んだからかソウマの心にあった緊張感はだいぶ和らげられ、落ち着いていた。
ティニアはそんなソウマの様子を見ながら考える。
(これからも冒険者を続けられるのかな?)
彼女としては難しいと考える。
彼自身は続けるつもりではあるようだが、彼は貴族の長男であり次期領主である。
ティニアが貴族でありながら冒険者になれたのは彼女が三女という余り立場の強くない所にいたからだ。
しかし彼は違う。
彼の親の判断によっては彼の冒険者生活に終止符がつきかねない。
思わずティニアは沈痛な面持ちをしてしまう。
「大丈夫だよ」
「え?」
しかしそこに声を掛けてきたのはソウマ。
「僕の夢も冒険者だったんだ。だから、そう簡単には諦めないよ」
そう言ってソウマは照れ臭そうに頬をかく。
ソウマは既にティニアの心配を察していたのだ。彼は特段鈍いと言うわけではない。
寧ろ色々と鋭いところがある。
いつもと違う様子を見せ、彼女の立場、そして今自分が向かうところを考えれば彼はティニアの考えることは粗方察することが出来た。
「……うん!」
ティニアはそっとソウマの手に自らの手を重ね合わせる。
レイがこの光景を見たら「お前らまだ付き合ってないのか?」というくらいの桃色空間がそこに広がっていた。
スオンの街中央にある領主邸。
そこには前世も含めソウマの人生上最大の豪邸が門の向こうに建てられている。
普段ならそれを見て簡単の息を吐いたかもしれないが今は違う。
彼は緊張のあまり繋いでいたティニアの手を思わずぎゅっと握ってしまう。
そしてティニアもそれに握り返した。
今から会うのは自らの両親であり大貴族。
手紙上のやりとりしかしていないがそれでも彼等のことを親だと思っている。
彼等のことを手紙のやり取りだけで大好きになっている。
どれだけ彼等と会う夢を見たか。
レイは自分の育ての親である。だが転生者である彼は早い段階で自意識を持ち、そのせいでどこか彼女と自分との壁を作ってしまっていた。
自らの生みの家族と会うのは彼の悲願となっていたと言ってもいい。
門の前には一人の執事が立っている。
髭を上品に切り揃え、白くなった髪をバックに固めている。
黒の燕尾服をピチッと着こなし背は真っ直ぐ伸びていた。
「ご案内しましょう」
何を言うでもなく、ただそれだけを告げて門を開けて中へと入っていく。
ソウマ達三人と一羽はやや固い足取りで、その執事の後をついていくのだった。




