帝国への道 その1
第二章始まります。
主にソウマsideで動いていきます。
街から出たソウマ達御一行は帝国へとその道へ進んでいく。
だがその道のりがそんな波乱万丈に満ち溢れているというわけでもない。道中に厳しい山脈や踏破が難解な迷宮がある、というわけでもないために淡々と変わりない日常を過ごしている。
周りの景色を見ながら楽しむというのも最初の数日は楽しめていたが今ではすっかりそれにも飽きが来ていた。
道路も舗装されているため時々同業者や商人たちの馬車とすれ違う際に世間話をすることが出来るのが今のところの唯一の暇つぶしとなっている。
「なんか暇だな〜」
「そうね〜」
「こら、油断してたら痛い目にあうよ!」
とは言いつつも注意しているティニア自身もそんな彼等の意見には同意しているよう。
「確か次の街に着くのって何時頃の予定だったっけ?」
「多分あと三日くらいで着くんじゃないかな」
ティニアの生家のシルヴェスタ家とソウマの生家のアスタリス家、その二つの家の関係が良好とはいえその距離が近いというわけではない。
彼等が面識を持ったのも王国と帝国の友誼を示すための晩餐会に主だった帝国貴族が王国へと招かれた際が初めてである。
それから両者は時々連絡を交わしたりはしているが、それほど密に取れるという訳ではなく数ヶ月に一度という割合だ。
当たり前のことながらその間にはとてつもなく長い道のりが存在しており街をいくつか経由しなければならない。
「なんか魔物でも出ないかな〜」
「確かこの辺りにある秘境ってティニアのところのが最寄りなんでしょ?」
「そうだよ。けどこの道はあの秘境とは反対側を進んでいるから、魔物は出ないんじゃないかな?」
基本秘境から魔物が出ることはないが、時々群れからはぐれた個体や人間の食料を奪うために秘境から魔物が出てくることもある。
一般人からすればそのような魔物に遭遇すれば命に関わってくるのだが、既に並みの冒険者以上の実力を持つ彼等からすればそれも暇な時の一つの娯楽となる。
「次に商人の馬車とすれ違ったら、何か面白いものを買ったりとかできないかな?」
「うーん、難しいんじゃないかなあ。行商ならまだしも、その街に商品を卸に行くとかだったら売ってもらえないんじゃないかな」
「そうだよね〜」
商人とは信用が命である。
決まった数を卸に行かなければならない時に、その横から割り入るように売ってくれと言われても追い返されるのがオチだろう。
「うーん、みんなで野宿するのも楽しいけど、流石にそれも続くとねぇ。ソウマ、あとどれくらい食料って残ってるの?」
「それなら大丈夫だよ。レイの鞄は中の時間が進まないし、無尽蔵に物が入るから。過剰なくらい持たせてくれてるから、もしかしたら一年持つんじゃないかな?」
「え、あの人そんなに食料持たせてたわけ?」
フレアは少し引きつったような顔をしてソウマのポーチを見つめる。
腰に下がったポーチは小物しか入らなさそうなサイズであるがこの中から出してくる道具にこの旅では何度も助けられている。
簡易テントや水の溢れる水筒をはじめ食料関係でも、獲物が仕留められなかった時はこの中のものを使って過ごしている。
「にしてもレイさんって本当不思議だよねー。あの人って一体何者なの?」
ティニアの問い掛けにソウマも首をかしげる。
「うーん、あんま気にしたことなかったなぁ。基本修行とかその日のご飯のことしか考えてなかったから」
その言葉にティニアは思わずプッと吹き出す。
「私達の街に来てからもそうだけど、ソウマってすごい食い意地張ってるよね」
「そうなの? そういえばそうだったかもね」
「ああ、そういえばフレアってそんなソウマにいつも追随してたね……」
当初は目線で火花を散らした同士ではあるが今ではすっかり親友といっても差し支えない程に彼女たちは仲良くなっていた。
そしてその時から彼等は三人で冒険者活動やら街での露店巡りやらをしていたのだが、思い返してみればソウマが興味を持った料理はフレアも全て食べていたような気がする。
ティニアも幼いとはいえ、貴族の娘として育てられてきた。その為彼女が冒険者になるという表明を出す前までは貴族の娘としての教育を当然のことながら受けてきた。
露店で出されている食べ物に忌避感を示すことは無かったがどうしてもその中に含まれるカロリーを気にして、他二人のように遠慮なく食べるということはできなかった。
その度に彼等が美味しそうに食べるものを羨ましそうな顔で指をくわえながら眺めていたものである。
その顔を見たソウマがその度に毎回一口ずつ分けてくれたのだからティニアとしてもその時のことはいい思い出である。
その光景を見る度に大人組が「青春だな……」と内心呟いていたのは余談である。
「うーん、馬車か何か襲われてて、それを僕らが助けて一緒に乗せてもらうって展開にならないかなー」
「こらっ! ソウマ、不謹慎!」
「あ、みて! あそこ、馬車が魔物に襲われてる!」
「あ、やべ、フラグ立てちった」
フレアの指差す先には確かに馬車が襲われていた。
街道は基本草原に整備されているがずっと草原が続いているわけではない。
ところどころ大小の森が行く手を覆っておりいくつかの分かれ道も存在している。
襲われている彼等はソウマとは違う道を来たご一行のようだった。
「行くよ!」
「うん!」「分かってるわよ!」
馬車が襲われているのは二十体ものゴブリンたちの群れ。
ゴブリンとは魔物の中でも低い位置にいる種類であり、最低がEランク、最高でSSSランクの中でDランクに位置している。
小柄ながらも人族の大人に勝る腕力を持っているが基本直線的な動きなため慌てなければ簡単に対処できる魔物である。
ソウマ達三人は下心満載、だがそれを見た目には出さないように馬車へと寄って行く。
ゴブリンの群れに隠れて馬車の周りがよく見えないが護衛対象プラス馬車を守る為に思うように動けない印象が受けられた。
「助太刀します!」
ソウマ達三人はゴブリンの背後を奇襲する。
ソウマは剣で、ティニアは杖で、フレアは拳でゴブリンをなぎ倒して行く。
「おう! 誰だか知らねえが感謝するぜ!」
ゴブリン達が突然の奇襲に動揺した瞬間を見逃さず彼等もゴブリン達をなぎ倒して行く。
冒険者となるための一つの壁として知られるゴブリンだが二十体もいるとはいえ殲滅にそれほど時間がかかることはなかった。
そしてゴブリン達を殲滅し終えたソウマ達は馬車へと歩み寄る。
そして向こうの護衛らしき冒険者も近づくこちらに気づいたように近づいて来た。
「協力、感謝するぜ! ん、お前は?」
「いえ、困った時はお互い様ですので。あれ、グレンの兄貴?」
その商人の護衛をしていた冒険者はガレスの街でソウマの兄貴分の冒険者の一人、グレン・ドルバだった。
☆★☆
ゴブリンを倒した後、トントン拍子に話は進み、ソウマ達三人は彼等の馬車へと同乗させてもらうことになった。
「いやはや、これは数奇な出会いもあるものですなぁ!」
「いやー、僕もグレンの兄貴に加えてフォットさんと会えるなんて思ってなかったですよ!」
ガレスの街での知り合いとの再会はそれだけで終わりではなかった。
その馬車の持ち主である商人の名はフォット。
マンスが支部長を務めるラーダル商会系列で薬物を主に取り扱っている店の店主だ。
薬物と聞くと危ない香りのする言葉だが勿論合法のものだけである。
彼とはマンス経由で薬草の依頼をこなしていたソウマが彼の依頼をこなした時に知り合ったのだ。
「そうか、お前らももう冒険者になったんだな。俺らも一緒に見送ってやらなくてすまなかったな」
「すまなかったな!」
「ヒャッハー!」
グレンの取り巻き達の相変わらずの世紀末っぷりにソウマ達は思わず苦笑してしまう。
グレン達は普段三人でパーティを組んでおり長期の依頼としてフォットの護衛を数ヶ月前から務めていたそうだ。
その為タイミング悪くガレスの街の送別会とも言える騒ぎに参加できなかったのだが、ここで出会えたのも何かの運命の働きかけがあったのかもしれない。
ソウマは自分よりも遥かに上のランクに着く冒険者である彼等を見る。
グレン自身はBランクの凄腕冒険者でありその取り巻き達もCランクとソウマ達よりもだいぶ上のランクである。
グレン自身もBランクの冒険者の中でも実力が上の方でありAランクへの昇格も近いのではないかと噂されていた。
ソウマは彼等と初めて出会った時に思わず恐怖でレイの背中に隠れてしまったことを思い出す。
何故なら彼等の見た目がすごく怖かったからだ。
グレンこそ格好は普通の冒険者っぽい皮鎧を着込んだ格好ではあるがスキンヘッドに頭から顔にかけて刻まれた切り傷がその強面に拍車をかけている。
その取り巻き達もグレンと同じような筋骨隆々の体にトゲ付きの肩パッド、それに加えてなぜかモヒカンである。
もはやそこら辺の盗賊よりも悪人っぽい面をしている。
だがその見た目に反して彼等はとても人望がある。
最初こそ、その見た目で警戒されるか怖がられるかの二択であるが彼等の噂に悪いものは一つ足りともない。
ただその表情の一つ一つが異様に怖いだけである。
今も彼等はしみじみと久々の再会を噛みしんでる表情をしているのだが、その表情も悪巧みしているようにしか見えない。
「どうだ! ここであったのも何かの縁! 久々に稽古をつけてやろうか!」
「お願いします! 兄貴!」
『兄貴』の名で親しまれることの多いグレン。
その他に漏れずソウマも彼のことを兄貴と呼び尊敬している。
「じゃあフォットさん。ちょっと休憩がてらこいつに修行見せてやってもいいですか!?」
「ええ、ええ、構いませんとも。今しがた襲われたところで商品が無事か確認もしたかったところなのです。ここにいる全員知らない仲ではありませんから。お嬢さん方はどうしますかな?」
「私達はソウマの修行を見守ってるわ。てか私達も修行つけてくれないかしら?」
「おお、いいぜぇ!」
「やるかヒャッハー!」
彼等は双子らしく似た顔似た格好で大きな片手斧を振りかざしている。
その側では既にソウマとグレンは剣を交えていた。
「おお! ちょっと見ない間にだいぶ腕を上げたな!」
「もちろん! けど、兄貴まだ余裕綽々だね!」
「当たり前だ。お前と違って魔法を俺は使えないからな。剣でそう簡単に負けるわけにゃいかねえよ!」
ソウマは防戦一方、グレンの剣をなんとか捌けているという感じだ。
グレンは剣、双子世紀末の二人は斧とそれぞれ違う武器ではあるが彼等の戦法はとても分かりやすい。
それはその怪力による力押しだ。
もちろんそこに技術がないわけではない。しかし彼等にとって中途半端な技術よりもその怪力による力押しの方がある程度効果が高く見込めるのである。
この戦法はソウマとの相性がとてもいい。
ソウマは相手と戦う時、基本防御に関しては力ではなく見極めによる受け流しを主に用いている。
しかしそれがグレン達を相手にするとなると、一つ一つの動きが素早くなおかつその手にかかる負担が半端じゃなく重くなり、消耗が激しくなる。
そしてグレンは攻撃しつつもそのコースによってソウマの攻撃のチャンスを尽く潰してくるのだ。
ソウマは力尽きパタリと地面に倒れる。
「ハァッ、ハァッ……」
「ガッハッハ! 中々に強くなったな! だが、もうちょい力が欲しいとこだな! それだけで色々変わってくるはずだ!」
「あ、ありがとうございます……兄貴……」
ここの所レイにも負けてグレンにも負けて、負け続きばかりなので少し自信を喪失してきた。
ソウマ自身、魔法を含めて考えれば彼をも倒すことが可能なのだが、彼は見た目のデカさに似合わず素早い。
上級の冒険者は大体そうだがただ強い魔法を使えるだけで倒せるほど甘くはない。
もしかしたら魔法ありでも負けるかもしれないことを思うと精進を続けなければ、と己を奮起させた。
「お前ならうちの奴らとも一人で互角に渡り合えるだろうよ」
そう言ってグレンはチラリと横に目をやる。
ソウマもその方向に倒れながら首だけそちらへと向けた。
フレアとティニア、そしてグレンの取り巻き二人の戦闘はまだ続いていた。
双子の彼等は連携攻撃を得意としており、その見事な連携は長年連れ添った熟練冒険者のパーティであっても思わず唸るほどの連携を見せている。
だがそれに負けじとティニアとフレアも食らいついていく。
フレアは精霊なのでその身体能力は使用する魔力に比例して変化する。
無尽蔵に使えるわけではないがその変化効率は生身の人間と比べ物にならないほどの力を発揮する。
ティニアはそれを補助する形に回っているが彼女は本来は後衛なので少し動きがぎこちない。
だが近接ができて損することはないのでこれを機会にいろいろなことを学ぼうと思っているようだ。目を使って相手がどのように動いてくるかを見極めている。
取り巻きの彼等もフレアの力には舌を巻き、ティニアも時間を重ねるごとにどんどん腕前を上げていくことに感嘆も見せたが、それでもどこか余裕を見せていた。
最後にはティニアが力尽きて倒れて模擬戦が終了した。
「おう! フレアちゃんは中々に力強いな! だがもう少しフェイントとかも混ぜていったほうがいいぞ! 避けられれば倒せるものも倒せなくなるからな!」
「ヒャッハー! お嬢はまだまだ基礎がなっちゃいねえ。だが、筋はとてもいいぜ! 思わず嫉妬しちまいそうだったぜ!」
『ありがとうございました」
「あ、ありがとう、ございました……」
フレアは息を乱さず、ティニアは息も絶え絶えにしながらお礼の言葉を述べた。
「大丈夫、ティニア。『治癒』、ハイ」
「ありがとう、ソウマ」
ソウマはティニアの疲労を魔法で和らげ手を差し出す。
ティニアは幾分か軽くなった体を確かめながらソウマの手を取り引っ張られ立ち上がった。
「ま、総評としてはお前らの才能は並みじゃねえ、これからも精進すればどこまでも昇っていける! だな!」
「「そうだゼェ! (ヒャッハー!)」」
ガハハ笑いがとても禍々しい。
だがそれに慣れている今の面々はとても晴れやかな表情をしている。
彼等にとっても今の模擬戦は多くの学びを得られ、尚且つ飽きが差していた道中の息抜きにもなった。
さらに馬車にも同乗させてもらうことになっているのでまさに至れり尽くせりな状況だった。
「皆さま、終わりましたか?」
「あ、フォットさん。休憩ばかりかわざわざ乗せてもらうことになって、ありがとうございます」
馬車から荷物の無事の確認をし終えたフォットが降りてくる。
その表情を見る限り魔物に襲われた際に紛失、或いは損壊してしまった物がなかったことがうかがえる。
ソウマはそんな彼に頭を下げながらお礼を言った。
「いえいえ、いいのですよ。旅は道連れとも言いますしね。それにソウマ殿には色々と薬草の融通もしてもらってますから」
フォットはそんなソウマの行動を微笑ましく見守りながらそう言う。
「さ、休憩はもうよろしいですかな?」
「「「はい」」」
「「「おう!」」」
その場の六人が大きくそれぞれ返事をする。
「では、参りましょう。魔物が出たことで匂いを嗅ぎつけてくるモノもいるやもしれませんからな」
そして各々馬車の中に乗り込む。
グレンは馬車の後尾につき、双子は先頭、屋根の上をそれぞれ陣取る。
何者かに襲撃されてもすぐに対応する為だ。
何時間かの交代で警戒をすることをグレンとソウマの間で決め、それを全員が了承する。
そうして彼等は一路、帝国へと進路をとるのだった。
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