精霊
4日連続投稿です。
目がさめる。周りを見渡す。そこには見渡す限りの木、木、木。端的に言って一度も見たこともきたことがない場所だった。
「……んー? 此処は、何処なのかしら?」
彼女、フレアは戸惑っていた。
彼女は所謂精霊と呼ばれる存在、しかも高位の大精霊と呼ばれる存在である。
精霊とはこの世の属性を司る存在のことでありその体は魔力で作られている。
そのため同じ魔力より生まれた魔物と似て非なる、対となる存在であり相互不干渉を保っている。
精霊というものは基本自らの属性にあった場所に住み着く。
例えば水の精霊であれば水辺、土の精霊であれば洞窟、火の精霊であるフレアでいえば火山などである。
そんな精霊である彼女はつい先日精霊としての位階が上がり大精霊へと至ることができた。
それに浮かれて飛び回ったはいいものの見境なく飛び回ったせいで彼女はよくわからない森の中にまできてしまった。
「まあ、いいわ。とりあえずこの辺りを散策しましょうか!」
しかし好奇心旺盛なフレアは余り一定の場所に留まるということをしなかった。
そのためこのような状況でもあまり悲観的にならずに対応できたとも言える。
「それにしても、此処らへん魔力がものっすごい濃いわね〜。いったい何処なのかしら?」
フレアはとりあえずそこら辺をフヨフヨとさまようことにした。
☆★☆
レイ達がティニアの屋敷に訪れて数週間ほどが経った。
その間何か特筆すべきこともなく代わり映えのない日々をレイ達は過ごしていた。
その日昼食を終えた後、レイはソウマに自主練習を言い渡していた。
午前の座学、去年に一般常識や世界の地理などを教え終わった時からそれは無くなり体術及び剣術、槍術の修行へと変わっていた。
そして午後はソウマに魔法の研鑽を積むべく課題を言い渡していた。
今は魔法の同時発動を成功させるべくソウマは日々修行に取り組んでいた。
そしてレイはソウマにつきっきりで修行をすることは少なくなり今は彼の自主性に委ねている。
今は質問や疑問があった時にソウマがレイに聞きにくるくらいだ。
そしてレイは今、自室にて読書に没頭している。
しかし結界の僅か外側にていつもと違う気配を感じ取った。
(ん? この気配、精霊か? それも大精霊……)
普通の精霊であれば見逃してしまったかもしれないが位階の高くなった大精霊を見逃すレイではない。
(それも火の属性……ソウマと相性がいいな)
そしてレイの結界の内部、そして外部両方には森が広がっている。
その中に濃密な火の魔力を発していればかなり目立つ。
そして現時点でソウマが最も得意とするのも火の魔法、そこでレイは一つあることを思いついた。
(こちらに向かってきているな…結界に一部、穴を開けておくか。今のソウマなら精霊の気配に気づくこともできるだろう)
普段であれば決してやらないことをレイはやる。
それが可能とするのは精霊あってこそ。今レイは結界に穴を開けた。いつもならその穴から中に侵入しようとする魔物が出るが、大精霊がいるその付近に魔物は近づかない。
無論、その大精霊が中に入った瞬間に結界の穴は閉じるつもりである。
(さてさて、ソウマは大精霊と契約できるかな?)
魔物はヒトを襲う。しかし精霊はヒトを襲わない。
それは何故か。その理由はその身の強化させる過程にある。
魔物は他者をくらい魔力をその身に取り込むことで強くなる。そしてその身には実体がある。
精霊は自然界に存在する魔力を取り込むことで強くなる。そしてその身には実体がない。
しかし魔物と精霊、この二つの存在は違うようで似ている。両方とも魔力から生まれる、この点においては両者は共通している。
同じものから生まれた彼ら、しかし真逆ともいえる生態が故に干渉し合わない。例えとしては適切ではないが同族嫌悪がそれに近い。同じであるが故に近づかない。
その為レイが少しの間結界に穴を開けてもその近辺に精霊がいれば魔物達が近づくことはないのだ。
そしてレイがソウマを精霊と遭遇させようとしているのはもう一つの共通点にある。それはヒトが魔物、そして精霊と《契約》が出来るということである。
《契約》とは人と魔のつながりのこと。
魔物は自らを上回る強さを見せつける、精霊には自らの価値を認めさせる。
例外はあるがこの二つに共通すること、それは契約した対象と主人は共に成長し生きていくということ。
もちろん契約をして弱くなることはない。
基本魔物も精霊も最下級であったとしてもヒトの基本のスペックを上回る。それが時によっては一生涯自らの味方となって生きていくのだ。
そして契約、それは一種のロマンであるのだ。
☆★☆
「ん? これは……」
胡座をかきながら魔法の修行をしていたソウマ。
今彼は片方の手に小さい火の玉を浮かべもう片方の手にも同じように火の玉を浮かべるべく悪戦苦闘していた。彼の魔法には重大な欠陥が未だ残るもののその魔力操作技術は並の魔法使いを上回るようになっていた。
しかし彼は突如感じた気配に思わず手に浮かべていた火の玉を消してしまう。
ソウマが感じたのは濃密な魔力の気配。
この孤独の島に満ちる魔力はとても濃密である。
それは例の結界に守られたこの土地も例外ではない。
そして彼はガレスの街に訪れるたびに実感する。この島の魔力はとても濃密だということを。
魔力の感知は魔法士の必須技能と言えるものである。彼は十歳ながらにして並の魔法師よりも高い感知技能を有していた。
しかし並より高いとはいえ一流には到底及ばない。
半端な魔力ではこの島の魔力に紛れて感知できなくなってしまう。
しかしそれでもなおはっきりと感知できる圧倒的な火の魔力。
彼は火の魔法が何よりも大好きである。
理由は単純。派手でかっこいいからだ。
常人であれば恐怖するであろうその魔力。しかし彼はもっと上を知っている。
それはレイだ。彼女はこの世界で全てを含むトップの一角を担っている。
彼はその魔力に恐怖はしない。しかし彼はその魔力に多大なる畏怖と敬意を持つのだった。
「行ってみよう」
転生者で同年代の人よりも精神年齢が高いとはいえ元は魔法のない世界から来た日本人である。
その好奇心はとどまることを知らなかった。
しかしてソウマは疑問に思う。
興奮して勇み足で目標に向かうはいいものの“それ”が結界の内部にいるということが気にかかった。
レイの結界の強度はこの世のものとは思えないくらいのものだ。
この蠱毒の島の逸話は様々なものが残っている。しかし数多ある逸話のそのほとんどがこの島についての畏怖と恐怖が込められている島だ。
数年前に一度レイが魔法のデモンストレーションをする時にこの島の魔物を見た事があるがその恐ろしさは並のものではなかった。
それでもあの魔物はこの島でも格下の方だという。
ソウマはそんな魔物たちから守っているこの結界に何者かが侵入できるとはとても思えなかった。
「レイに何かあったのかな?」
しかしそれは何か違う気がする。
それにあのレイに対処できぬ事があるとはあまり思えない。それならなおさら今自分が興味本位でそこへ向かうというのは自殺行為もいいところだろう。
(けどやっぱ、気になるものは気になるよね)
それにレイが何も言ってこないということは何も問題がないか、自分で対処しろということなのだろう。
今までの経験則でソウマはそう判断する。
結界の内部はかなり広い。
しかしこの数年でさらに鍛えられたソウマは体力も大幅にアップした。
場所がわからないならまだしも、場所がわかっていてなおかつそこに直線で向かえればそれほどの時間はかからなかった。
「あれ、なんだろう?」
木の陰からこそ〜っと魔力の反応の根源へと目を向ける。そこにはソウマと同年代ほどの赤い少女が横たわっていた。
見た感じ眠っているようである。胸が規則正しく上下していた。
ここからは顔が見えないがどう考えても魔物ではないということがわかる。中には人に化けるような魔物もいるというがレイが知る限りそのような魔物はこの島に存在しないというのでその線はほぼ消える。
ソウマはとりあえずその少女に近づく。
未だにスースーと寝ているその顔はどこまでもあどけなく警戒心のカケラも無かった。
(どうして女の子がここに?)
見た目同年代。しかしその身体から発せられる魔力は絶大なものである。そしてその見た目。ギャップの違いも甚だしかった。
ぺち、ぺち、と少女の頬を叩く。
唸るような声で寝返りを打った。
起きる様子のない少女にソウマはいよいよ困った顔をし始める。
「おーい」
「ん、んぅ……」
声を掛けるが目の前の少女はまた寝返りを打つだけ。
(困った……)
彼女の正体というかいい加減起きて欲しいのだがなかなか起きてくれない。そして見た目が見た目なだけに手荒な真似もできない。
少女の目がパチリと開きむくりと起き上がる。
「ふあ〜あ……よく眠ったわ!」
「……」
急に起きて急にハイテンションな少女にソウマは困った顔のままフリーズしてしまう。
「あら? あんた誰?」
「いや、こっちの台詞なんですけど」
そして起き抜けに自分の台詞を取られたことにさらに唖然としてしまうソウマ。
「えっと、僕の名前はソウマ。君の名前は?」
「知らない人に名前を教えるわけがないじゃない」
言っていることは最もである。しかし状況が状況なだけにソウマは少しイラっとする。
「ま、まあ名前はいいから、どうしてこんなところにいるの?」
「てかあんた誰よ?」
今度は話自体をスルーされる。「こちらの台詞だ」と言わなかったソウマは自分のことを褒めていいだろう。眉がピクピクとなるのを堪えながら彼女の問いに答えを返す。
「僕はここら辺に住んでいるんだよ。ていうか家もすぐ近くだし」
「ふーん。てかここ何処?」
「……はぁ」
最早返すのが面倒くさくなったソウマは溜息をつく。それを見て名も知らぬ目の前の少女はムッとした顔をする。
「何よ! ため息なんて失礼じゃない!」
「だって会話にならないじゃん……」
ソウマは最初の好奇心は何処へやら、すっかり家に戻りたくなっていた。
「じゃあ僕戻るね」
「ち、ちょっと待ちなさいよ! てかここ何処よ?!」
「……ちゃんと僕の話聞いてくれる?」
それでやっと目の前の少女は「わ、わかったわよ」と言って静かにしてくれる。
「じゃあ君の名前はなんていうの? さっきも言ったと思うけど僕の名前はソウマって言うんだ」
「ふん、私の名前はフレア。誇り高き火の大精霊よ!」
「はぁ………ハッ?!」
ソウマは(フレアって名前なのか)と心の中で呟いた後、その後に続いた信じられない言葉に思わず彼女を二度見する。
フレアはそんなソウマを見てふふん! と満足そうにしていた。
「だ、大精霊って、あの……」
「そうよ! その大精霊よ!」
ソウマは余りの発言に信じられなくなってフレアを訝しげな目で見つめる。
「あ。あなた、その目は信じてないわね?」
「いや、信じられないっていうか、うーん」
「いいわよ! だったら私がすごいってところ見せてあげる!」
フレアは立ち上がりソウマが先ほど指し示した方とは反対側、つまりはレイの屋敷の反対方向へ体を向ける。
「ところで、ここら辺に魔物っているかしら?」
「えっ? うんいるにはいるけど、結界の外だよ?」
「結界?」
「うん。ほら空を見て。うっすらと見えるでしょ」
レイの張る結界は普通に見るだけならただ透明なだけで見ることが難しいが見えないわけではない。ずっと見つめ続ければ違和感を覚える程度には見ることができる。
「あー、本当ね。しかもかなり強力な結界ね」
「うん。レイっていうんだけど僕の師匠がはったんだ」
「ふーん、あなたの師匠ってかなりやるのね」
「うん。けど色々と謎な師匠だけどね」
「そうなの。じゃ、早速結界の外へ出るわよ!」
「やめて! ていうか出来ないよ!」
フレアの手を掴み静止しようとするソウマにフレアはムッとした表情になる。
「なによ! あなたは私の実力があなたの師匠に劣るっていうの!」
「そうだよ! ていうか外に出たらダメだって!」
「カッチーン!」
フレアはソウマの自分の師匠よりフレアの方が劣ってる発言にカチンときた。というか言った。
「それなら私が凄いってとこ見せてあげようじゃない!」
そしてフレアの腕を掴むソウマの手を逆に握り返す。
フレアは少々はっちゃけてはいるが見た目はかなりの美少女である。いきなりのフレアの行動にソウマは一瞬驚きとともに力を緩めてしまった。
しかし今回はそれが仇となる。
「じゃあ行くわよ! ソウマ!」
「あ、しまった! 待って! 僕まで連れて行かないでぇーーー!!」
ソウマの身に突如感じる浮遊感。
彼はがっくんがっくん揺さぶられながらも何とかフレアの方へと目を向ける。
そして目を見開き驚愕した。
「え、浮いてる!?」
「当たり前じゃない。精霊なんだもの」
よくよく見れば体も透けるようになっている。
今の彼女を見たらどこからどう見てもヒトの体のそれでは無かった。
樹々の間を縫うように飛ぶフレア。ソウマはそれに引っ張られ地面に足がつくこともできずにいるが間一髪樹にはぶつからないで済んでいた。
彼女なりの配慮なのかもしれない。ただ鼻先すれすれでぶつかりそうになるということが連続で起こるという悲劇にソウマの心は恐怖で悲鳴をあげていた。
「あれが結界ね!」
「え、マジでやるの? 止めてーーーっ!!」
涙を宙に飛ばしながら絶叫するソウマ。しかし懇願するも届かず。
結界がみるみる迫って行く。
「行っくわよーー!」
空いている左腕をかざしその腕に業火を纏わせる。
「パーンチっ!」
フレアはどこか気の抜けるような名前を叫びながら拳を結界にぶつける。
ガンッと硬い音が鳴る。それと同時に指向性を持った爆発が拳から結界に向かって放たれる。ほぼ耳元で鳴るような爆音に耳がキーンと鳴るソウマ。
目をくるくるさせ頭がしっかり回りきらない。しかしその耳にははっきりと何かが割れるような音が聞こえてきた。
「ま、まさか…」
ピキピキという音とともにフレアの拳から放射状に罅が広がって行く結界。それを見てソウマは信じられないという目をする。
「う、うそん」
「はっはーー!! 私のパンチを防ごうなんて百年早いわね! 行くわよ!」
「え?! 行くって、ちょ……やめてーー!!」
フレアは外に向かって走り出す。ソウマの手を掴んだまま走り出す。
またがっくんがっくん揺られながら涙を溢れさせ悲鳴を森に木霊させるソウマ。
そんな彼の悲鳴がフレアに届くことはなかった。
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