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ギルド

 

 修行が始まって二週間、レイとソウマの師弟はガレスの街へと訪れていた。

 相変わらずヒトが多い。その人口の多さに以前は驚いていたレイ。だが二回目ともなればそれにも慣れてくる。だが元々そんなに人混みが得意な方ではない彼女は少しげんなりしながらフードを深く被り直した。

 しかしソウマはレイとは違い以前と同じようにはしゃいでいる。たかが一度来ただけではソウマの感じた感動は薄れないらしい。


(それとも、一度来たが故にもう一度くるのがそれだけ楽しみだったのかな?)


 そんなレイの元に全身からキラキラした楽しいですオーラを発しているソウマが近づいてくる。

 そしてレイを見上げながら「この街に来るのは二度目だね!」と言い、レイは「そうだな〜」とどこか伸びた声で返事を返す。


 ソウマがどこか期待するような目でレイを見つめる。レイはそれを見てわかっていると言わんばかりに笑いながら頷いた。


「よしっ、じゃあ早速約束通りギルドに行くか」


「うん!」


 レイは聞くつもりもないが、もしレイがソウマに「異世界に転生して一番嬉しかったことはなんだ?」と聞かれたらこう答えただろう。


「冒険者ギルドが実在したことだ」と。



 以前レイはソウマと初めてこの街に来た時に、次来るときは彼を冒険者ギルドへ連れてくるという約束をしていた。ソウマは今日という日をそれは楽しみにしていた。普段の修行が終わった後の疲れ切った夕食の時間でさえどこからその元気が出るのか? というくらいにギルドへの熱意を語っていた。

 レイの書庫にある過去の冒険者の英雄譚を読んで余程その話に強い憧れを持ったらしい。彼は常々ギルドへ行ってみたいな、とこぼしていた。


 レイはそんなソウマとの約束を果たすべく冒険者ギルドへと足を進める。

 雑多な人混みにレイが少し顔を顰めるがすぐに戻す。幸いソウマは冒険者ギルドへ行けることへの興奮でこちらに目もくれていなかったので気づかれていなかった。

 ハア、とため息をつきレイは愚痴る。


「もっとヒトが少ない街にすればよかった……」


 だがヒトが多いからこそ栄えてる証でもあり、そういう街を弟子のためにチョイスしたのだからある意味自業自得である。

 それを理解しているためその一言を最後にソウマの後ろをついて歩いていった。


 因みに冒険者ギルドまでの道はレイがこの街に入る際に門番から聞いているため問題ない。




 この街にある冒険者ギルドはこの街のほぼ中心にある広場に建てられている。


「む? あれじゃないか?」


「うん? あー、確かに見ればわかるね」


 レイは門番に広場へ行ってパッと見ればわかると言われていて半信半疑であったがレイ達二人はその建物の様相と出入りするヒト達を見て納得した。

 看板に冒険者ギルドとでかでかと書かれ色んな格好をしたヒトが出入りしている。

 そしてそれに加え建物もでかかった。レイの屋敷ほどではないにしろ以前訪れたマンスの商会の建物くらいの大きさはある。

 ソウマはギルドにたたたと近寄り両手を挙げて「おーっ! でかいね!」と騒ぎ出す。

 ソウマのその無邪気に喜ぶ姿は冒険者に憧れる子供そのものでレイも含め周りはその光景を暖かい目で見つめていた。


「ふむ、確か冒険者ギルドには登録できる年齢手前でも体験がてら簡単なものなら受けれるというぞ」


 レイは昔の記憶を掘り起こす。ギルドは創立当初から変わらない規律を誇りとしているので今もそれは変わっていないだろうと確信してのことだ。


「そうなの?」


 案の定ソウマは期待するようなキラキラした目でレイを見つめる。あ、これは受けたがっているな、と半ば確信したレイは仕方なさそうにソウマの頭をぽんぽんと叩く。


「はいはい、じゃあ入るか?」


「うん!」


 そうして二人は冒険者ギルドへと足を踏み入れた。




 二人は冒険者ギルドの中に入りおもむろにその足を止める。冒険者ギルド、外から見てもでかく感じたが中に入るとさらにでかかった。

 ここは酒場と併設されているらしく昼間ながらに酒を飲む者や真面目そうな顔で話している面々が丸テーブルを囲むように座っている。

 酒場がある分奥行きが広く外観だけではわからない広さがそこにはあった。

 これにはレイもあっけに取られた。レイの記憶ではギルドは騒々しいものではあったが決して酒場などが併設しているものではなかった。酒精の香りがツンと鼻に届く。

 そしてソウマはある意味イメージ通りのギルドにだいぶおかしいくらいにテンションが上がっている。今はただ、はわ〜と口を開け目を輝かせているだけだがたがが外れればそのまま奇声をあげながらそこら辺を走り出しそうな勢いだ。少し危ない。


「ふむ、受付は奥にあるのか。厨房は何処に、ああ、隣の建物とも連結してるのか」


 レイは初めて見る酒場併設型の冒険者ギルドを興味深く見渡している。レイは酒場が隣の食堂と繋がっているらしくそこの厨房からこちらへ料理が運ばれているのを見た。レイは感嘆のため息を吐く。


「しっかし、こんなことよく出来たな」


「んー? そうだねー」


 ソウマがよくわかってない風に返事をする。実際あまり興味がないのだろう。ソウマの目は既に前方へと移っている。彼は受付に並んでいる冒険者たちの列に興味津々のようだ。

 レイはそれを見て苦笑する。


「(普段はあまり世話をかけない良い子だがこういうところは年相応だな)ふふっ、並ぶか?」


「いいの?」


「悪いわけがないさ、何事も経験だ。並ぶぞ」


 そう言って二人は数ある列のうちの一つへ進む。それなりに混んでいるためソウマははぐれないようにレイのローブの裾を掴む。


「おい、そこの姉ちゃん!」


 が、そこで横手から声が掛かった。二人は足を止めて声のかかった方へと向く。

 そして何故かソウマはレイのローブの裾を離し「すわテンプレか!?」と構え出す。

 声をかけてきたのは椅子に座りジョッキを片手に持ってグデングデンに酔っているマッチョなおじさんだった。見ようによっては悪人ヅラに見えないこともない顔をしている。


「おお! 綺麗な姉ちゃんじゃねえか! どうだ、こっちで一つ酌を・・・」

「バカ野郎っ! 飲み過ぎだ! スンマセンね・・・」


 真っ昼間からデロンデロンに酔っ払った冒険者が立ち上がってレイに絡もうとする。が、すぐにその相方らしき男がその頭を叩きレイに即座に謝罪した。

 頭を叩かれたその男は机に倒れ伏し、いびきをかき始める。


「いやいや、気にするな」


 潰れた相方を肩にかけ彼らはその場から退散していく。

 何故かソウマがビシッと身構えていたのにレイは怪訝な顔をしたが気にしないことにする。

 彼女はフードを深くかぶり直しながら「ほら、行くぞ」と言って未だに身構えているソウマの背を叩き先を促す。

 ソウマは何事もなく終わったのを見て「あれ? テンプレは?」と呟いていたがレイにその言葉は届かなかった。


 ソウマは今この場が夢にまで見たギルドということを思い出しすぐさまレイの後ろを追いかけた。



 レイ達二人は幾つかある列の内の一つの最後尾に並ぶ。


「意外と進むの早いね」


「そうだな、受付嬢が優秀なんだろう」


 ソウマは少し列からずれて前の方を見る。

 今ソウマが並んでいる列を担当している受付はてきぱきと手際よくしながらも笑顔で対応している。

 さすがプロの手際といったところだろうか。


「お、坊主はギルドに来るのは初めてか?」


 ソウマたちの前を並んでいた冒険者に声をかけられる。

 前をまじまじ見ていたのが気付かれたらしく、ソウマは少し気まずそうにする。


「えーっと?」


「ああ、別に気にしなくていい。ただ気になっただけだ」


 少し怯えられたのだと思ったらしくその男は苦笑しながらそう言う。

 見た目はなかなかに悪そうな顔をしているが中身は普通に優しいらしい。


「ああ、すいません。ギルドに来ること自体が初めてで、その……」


 何気にレイ以外とまともに対話をしたことのなかったソウマは少ししどろもどろになる。

 レイはそんなソウマの頭の上にポンと手を置き代わりに返事を返す。


「すまないな。この子は私の弟子なんだが、人里離れたところに私は住んでいてな。こういうところにあまり慣れてないんだ」


「へー、そうなんだな。弟か何かで?」


「いや、拾ったんだ。この子の親はいずれは探そうとは思っているんだがなぁ……」


 男はその言葉を聞き少し同情を込めた目でソウマを見るがソウマは特に気にしてないですよと苦笑する。

 レイがソウマの実の親でないということをレイはソウマに伝えてはいないが過ごしていれば何となく察することはできる。

 ただソウマも母親という存在に飢えてはいたが悲しんだりはしなかった。膨大な蔵書量を誇る書庫とレイと過ごす日々は楽しく寂しさは一切感じなかった。ソウマにとってレイは謎が多い存在だがこの世界における母親だと認識している。


「おっと、もう俺の番か。じゃあ坊主また縁があればどこかでな」


「うん!」


 今ソウマ達と話していた冒険者は依頼を受けるために来たらしく、受付と幾つか話してから依頼を受けた後ソウマに軽く手を振りながらその場を去っていった。ソウマもそれに手をふり返す。


 そしてソウマ達の出番になる。


「おまたせいたしました! 本日はどのようなご用件で?」


 大衆が利用する場の受付を担当するだけあって受付は美人な女性が勤めている。

 受付嬢は持ち前の明るい笑みでソウマたちに丁寧に対応をする。それを見て若干人見知りを発動させたソウマだがレイに背中を押され何とか平静を取り戻す。


「あ、あの、僕でも何か出来ることがあると聞いて……。何かありますか?」


「あら〜、僕? 何かしてくれるの?」


 あまりにも漠然とした問いだが受付のお姉さんはそれに気分を害することなくソウマにそう話しかける。

 彼女は目線を近づけるためにソウマに顔を近づけた為、彼は少し顔を赤くするがすぐさま元気に返事を返す。


「は、はい! 僕、冒険者に憧れてて、それでお試しでも何かしたいと思いました!」


「そうなの! じゃあね〜、これなんかどう?」


 受付嬢はソウマのまっすぐな言葉に好印象を受ける。これは彼の元来の性格なのか、保護者らしき彼女・・の教育の賜物なのか一瞬気になりチラッと目の前の少年のすぐ後ろに立つフードを深くかぶったその顔に視線をやるがすぐに視線を元に戻す。

 そしてテーブルの下にしまってある幾つかの紙をガサガサと探りその中から一枚の紙を取り出す。


「えーっと、『薬草採取の依頼』?」


「そうよ。常時依頼で正規の冒険者が受けるものなのだけど、それを子供達にも小遣い稼ぎのために受けれることになってるのよ。まあ、これは街の外に出なくちゃいけないやつだから保護者同伴必須だけどね」


 彼女はチラッとレイの方を見てレイが頷いたのを確認し最後の行程に移る。


「じゃあ、最後に冒険者の仮登録をしなくちゃならないんだけど、いいかな?」


「え、えっと?」


 ソウマがチラとレイの方へ視線を向け登録してもいいかと目で訴えかける。

 レイは「もちろんいいぞ」とソウマに返した。


「では発行料として銅貨五枚を頂戴します」


 レイは袋から銅貨を五枚取り出し受付嬢へと渡す。


「はい、丁度ですね。そういえばお名前はなんでしょうか?」


「あ、はいソウマです」


「ソウマですね。少々お待ちを」


 そう言って受付嬢は一旦その場から離れ奥へと行ったがすぐにこちらへ戻ってきた。

 そしてその手に持っているカードをソウマに渡す。


「はい、こちらがカードです。まだ未成年のため正式な発行はできませんが幾つかの依頼をこなせばギルドに登録するとき自動的にEランクからのスタートとなります」


「おー! そうなんですね!」


「はい、そうです。申し遅れましたが私、アリアと申します。以後お見知りおきを」


「はい! よろしくお願いします!」


 ソウマは元気に返事をする。

 その様子にアリアは思わずフフッという笑いをこぼした。


「ではご武運を祈ります」


「はい! ありがとうございました!」


 アリアは丁寧なお辞儀をしてソウマ一行を見送る。

 ソウマはいつもよりらんらんと今にも飛び跳ねそうな勢いでギルドを出て行く。

 レイは最後にアリアに会釈してからそんなソウマの後ろを追っていった。




 ☆★☆




「ね〜、レイ。薬草ってどこで取れるの?」


 道を歩きながらソウマが尋ねてくる。

 勢いで飛び出したはいいものの薬草の存在は知っているがどんなものかまでは彼はよく知らない。


「ん〜、まあとりあえずは外に出てからだ。そこで色々教えてやる」


「さっきの門から出ればいんだよね?」


 ソウマの言葉にレイが「別にそうでなくてもいいぞ」と返す。

 薬草は別に一種類ではない。種類によっては森の中やなかには荒野地帯にしか生えていないという物もある。逆に言えばそこら辺に生えてる雑草の中にも薬草に分類されるものもある。

 今回の依頼は“薬草”の採取。特定のやつを取ってくる依頼ではないため外へ出て少し探せば薬草自体は見つかる。

 ソウマは先ほどの紙をよく見ていないため気づいていないが下の方の注意事項に『採取した物によって値段の変動があり』と書いてあった。

 そう書いてあるということはそこら辺で取れる薬草でも端金程度しか稼げないモノでも依頼を完了することはできる。

 そういう意味を込めての先ほどの返事だったのだが見る限りソウマ自身は気づいていないらしい。

 これは後で注意しとかなければいけないな、とレイは思った。もし冒険者になって依頼の読み落としなどがあったらそれが致命的なミスになりかねない。


「出る門にはこだわらなくていいし、先ほどの所からでも大丈夫だが、折角だし他の門から出てみるか?」


「他のとこでも取れるの?」


「薬草というのは大体どこでも取れる。見分けに少しコツがいるだけだ。それこそ街中にもたまに生えてたりするからな」


「へ〜!」


 ソウマは意外そうな声を出す。

 そこでどこでもいいという言葉にソウマは少し考え込む。


「僕たちが出入りしてる門ってどこ?」


「ん? んーと、確か南の門だ」


「んー、じゃあ北で!」


 ソウマは自分たちが出入りしている門の真逆を選ぶ。レイが「何でだ?」と聞くと「なんとなく」という答えが返ってくる。

 至極もっとも。見知らぬ土地でどこから出ようか考えても無駄だしな、とレイも納得した。


「よし、じゃあ北の門へ行くか。こっちだソウマ君」


「うん!」


 そう言って二人は先ほどから来た道とは真逆の北の門へと続く道を歩いて行った。




誤字脱字や文章の違和感などの指摘大歓迎です。

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