ソウマの修行初日
今日は二話投稿します。
この話はつなぎ、説明会のようなものですがさらっと目を通していただけるとありがたいです。
ガレスの街から帰ってきた日の翌日。
レイとソウマの二人は朝露の滴る時間帯から外へ出て活動していた。
日が完全に登りきっておらずまだ仄かに薄暗い。ソウマはそんな中で涙目で動き回っていた。
それはもう必死にーー
「ちょっ! まっ! レイっちょっと待って!」
「いいか、ソウマ君。魔法というのはイメージだ。イメージをする前段階としてどの魔法がどのようなものかを知る必要がある。つまりだ、魔法をくらいながら回避の練習、これ即ち一石二鳥」
「ちょーーっ! 聞こえない聞こえない! えっ、今なんて言った?!」
ソウマが涙目で火の玉、氷の礫、土の槍、多種多様な魔法をレイから放たれ、避け続けている。
その魔法等はあまりスピードも出ておらず意図的にそれぞれの魔法が放たれる時間の合間の空白で避けれるようにされているため、なんとかそれほど被弾せずに済んでいる。
それでも半分ほどは食らっているのだが。
なお、威力も最低限に調節されているため当たっても擦り傷、もしくは打撲程度の怪我にしかならない。
ただそれでも痛いものは痛いのでソウマは避け続けているのだが、そんな時に講釈を垂れられても体に魔法のぶつかる音と自らの乱れた呼吸音のせいで聞くことができない。
「きつかった! 思ってたよりもきつかった!」
「きついのは当たり前だ。それが修行というもの」
ちなみにソウマに武器を持つことはまだ許されていない。基本がなっていないので危ないとのこと。
全くもってその通りだったのでレイにそう言われた時は一切反論しなかったソウマだが、今になって盾代わりにでも武器が欲しかったと思うようになっていた。
「はぁ、はぁ、あっーーー!?」
息を荒げ、不恰好ながらも避け続けていたソウマだったが、足元の小さな窪みに少し足を取られ一瞬体の動きが止まる。
その間も魔法は待ってくれない。
容赦なくその体に魔法の数々が叩き込まれる。
「ぎぃやーーーっ!!」
そして庭先に一つのしかばねが出来上がった。
修行初日の朝、既にソウマはヘトヘトになり地面へと横たわっていた。
「ハァ、ハァ、きっつっ!」
一瞬だけ気を失った後ソウマはハッと気がついて身を起こし体中に走る痛みに再び体を地面に横たわらせる。
最後にヘマをしてあのような結果になったがレイとしては今回のこの結果は上々、大満足であった。
「まあ、最初にあれだけ避けられれば十分だろ。少し休憩してからシャワーを浴びろ。その後に朝ごはんを食べるぞ」
「うっぷっ。そうだった……まだ朝ごはんも食べてなかった……。てか食べれるかな、吐くかも」
「無理にでも食べてもらうからな。じゃないと動く体も動かなくなる」
「ハーイ、じゃあ浴びてくるね……」
ソウマはまだ早朝だとは思えないくらいに重い足取りでシャワーを浴びるべく家の中へと入っていった。
ソウマはすでに昨日切った啖呵をすでに後悔し憂鬱な気分になっていた。
☆★☆
朝食を食べソウマの体力が完全に戻った頃、次にレイはソウマの体力作りのためにさらにハードなメニューをする、ことはなく普通に座学での授業をしていた。
これには昨日結構な意気込みを見せつい先程それを後悔し始めたソウマもホッとした。
レイとしては危ないことはなるべく体が完成してからの方が良いと考えている。そのため魔法やその他諸々の基礎事項をまだ体が未熟な今のうちに叩き込んでおこうとしているのだ。
「よし、では魔法についてのことを教えておこう。いろんな本を読んでいた君なら既に知っているものがほとんどかもしれないがしっかりと聞いておくように」
「はい、先生!」
今日もその授業スタイルは何時ぞやの青空教室。
ソウマも普段から愛読している“子供でもわかる魔法について”という本だ。
レイもこの本はソウマが既に何回も読み返していることを知っているが、ソウマが知ってか知らずかこの本はレイが所有している本の中でも一際分かりやすい本だ。
レイは今回の授業でこれを教科書代わりに使う。
「うむ! ではでは早速。まず、魔法とは魔力をもって自分の想い、出したい結果を具現化するものだ。そして魔法を発動する方法は複数存在する。
ではソウマ君、その複数の方法とは何かね?」
「えーっと、詠唱と無詠唱、あと魔道具に込められた魔法を使って放つやり方の三つだよね!」
「うむ、その通りだ。まあ魔道具は例外として詠唱と無詠唱の違いをざっと説明しておこうか。
詠唱と無詠唱、これになんらかの違いがあるというわけではない。詠唱はただ自分のイメージをしっかりと具体的にするための補助のようなものだ。ただ大体最初は詠唱をして練習するようにしている。
慣れない魔法を使うときは魔力の制御にリソースを振りがちでイメージを固めるのが疎かになりやすい。そのせいで魔法が不発になり魔力の無駄遣いになることもよくあることだ。
慣れれば無詠唱でも問題なくできるがちゃんと自信のない場合は短くても詠唱をして補助をする方が確実だ。まあ、等級が高くなればなるほど発動のためのイメージを固めるのが難しくなるから必然的に詠唱も長くなるがな」
「そういえば、魔法の本に詠唱も載っていたけどあれとは別に違うのを使ってもいいの?」
「ああ。ただ詠唱をするとき変に違う言葉を使ったりすると自分の思ってたのと違う感じの魔法が出てしまうかもしれんから本に載ってる通りにした方が確実だぞ? あれは過去の先人たちが作った魔法の型だ。その効果も洗練されて無駄がない。
それに超級やそれ以上の魔法を使おうとすると詠唱はかなり慣れたものでない限り必須になってくる。その効果もだいぶ複雑になってくるから変に覚えるたり、無理にイメージだけで無詠唱やらにこだわるより本に書いてある詠唱を丸暗記して効果を理解する方が格段に楽だぞ? まあ今はわからんだろうが」
上級魔法などの等級の高い魔法になってくるとその魔法の効果もだいぶ変わってくる。
例えば火属性に関していえば下級の《ファイアーボール》、これは炎を球の形に整え相手を燃やす魔法、『魔法大全 その一』に載っている詠唱を抜粋すると“火よ球の型になりて敵を滅せよ”となる。
これを具体的に説明すると火を球の形に変え敵を攻撃する意図を持って放つという意味になる。
これが上級になると詠唱の長さがおよそ十倍近くに膨れ上がる。それだけその魔法に含まれる効果が複雑に、かつ強力になっていくのだ。
「うーん、本を読んでたときはいまいち要領が掴めなかったけどそういうことだったんだね。読んでたら詠唱が必要なさそうなのにどうしていちいち詠唱をする必要があるのかよくわかんなかったから」
「それが分かってくれればこの話は十分だ。詠唱は馬鹿にできない。私も今でこそ無詠唱で魔法を使っているが昔はよく詠唱を使っていたぞ」
「えっ、レイが?」
ソウマのイメージとしてはレイは軽々と魔法をバンバンと連発している印象が強かったためその言葉が少々意外に感じた。
「む、なんか失礼だな。意外とイメージをしっかりと固めるのは難しいんだぞ。下級でこそ無詠唱は楽にできるようにはなるが、中級やそれ以上になるとほぼ詠唱は必須になってくる。まあ、そのうちソウマもわかるだろ」
「うーん、そうかな〜?」
ソウマは今の時点で魔法の無詠唱での発動が困難であるとはそれほど思ってはおらず正直なめている。
実はこのソウマの考え、異世界から来た来てないに関わらず大体の魔法初心者が陥る思考だ。魔力に恵まれた者が魔法の練習をするようになると下級までの習得は楽にできる。そして楽にできたがために中級もそれほど難しくないだろうとタカをくくってしまうのだ。そして中級で躓き詠唱の必要性を実感し、詠唱を疎かにしないようになる。
そしてソウマ自身もこれから魔法の本格的な訓練をするようになって詠唱の必要性を実感するようになるのだがそれは別の話。
こうして午前の座学の授業の時間が過ぎていった。
午前の講義が終わって昼過ぎ、太陽が頭上を通り越した頃に昼食をとったレイとソウマは朝同様、再び外に出ていた。
その格好も先ほどまで座学を受けていた時とは違いソウマは上下ともに半袖半ズボンの動きやすい格好をしている。
レイは変わらずいつも通りのローブ姿だ。
体を動かすことはレイも好きなので午前より心持ちテンションを高くして修行を始める。
もちろんソウマも椅子に座って勉強などをするよりはこっちの方が断然“異世界”っぽい。気合の入れようもだいぶ先ほどとは異なっていた。
「よし、午前は座り通しで辛かったろう? 午後は体を動かすぞ。まずはウォーミングアップだ。私についてこい!」
「はい、師匠!」
レイはそう言って熱血風な雰囲気になりながらソウマに背を向けて動き出す。
ソウマもこのノリは好きなので少しウキウキしながらのりのりで返事をしていた。
そしてレイは森の中を走り出した。
ソウマは雰囲気的になんとなく家の周りを走るのかと思っていたので慌ててレイの後ろについて走り出す。
門を出て決してなだらかではない道のりを走り抜ける。レイは軽々と軽快に進んでいき、ソウマも所々飛び出た木の根や蔦に足を引っ掛けそうになるがレイの後ろをしっかりとついていく。
ちなみに結界は外壁の外から幾らか離れたところに張られているので特に問題はない。
走り方のコツなんかを教えるでもなくただ走る。ソウマも最初は余裕を見せていたが距離が伸びるにつれ次第に息が切れ速度が落ちそうになっていった。
そのまま走り続け数十分後。
「ふむ、この程度でいいか」
「ゼェ、ゼェ、な、何で、そんな格好でそんな走れるの?」
屋敷の外周、森の中を一周ほどしてレイは走るのをやめ家へと戻ってきていた。
レイは汗ひとつかかず息すら切れていないがソウマはだいぶ既に虫の息である。
ソウマにとっては何故レイがお世辞にも走りやすいとは言えないローブであんな軽々と森の中を走れるのか不思議でならなかった。
ソウマは前世では考えられないほどの距離を速度を落とさずに走れたということに自分で自分を褒めたかった。
「うむ、最後まで付いてきたか。思ったよりも体力があるな」
ただ、それはレイにとっても同じことが言えるわけで、彼女もソウマがこれほど走れるとは思っていなかった。途中で脱落してもそれはそれでこれから伸ばしていけばいいと思ってはいたが最後まで付いてくるというのはいささか予想外のことだった。
とはいえそれは勿論いい意味での予想外であり、この分ならそれほど体力強化系のメニューは要らないかな、と頭の中で予定を少々変更させた。
「よし、じゃあさっさと息を整えろ。今日はまだ剣は握らない。基本的な体術、体の動かし方を教えていく」
「ハァ、ハァ、はい、師匠……」
ちなみに余談ではあるがソウマはレイのことを普段は“レイ”、授業の時は“先生”、稽古の時は“師匠”という呼び方が定着していった。
その日、走った以降はあまり体力を使うようなメニューではなかったが体の隅々の筋肉を使うような動きをしたせいでソウマは身体中がつりそうになった。
それでもソウマは初めての異世界っぽい修行を楽しんでいた。
夜、ソウマの修行は初日にしてはかなり上々の結果を残して終わりになった。
午後は基本的な体術の型、その反復をずっと繰り返していた。
息を荒くするようなメニューではなかったが先にソウマの体が悲鳴をあげダウンし、ちょうどいい時間帯であったのでそのまま初日は終了となった。
カチャ、カチャ、と食器のこすれ合う音が響く。
今日は初めての修行ということでカロリーが多くとれるよう肉厚なステーキがメインとなった夕食である。
午後はずっと動き通しで正直肉を食べる気分ではないソウマであるが、肉が高級なものを使っているのかとても美味しいため、気だるそうな顔をしながらガツガツ口に詰め込むということをしていた。
それを見てレイが「やっぱり疲れたか?」と聞く。
「ムグッ、当たり前じゃん。まあ途中からは同じ方の繰り返しだったから体力はそれほど減ってないけど、体がものすごく疲れた。絶対に筋肉痛になるわ」
ソウマのどこか投げやりなその物言いにレイはクスクスと笑う。それにムッとしたソウマは頬を膨らませながらそっぽを向く。
ただそれでも食べるては止まってないのでレイはただ暖かい目を向けるだけだ。
「ところでソウマ君。久々に一緒に風呂に入らないか?」
唐突にレイがソウマにそう提案するが「ヤダ!」と一蹴される。
今度はレイが拗ねた。
“転生者ソウマ”、前世を持つ彼は三歳になって一人で十分歩けるようになってから一人で風呂に入るようになった。
レイは一人はまだ早いんじゃないかと問うたがソウマは頑として譲らなかった。
彼としては前世含めお目にかかったことのないような絶世のクール系美女のレイと風呂に入るということはこの幼い体で性欲がまだ発達してない年頃では興奮もせず、ただただ恥ずかしいだけであった。
レイは子が親離れした時はこんな気持ちになるのか、と思いながらわざとらしく膝を落としてヨヨヨ、とローブの袖で涙を拭う仕草をする。そしてそれに構うことなくソウマはそれを無視し、スタスタとその場を去るということをして本格的にレイの心が傷ついたという話があった。
そうしてソウマの修行初日“は”問題なく上々の結果で終わった。




