お金と魔道具
今日から三日連続投稿
ほぼ説明会、脱線に次ぐ脱線
レイとソウマは門から出て正面にある大通りを歩いている。二人はどちらとも周りを見渡しているがその内心は大いに異なっていた。
レイの場合は、何かを探すように露天やら屋台やらを見渡している。レイは今回の外出でソウマに金銭の価値を教えておきたかった。そして彼女は金銭価値を教えるのに良さそうなところを今現在探している。
(う〜ん、どういうところがいいのか?
こう言ってはなんだがなるべく客があまりいないところの方が好ましいな。
教えるといってもすぐに終わるだろうが客の迷惑にならんようにしないといかんしな)
ソウマの場合はただ物珍しさから周りを見渡している。目に入るあらゆるものが初めて見るものであり、前世では存在しなかった人間以外の他種族が現実に存在する。
ずっとあの屋敷から出れなかったことにまだ文字が読めなかった頃のソウマは少し不思議に思っていたが、つい先ほど自分たちの住む島のことを教えられ納得した。
そうは言ってもあの大きな書庫にある大量の本のおかげで退屈になるということもなかったのだが。
(おわぁ〜、本物だ〜。あ、あの耳もふもふしたい)
その時とある少年に見つめられていたとある女性の獣人族は背筋に悪寒が走ったらしい。
「ふむ、とりあえず何か買いたいものがあれば遠慮なく言うといい。金なら腐るほどあるしな」
レイがそのようにソウマに言う。
レイは折角なのでソウマが来た初めて外に出た思い出として存分に楽しんでほしいという思いが少なからずあった。
この世界の通貨は全て硬貨であり、基本世界共通であり、今も昔も同じものが使われている。
レイは文字通り使い切れないほどの金を持っていた。
「うん! けど今は何が何だかわからないから特にいいかな」
「ふむ、そうか。お、あそこがいいな」
ソウマは今は周りを見るのに忙しく特定のものを選ぶ暇がないらしい。絶えず周りをキラキラした目で見渡している。
レイはそこでふと少し先の方にあるヒトの誰もいない寂れた露店を目につけた。
そしてそこに並んでいる商品を見やってあることに気づく。
レイはソウマを連れ添ってその露店へ近づく。
そしてレイは店番をしている白髪で少し厳つい顔をした爺さんに話しかける。
「どうも、今は開いてるのかい?」
「 ん? ああ、客か。やってるぜ。まあ、誰も寄り付かないようなところだがな」
その店主は地面をバンバンと叩きながら前にあるところを示す。
多種多様な雑貨、中には何に使うかわからないようなものまで雑多に置いてある。
そのすべてのスペースが埋まっているところを見ると売り上げはなかなか伸びてないようだ。
「ふむ、すまないが少しこの店の前を貸してくれないだろうか?」
店主はそのレイの言に顔を顰めて断ろうとしたが言葉を発する前にレイが銀貨をその手に握らせる。
店主はそれを確認した後、面倒くさそうに手を振って「好きにしろ」と言った。
「感謝するぞ、店主。ではソウマ君、早速だがここで君にお金の単位を伝えておきたい」
「え、あー、うんわかった」
ソウマはレイの横で二人のやりとりを見ていたようでレイが店主に金を握らせたのを見て「初めて見た!」とよくわからないことを呟いていた。
「よし、じゃあこれを見てみろ」
「へ?」
そう言ってレイは赤銅、銀、金、白金の色をした硬貨をそれぞれ幾つか宙へ放り出す。
いきなり硬貨を宙に投げるという暴挙をしたレイにソウマは口をあんぐり開け、それを暇つぶしがてら見ていた店主は眠たそうになっていた半目が見開かれあり得ないというふうな視線をレイに向ける。
そしてレイは魔法でそれらを空中に固定した。
「え?」「あぁ?!」
その光景にソウマと店主は揃って声を上げる。
レイはそれを気にも留めず硬貨をそれぞれの種類ごとに並べる。
明らかに周囲から注目を浴びそうなやり方に思わずソウマは異議を唱えようとする。
「よし、待たせたな」
「え、いやいや! 待たせたって言うけども!」
「始めるぞ!」
「スルー!?」
レイはこれ以上長引かせると面倒そうになると思ったので強引に話をぶった切る。
「まず最初に硬貨の種類から説明しよう。
まずだが一番安い通貨、それはこの少し黒っぽくて丸いこれだ」
レイは並べた硬貨のうちの黒っぽい硬貨をソウマの目の前に持っていく。
「これが鉄貨、大きい方を大鉄貨という」
ソウマはふんふんと頷く。
周りがチラチラとこちらの方を見てきているのに気づきソウマは少し居心地悪そうにする。
「そしてこれが銅貨と大銅貨だ」
赤銅色の硬貨。
「これが銀貨と大銀貨」
銀色の硬貨。
「これが金貨と大金貨」
金色の硬貨。
「そして最後に白金貨だ」
「ほ、ほう・・・」
いきなり全ての硬貨を目の前に順繰りに出され少しソウマは周りを気にする余裕がなくなるほど混乱する。
「これらの硬貨は全て十枚で一つ上のランクと同じ価値になる。例えば鉄貨十枚で大鉄貨一枚、大鉄貨十枚で銅貨一枚という風だな」
「ほー、そんな感じなんだ」
「うむ、そしてこれらの金は世界共通でな。単位もミルで統一されている」
「統一って、それってもしかして四大陸全部?」
「そうだ」
ソウマはふんふんとポケットに入れてたらしいペンとメモ帳にそれらを書き留める。そしてそれを横で聞いていた店主も感心したようにその話を聞いていた。
「いや〜、ねぇちゃんなかなかやるな! まさか白金貨まで持ってるたぁ思わなかった」
白金貨を持っている、それは即ち大商人か若しくは余程の腕が立つということ、つまりは只者じゃないということだ。それをこのような一般観衆のど真ん中で出すのだからその胆力も只者じゃない。
店主は滅多に見ない愚か者、もしくは傑物に客が来ないために漂っていた眠気が一気に覚める。
店主は先ほどまで寝ぼけ眼だったとは思えないほど快活な口調でレイに話しかける。
「まあ、これくらいはな。稼げば幾らかは手に入る」
「カーッ! やっぱ只者じゃねえな。どうだ、うちの商品なんか買っていかねえかい?」
店主は目の前に並んだ商品を指し示す。
レイはその商品らをじっと見つめスッとそのうちの一つの商品に手を伸ばす。
「ふむ、これでいいか。店主、これは幾らだ?」
「ああ、それは二百ミルだ」
値段を聞いてレイはふむ、と一つ頷くとそれを持ちながらソウマの方へと向き直る。
「ではソウマ君、二百ミルを払う場合はどの銅貨をどれだけ払えばいい?
ちなみに一ミルで鉄貨一枚だ」
「えーっと、銅貨二枚!」
ソウマは一瞬考えた後そう答える。
「正解だ。ふむ、簡単だったか。まあこの程度できれば十分だな」
そう言ってソウマの頭を一つ撫でた後店主に金を支払う。
「はい、毎度あり」
「ところでレイ。それなんなの?」
ソウマが聞いたのは今レイが買ったよくわからないものだ。この店に置いてあるのは何やら不思議なものばかりでありどのような用途で使うのかわからないものが多くある。
レイが買ったのもそれに含まれる。
「ああ、これか。これは魔道具だ。だろう? 店主」
レイがその手に持っている物。
細長い焦げ茶色のした、まるで木の棒のようなもの。棒というほど長くはないがそう表現するのが適切であろう物だ。
そしてよくわからないそれをレイは魔道具と言った。
「ああ、というかうちで売ってる商品はあらかた俺の手作りの魔道具だぜ?」
「………うそ?」
思わずソウマはそう呟いてしまう。
ソウマの認識としては魔道具とはそれ専門の研究者や魔法使いたちのエリートが作る超便利な道具というものだ。
目の前の寂れたおじいさんがそれに当てはまるとは到底思えなかった。
しかし、それはある意味間違いではないのだが魔道具というものの認識としてはあまり正しくない。
「ソウマ君の言いたいことはなんとなくわかるが言っておくぞ? 魔道具というのはだな、やろうと思えば誰にでも作れるんだ」
レイは先ほど購入した短めの細長い棒のような魔道具を手の中で弄りながらそう言った。
「え、けど魔道具を作るのってそれ専門の知識とかがいるんじゃないの?」
そしてレイの言に対してソウマがそう言う。
レイは首を横に振りながら「それは少し違う」と言ってから説明する。
「ソウマ君、君が言っているのは魔道具を“開発”する場合に限った話だ。ちゃんと過去に確立された方法を使ってその手順通りにやれば魔道具は誰でも作れる。
念のために聞いておくが、うちにもその手の本はあったはずなのだが。読んでなかったのか?」
「うっ! 読んでませんです………ハイ」
ソウマはレイにそう言われ少し肩を落とす。
ソウマは魔法関係以外では過去の英雄やらの小説や魔物図鑑を読んでいたため魔道具関係の本は見かけたことすらなかった。
レイの書庫は世界でも屈指の蔵書量であるため見かけたことがなくとも仕方がないといえば仕方がないのだが。
「まあ、それにしてもこれはすごいと思うがな。
私が今買ったこれを見てみろソウマ君」
レイは先ほど買ったそれに魔力を込めてから地面に置き、ソウマもそれを少し期待するような目で見つめる。するとその短めの木の棒のような物がぐにゃっと曲がってからまた真っ直ぐという形に戻って前に進む。そう、それはまるで木の枝に擬態する、とある幼虫のようなーーーーー
「いや、なんなのコレ?」
ソウマが白けたような目でそれを指差す。
思っていた以上のくだらない性能に逆にびっくりといった風の目だ。
「いや、なんなのコレって、ソウマ君。これは凄いんだぞ。なんといってもまるで本物と思うようなこの流動的な動きを見ろ。凄いだろう?」
「いや、確かにそうだけど、役に立たないよね? どう考えても」
そんなソウマの台詞にレイと店主はやれやれ仕方ないな、といった風に肩をすくめる。
ソウマは少しイラっとした。
「いや〜、大体の客がこの坊主のような事を言うんだが、あんたはちげぇみてぇだな姉ちゃん」
「ああ、勿論だとも。本職ではないにしろ私もその道を少しはかじったものだ」
「いや、さっきから何の話?」
ソウマは二人の言っていることが全く理解できず、だんだんずれていく話にどう対処するか迷っていた。
「そもそもレイ、お金の話は?」
「ん? ああ、それはさっきまでの話で全部だ。それよりもだ!」
熱の入っていくレイにソウマはもう無理だ、とばかりにだんだんと暴走していく二人を見て折角なら少しでもそこから何か学んでおこうと思い、じっと聞く姿勢を固める。
レイと店主はちらりとアイコンタクトを交わし合ってから頷きあって二人掛かりでソウマへと説明を始める。
「ソウマ君、世には色々な魔道具が存在する。それは生活に置いて必要となってくる安価な物から国がわざわざ金を出して購入する高級な物まで様々だ」
「もちろんその効果も変わってくるぜ? ただ光を灯す物から超やべぇ魔法が込められてるやつまで、はっきり言ってこれまで作られてきた魔道具を数えようと思っても到底できるもんじゃねえ」
「そしてだなソウマ君。魔道具の中にはただ魔法が込められてるのではなくヒトや魔物の形を模した物も存在する」
「それが《魔法生物》いわゆるゴーレムや魔巧人形といったような物だ」
なかなかに息のあった説明にソウマは「ほーっ」と感心しながら店主の言った《魔法生物》という言葉に、なんか聞いたことがあるな、と頭を横に傾げた。
「ここでソウマ君に一つ問題だ。このゴーレムや魔巧人形の共通点はなんだ?」
ここでレイは一つソウマに問題を出した。ソウマは少し考え「魔力で動くこと?」と答える。
「残念ながら違う。それは魔法生物としての大前提のことだ。共通点ではないな。聞くが、ゴーレムや魔巧人形のことは知ってるな?」
ソウマはこくんと頷いた。
「ならその二つの特徴を言ってみたまえ」
「えーっと、両方ともヒト型をベースにしてゴーレムは金属などの鉱物を使って作られたもので戦闘とか色々な用途ごとに形とかも違って、魔巧人形はゴーレムよりもヒトにより近く作られた物で高いものになると肌触りもヒトとあまり変わらなくなってくる。
あとゴーレムはヒト型だけじゃなくて魔物や動物の形になってる物もある、だよね?」
ソウマは長めの説明をし終えた後にレイにそう確認をとり、そしてレイも満足そうに「その通りだ」と頷いた。
「でだ、それを踏まえてソウマ君、ヒトという形にしてなおかつヒトの動きを忠実に再現する上で欠かせないものはなんだ?」
「え? うーん、筋肉、骨?」
「ふむ、結構近いがこの場合は骨の方が近いかな。答えは関節だ」
レイはそう言いながら店主と共に腕を曲げてムン、と力を入れる。レイは特に変化はしてなかったが店主の方は年に見合わないほどの力瘤が出来上がっていた。
「それを踏まえてこれを見てみろ」
そしてレイは未だに動き続けているしゃくとりむしのようなものを指差す。
「え、あー、関節がない?」
「その通りだっ!!」
そこで店主は声を張り上げソウマに詰め寄る。その店主の剣幕をみてソウマは「うわっ!」と後ずさった。周囲のヒトも何事かとこちらを見つめている。
「そりゃあ今は確かに他のゴーレムやらのように役に立つようなものじゃねえ。
だがなぁ、何れはこの無関節型の魔法生物も役に立つ時が来るはずなんだよ」
店主はそこで訥々と何かを語り出した。レイも店主の言うことにうんうんと頷いている。
「今はまだこれくれえのことしかできねえが、俺はやるぞ! もっと腕を磨いて弟子もとってこの技術をさらに昇華させるんだ………」
「うむ! 今日は久々にいいものを見た。応援してるぞ、店主よ」
「へへっ、俺の名前はドンガってんだ。姉ちゃんの名前も教えてくんねえか?」
「うむ、店主、いやドンガよ、私の名前はレイという。この子は弟子のソウマだ」
二人は何か通じ合ったようで互いに名前を名乗り合う。
頭に手を乗せられながら紹介されたソウマも頭を下げて名乗り返した。
「どうも、ソウマです」
「いやいや、そんな固くなるこったねえよ。そうか、いい師匠を持ったな」
店主と呼ばれていたドンガはレイに認められたからか彼女をいい師匠と判断してうんうんと頷いている。
ソウマもそれには異存がないので特に反論することはしない。
「ふむ、ところでソウマ君、何か欲しいものはあるか?」
レイはソウマにそう尋ねる。
この話で何か欲しいものができたかと思って聞いてみたのだ。
結局その後、ソウマは《ライト》の魔法が込められたランプとレイはそれに加え短剣のような形をした魔道具を買ってその場を去った。
店主も気前よく幾らか値引きしてくれたので相場よりも安く買うことができたのでレイも「安く済んだ」と喜び、ソウマはランプを灯したり消したりしながら満足したような笑みを浮かべている。
その後ドンガの店は何人かレイ達の様子見をしていたヒト達が彼の店の商品を幾つか買っていきそれを見ていたまた別のヒトが彼の店の物を買っていくというなんとも喜ばしい循環が出来上がっていた。
その日ドンガは次またあの師弟に出会ったら何か礼をすることを心に決めた。
時刻はまだ昼前、レイとソウマの二人は大通りの喧騒に包まれながらはぐれないよう身を寄せ合って歩いていた。
日常も混ぜていきますがこれからは幾らか説明で文章量を取ると思います。
ただでさえ更新頻度が遅いのに話の進みも遅くてすみません。
誤字脱字や文章の違和感などの指摘大歓迎です。




