街へ
今回短めです
屋敷から転移したレイとソウマ、二人の目の前には見渡す限りの草原が広がっていた。
ソウマは初めて見るその景色に目を奪われている。
レイは無事転移が成功したこととソウマの体にも特に異常がなさそうだったことにホッとしていた。
ソウマはその景色に感嘆の声を上げた。
「うわぁ〜!」
「ふむ、方角は、あっちか」
レイは多くのヒトの気配のする方へ顔を向ける。
「ソウマ君、見とれるのもいいが歩くぞ。
でないと滞在時間が短くなる」
レイは景色に見とれて動かなくなっているソウマにそう促す。
「あ、うん。そういえば、街にはどれくらいかかるの?」
「む? う〜ん、歩いて一刻ほどか」
レイはソウマに聞かれて一瞬逡巡したのちにそう答える。
この世界は一時間で一刻、二十四刻で一日が数えられる。つまりは地球と一緒だ。
ただそんな細かい時間を気にするというヒトは少ない、というかほとんどいない。
これは平民に限らず王侯貴族なども同じような考えであり、その理由としては『そんな細かい時間を気にする理由が無い』ということ。
そのため道中にかかる時間やらでしか使われることがほとんどない。
二人は街に向かって黙々と歩き続ける。
レイは心持ち早歩きになっているソウマを見ながらこの分なら予想よりも早く着くかな、と思いながらレイも少し歩くペースを上げた。
「おお! なんか見えてきたよ!」
二人が歩き始めて数十分後、ソウマは前方に微かに見えてきた壁の上部分を見て興奮した声を上げる
「ふう、見えてきたか」
レイはようやく見えてきた外壁に息を吐きながらそう言う。別段疲れたわけではないが草原ばっかの風景に少し飽きていたところだった。
「ねぇ! 早く行こっ!」
「ああ、はいはい。そんな引っ張るな」
ソウマはレイのローブの裾を引っ張りながら見えてきた街に向かって進み始めた。
☆★☆
歩き続けてしばらく、ポツポツと動いているものが目に入る。
そしてそれを見てソウマはレイ以外のヒトを初めて見て思わず声を上げる。
レイはそんなソウマを見て興奮するのも仕方ないが少し忙しないな、と苦笑していた。
「おぉ! ヒトがいっぱい!」
レイとソウマの二人は街に入る門が見えるところまで辿り着いていた。
二人は草原を歩いていたが門からはしっかりヒトや馬車が通ることでならされた街道がしっかりと存在している。そして日が高い今の時間帯であるからか多くのヒトがその門を出入りしている。
勿論その出入りする中には人族以外の他種族も多く出入りしている。
ソウマはそんな彼等を見て今にも走り出しそうなほどに目を輝かせている。
実際には走らずに裾を掴みながらレイをずるずると引きずりながら進んでいる。
「ソウマ君? 引きずらんでくれ、歩きづらい」
「あ、ごめん」
どうやら無意識であったらしくソウマはパッとローブから手を離す。
「はぁ、じゃあ並ぶか」
「うん!」
二人は街に入るための行列の最後尾に並び始めた。
「ねぇ、レイ。あの人達はなんなの?」
ソウマが指差す先、自分たちの行列の横を通った四人組のことだ。
その四人組は統一感のない格好をしており街道とは外れたところを歩いている。
「ん? ああ、彼等は冒険者という奴等だ」
「冒険者! 何だっけそれ?」
ソウマはレイの言った『冒険者』という言葉に反応した。
ソウマはレイの書庫で読んだ本でよく冒険者という言葉を見かけておりその存在に多大な興味を持っていた。
そして、ソウマは前世でもラノベをそれほど読むほうではなかったがとある友人の勧めで何冊か読んだことがあり、もしかしたらそれと似たようなものかも、と思っていた所もある。
勿論そちらの考えはレイには分からないが何か本などで読んだのだろうな、と察する。
「ああ、冒険者とは《冒険者ギルド》というところで登録した者たちのことだ。まあ、冒険者ギルドに関してだが、まあ簡単に言うなら何でも屋だな。
依頼を受けて完遂すれば報酬がもらえる。実に簡単なシステムだ。
もっとも、その中には魔物の討伐やら命を懸けなければいけないようなものもあるから腕っ節も必要になってくるがな。
上手くいけば国からも褒賞がもらえるし一攫千金を目指せる商売ってやつだな」
ソウマはレイの説明を聞いて先ほどの四人組をキラキラとした目で見つめる。
冒険者が残した偉業が記された英雄譚は山のようにありレイの家にもそれはたくさんある。
それらを読み実際にその存在を目にして憧れのようなものを抱いたのだろう。
「気になるか? 冒険者が」
「……うん」
レイはソウマにそう尋ねる。
ソウマは何かを考えるような仕草をした後、首をこくんと縦に振った。
「まあ、今日は無理かもしれんがこれからも何度かここに来るつもりだ。
そのうち冒険者ギルドにも覗いて行こうか?」
「本当?」
「ああ、本当だ」
ソウマはパァッと笑顔を輝かせながら「楽しみにしてるね!」と言った。
レイはその言葉を違える気は無かったがそのソウマの顔を見てこれで破ることができなくなったな、と思うと同時にふとシャルにも悪いことをしたなということが頭に浮かんだ。
そうしてる間にもどんどん列は進んでいきあと少しでレイ達の番というところまで来た。
(通行証は、よしちゃんとある)
レイは自分たちの番になる直前にちゃんと通行証を持ってきたかの確認をする。
レイ達の前のヒトが門の内側へと進んでいき二人の兵士がレイとソウマに向き合った。
そのうち片方の兵士がレイの被っているフードの内側、レイの顔を見たらしく顔を赤くして目を泳がせて「あ、あの・・・」と言葉を詰まらせた。
レイはその反応に一瞬訝しげにしながらもすぐに思い出したように納得する。
(ん? ああ、私の顔か。そういえば私の顔って結構綺麗だったな)
レイは久々に自分の容姿に対する認識を改めた。
レイが村で接していたのは比較的年配の方々であり、「別嬪さんだねぇ」と言われても親が子供を褒めるような言葉だと無意識ながらもそう認識していたため自分の容姿が整っているということを自覚するには至らなかった。
もう片方の兵士が相方の態度に訝しながらもパッと見引率者であるレイに普段通りの定型文を口に出す。
「通行証、若しくはカードを提示して下さい」
「ほい、これでいいか」
兵士はそれにさっと目を通し問題無しと判断する。
「はい、問題はないようですね。この街に来るのは初めてですか?」
「うん? ああ、そうだが」
「そうですか。では、ようこそ! 辺境の街ガレスへ! 楽しんでお過ごしください。そしてくれぐれも騒ぎは起こさないようにお願いします」
「ああ、もちろん。行くぞ、ソウマ君」
「うん!」
兵士に見送られ、レイはいつも通りに、ソウマは少し緊張しつつもウキウキとしながらその門をくぐっていった。
☆★☆
「なあ、おい、さっきはどうしたんだ?」
「あ、ああ、すまない。いや、さっきの全身をすっぽりローブで覆った女がいただろ?」
「ああ、それがどうした。特に問題なかっただろう?」
門番をやってる二人の兵士。
交代の時間に入り先ほどの様子が少しおかしかったのを歩きながら問いただした。
「いや、その顔がな……」
「顔がどうしたんだ?」
もう片方の兵士は角度の関係でフードの中がよく見えなかった。
「めっちゃ美人だったんだ」
「………そんな?」
門番という仕事をやる関係上、彼等はヒト一倍より多くのヒトと接している。
接していけば、その中にはもちろん様々なタイプの美人な女性、中には男の目を引きつけるような扇情的な格好をした者もいる。
その度に鼻の下を伸ばしたりはしていたものの、ある意味女に関する免疫のある彼は今回のようなしどろもどろとした態度をとることはなかった。
「ああ、多分人生の中で一番かもしれねぇ。暗くてよく見えなかったがまるで絵画からそのまま抜け出してきたかのような絶世の美女だった」
「………そんな?」
話を聞いているうちにもう片方のレイの顔を見れなかった方の門番は、審美眼に関しては信頼しているそんな相方の絶賛っぷりに少しでも見ておけばよかったと後悔し始めていた。
☆★☆
「おお〜! ヒトがいっぱい! 色々おっきい!」
ソウマは門をくぐった途端に広がった目の前の光景に思わず声をあげ今世はもちろん前世でも見たことがないような景色に心を震わせていた。
その目には多種多様な人種、様々な形の建物、商売をするヒトたちの張り上げる声、それらが大勢行き交い、圧倒し、活気のある光景が映し出されていた。
そんなソウマの周りをキョロキョロしている、その姿はまるで田舎から都会にててきたお上りさんの姿そのもので周りも微笑ましそうに彼を見ている。
それはレイも例外ではない。
「ほら、そんなキョロキョロしてないで早く行くぞ」
「うん! ってどこに?」
「わからん。だから適当に歩くか?」
「うん、そうする!」
レイとソウマ、手をつないで二人並んで歩くその姿は側から見たらまさに姉弟、もしくは親子の姿そのものであった。
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