街へ行くその前に
まだ街へは行きません
ほぼ内容は説明ばかりです
「よし、街へ行くぞ! ソウマ君!」
「朝食を食べてからね」
「そうでした……」
レイは起きてベッドから起きたばっかりのソウマに対して唐突にそう言いだす。しかし起きたばかりとは思えないソウマの冷静な一言にすごすごとレイは退散していった。
☆★☆
カチャ、カチャと食器のこすれ合う音が響く。
あの後、レイは大急ぎで朝食を準備しソウマが寝ぼけ眼でベッドから起き上がって顔を洗った頃には朝食を作り上げていた。
「そういえば今日行く街って何処なの?」
「ん、ああ言ってなかったか?」
「うん」
ソウマは食べていた手を止めレイにそう尋ねる。
レイもとっくに何処へ行くか伝えたと思っていたようで目をパチクリさせる。
「そうか、言ってなかったか。
私が今日行くつもりなのは西の大陸のミスティリア王国にある辺境の街ガレスというところだ」
「ほえ? 西の大陸ってここもじゃないの?」
「いや、ここは西の大陸じゃないぞ。そもそも大陸ですらない」
ソウマはここを西の大陸だと思っていたらしくレイのここは大陸ですらない、という発言にますます混乱する。
「え? じゃあここって何処なの?
《秘境》だっていうのはなんとなく分かるけど」
《秘境》というのは魔力の密度が平均よりも高く強力な魔物や魔獣が発生しやすい地域のことだ。そんな環境のためヒトが住むことができず、謎や発見の多い『未知の世界』という意味も込めて《秘境》と呼ばれている。ソウマが言っているのはそのことだ。
その分、秘境は魔力によって育つ植物や鉱石なども取れるためヒトからは危険ではあるが貴重な収入源としても重宝されている。
「うむ、確かにここは《秘境》で合っている。しかし秘境というのは大陸だけにできるものではない」
「……ああ、そういえば大陸じゃない島にも秘境って出来るんだっけ?」
「そうだ、大陸だけにできて他の所に秘境が発生しない筈もないからな」
もっと言えば海の中にも秘境はあると言われているが、調べることも難しくその境目が陸上よりも判断するのが困難なためあくまで仮説の域を出ていない。
「じゃあここってその島の一つってこと?」
「そうだ。丁度いいからこの最古の島がどこかというのも把握しとくか。
食べ終わったら二階の書庫に行くぞ。街に行く前に大まかな地理なども説明しておきたい」
「うん、わかった」
二人は止めていた手を再び動かし始めた。
レイは心なしかソウマの食べるスピードが上がったような気がした。
☆★☆
「うわぁ、何度来ても慣れそうにないや」
ソウマはそう驚きの声を上げながら前を歩くレイの後ろを歩いていく。
ソウマは何度もここを訪れているがふと周りを見渡すと目に入る多くの本を見て何度も圧倒されていた。
レイもこの書庫は彼女自身としても自慢のものだ。ソウマのその驚いたような物言いはレイの心を優越感で満たす。
「フフフ、そうだろうそうだろう。
ああ、あったこれだ」
書庫を入って少し進んだところにある本棚の傍に無造作に積まれて置かれている幾つかの本。
その一番上に置いてある何回かたたまれた大きそうな紙をレイは持ち上げる。
そしてレイは魔法で作りだした机と椅子を本棚と本棚の間のスペースに置く。
そして日中とはいえ少し薄暗いので《ライト》を出して、机の真上に浮かせる。
「よし、こんなもんか。ちゃっちゃと終わらして街へ行こうか。私も街へ行くのは久々だし」
「うん!」
机の上に本を置き二人は椅子に座る。
そしてレイはパラリと地図を広げた。
「これが世界地図だ。この世界には大陸が四つ存在する。西の大陸に東の大陸、南の大陸に北の大陸だ」
この世界の大陸には固有名詞がなく、ただ“東”の大陸などの方角を頭につけて呼ばれている。
そして各大陸ごとに気候や環境もある程度分かれている。
「北と西、東の大陸は四季が存在する。春夏秋冬というやつだな。
そして北の大陸は比較的山脈が多く西は平原を占める割合が他より多い。そして東は森林が大陸を覆うくらいに広がっている。
反して南の大陸は他の三つよりも気温が高く植物の少ない地帯、荒野が大陸の約半分を占めている」
「ほうほう」
「そして住んでいる種族に関してだが、西は主に人族、東はエルフ族、南は獣人族、北は魔族が住んでいる。
まあ、あくまでそれは目安としてだからそれらの種族が多く見られるというだけで他の種族も勿論大勢住んでいる」
レイは地図を指差しながらソウマにそう説明していく。それをソウマは目で追いながら興味深そうに聞いている。
「まあ、中には自分たちの種族こそが至高という考えの持ち主もいるにはいるんだがな」
「あぁ〜、いるんだね。そういうの」
「ああ、困ったことにこういう奴らは幅広い範囲で活動するからな。こういう奴らのせいで引き起こされる騒動が本当に厄介なんだ」
レイは実際にそれを体験したことがあるかのように話す。実際レイはそんな奴らが起こした騒動に巻き込まれたことがありその騒動を収めるのに苦労したことがある。
「まあ、今はそれはいいとして、ソウマ君もこんな奴らを見かけたら絶対に! 近づくなよ?」
「あ、あぁ、はい……」
レイは若干の圧を込めながらソウマにそう忠告する。ソウマがびびって震えているがそれほどに厄介な奴らのためにレイはかなり真剣にそう忠告した。
「オホン、まあ簡単に説明するとこういう感じだ。
それで次に私たちが住んでいる島だが、どれだか分かるか?」
「ええ? いきなりそんなこと言われても・・・
うぅん? これ?」
ソウマは適当に西の大陸のそばにある小さな島を指差す。
「残念、ハズレだ。正解はここだ」
「えっ………」
ソウマはレイの指差す先の島を見て思わず絶句し目を見開く。そして冷や汗を流しながら少し震え、懇願するような声でレイに聞く。
「うそ、だよね……?」
「本当だ」
「えっ、嘘?」
「本当」
ソウマはそうレイに何度も聞き返す。
レイはその度に本当だということを伝える。
「はぁ、僕、もう死ぬんだ」
「死なねぇーよ」
レイはガクッと机の上に突っ伏したソウマの頭をパシンと叩く。
「痛い! てかなんでこんな島に住んでるの?!
別に人里離れたところならここじゃなくてもよかったよねぇ!?」
「ええい、やかましい。別にいいじゃないか私がどこに住んでも」
レイとソウマの間の温度差が激しい。
レイはソウマに深呼吸をするよう促す。
ソウマは大きく息を吸って吐く、という作業を三回ほど繰り返し落ち着きを取り戻す。
「失礼、取り乱しました」
「うむ、よろしい」
「でさ、実際何でここに住んでるの?」
レイはソウマの問いに「なに、単純なことだ」と返す。
「私はその時世俗から離れたいと思っていてな、だから誰もヒトが訪れないようなところに家を作ったのだ」
「それだけの理由でこの島に家を造ったんだね・・・レイ」
ソウマは何処か諦めたような表情でそう言う。
「ふむ、その反応からするにこの島のことはなんらかの本を読んで知っていたか。
まあ、ここに住んでいたからこそわかる知識もある。それは今度するとして一応説明しておくか」
レイはこの島についての説明を始めた。
「この島は世界最大の秘境でありそれと同時に世界で最も危険な秘境、ヒトはこの島を《蠱毒の島》とそう呼んでいる」
レイはいつになく真面目な顔で説明を始める。
「《蠱毒の島》と呼ばれるこの島は魔力濃度が世界でも圧倒的に高く日常的に《魔物》それも高位のやつが日常的に発生する島であり、そのため半端な実力しか持たないようなやつはこの島に入れたとしてもすぐに殺され、喰われる。
彼等は互いに互いを殺し殺され喰らい合い自らを高め生き残ろうとする。
喰えば喰うほど強くなる。そんな様を見てヒトはこの島を一つの器に例えて互いを殺し喰らい合うそんな環境を見てこう言った。
『まるで、蠱毒のようだ』と。
言い得て妙だな。そしてこの島は蠱毒の島とそう呼ばれるようになった」
レイは一旦言葉を切る。
「ヒトにとって幸運だったのは基本この島から魔物が外に出ないことだな。もし外に出ていれば一気に世界は大混乱になってしまう。
ここまでは本にも書いてあるからソウマ君も知ってるな?」
「うん。あとこの島は貴重な素材もたくさんあってそれを取りに来た人たちも過去にたくさんいたけど全員死んじゃったんだよね?」
「そうだ。世界でもトップレベルの腕を持つ者たちもこの島ではあくまで平均かそれ以下にまで下がる。
それにこの島はある程度他の大陸からも離れているし迂回すれば特に危険になることもない。
命を張ってこの島で素材を得るよりは安全堅実で行ったほうがいい。
この島でしか取れないっていう素材もないしな」
「あ、そうなんだ」
「うむ、一応ここでは普通に取れるやつが他では滅多に取れない高級品になるものも結構あるが取れないわけじゃない。
おっと、少し話がずれたか。
まあとりあえず、この島の認識に関してはそれだけの事を覚えておけばいいだろう。また今度いろいろなことを教えてやる」
レイはこの島についての基本的な説明を終わらせ地図をもとのあったところに戻す。
「うん! ありがとう」
「しかし、君がそこまでここを脅威に思うとは思わなかったぞ。現実を知る大人ならまだしも君くらいの年ならただ驚く程度で済むと思ってた」
レイは少々意外そうにソウマにそう言う。
ただでさえ大人ですら身の程を知らない輩や罪人などが年に数十人ほどこの島に訪れ流れ着き、そして死んでいく。
世間を知らない子供ならば親などの大人からこの島の脅威を知ることができるだろうがソウマにそのような大人はいない。
レイも色々なことをソウマに教えてはいたがまだこの島のことについては話したことがなかった。
本でその島の存在は知っているだろうとは思っていたがそこまで怖がるとは思っていなかった。
「流石に身の程はわきまえてるよ。ここに来るなんて一生ないと思ってた」
「まあ、普通はそうだろうな。ていうか言うことがもはや子供じゃないな」
レイは子供らしからぬ発言をしたソウマにやれやれという感じに苦笑する。
「よし、荷物を持って外に出るか。
もし何か持っていきたいものがあれば取りに行ってきてもいいぞ?」
「ん、いや特にないからいいかな」
「そうか、じゃあ先に玄関で待っていてくれ」
「うん、早く来てよ?」
レイは荷物を取りに行くためソウマに背を向けながら「分かった」と返事をした。
☆★☆
「よし、じゃあ準備はいいな?」
「うん!」
レイとソウマの二人は玄関前に出ていた。レイの服装はいつも通りの簡素なくすんだクリーム色の全身をすっぽりと覆うようなローブを着ており、ソーマには少し上質な肌触りのいい服を着ている。
ソウマは初めての街にうきうきしながら返事をする。
二人は特に荷物を持っておらずどこかへ行くようには見えない。実際にソウマは何も持っていないがレイはローブの下に隠し持つなり空間魔法で作った亜空間にしまうなりしている。
「しばし待て。うーむ、む。ソウマ君念のためその場から動かないでくれ」
レイが何かを探るかのように目を瞑る。
どこか遠くへ転移する場合、空間と空間をつなぐ転移陣かその場の風景を細かなところまで想像する必要がある。そしてもう一つ、地図から座標を割り出しそこへ転移するよう魔法の中に組み込むことだ。
レイは実のところその辺境の街とやらには訪れたことすらない。
レイがいつも何かを調達するときは許可証のいらない村などを情報収集の場などにして使っていた。
絵本はその村にいた行商人から買ったものである。
レイは野菜などの作物を庭で育てており、肉なども現地調達できるためその他の乳製品などを買う以外には外に出たりはしない。
その乳製品などにしても街などで買うより現地で買った方が安くすむために特に許可証を使う必要がなかった。
情報に関しても特に新鮮さを求めるつもりはなかったのでご婦人方の井戸端会議を盗み聞きすればある程度のことがわかる。
そのためレイも大規模の街に訪れるのは久々なのでソウマ程ではなくとも少しばかり街へ行くのを楽しみにしている。
「ふーむ、ここらでいいか。
ソウマ君転移するぞ念のため裾に捕まれ」
本当はレイに捕まる必要はないのだが複数での長距離での転移は久々のためなるべく確実にしたかった。
「うん、これでいい?」
「うむ、よしでは行くぞ! 少し酔うかもしれないが注意しろよ?」
「え?」
レイが魔法を発動する。
次の瞬間、二人はその場から消え去った。
明日はしっかり街へと行きます
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