第三話 7
「ずっとじゃねえよ。ついこの間だよ。知ってんだろアンタも」
「ほーん」
「全然、俺に興味ないじゃん!俺を掘り下げようとしてないじゃん」
「んー‥お前さんのことは、ここに来る前にあらかた調べ尽くしてるし、割と何でも知ってるから、今更な感じだな」
「ほー。調べ尽くしているというのなら、俺トリビアを教えてくれよ」
「そうさな‥色々あるが‥あ!黒崎は童t‥」
「どっ、どどど童貞ちゃうわ」
「違うのか?でも吸血鬼になるってのはつまり‥そういうことじゃないのか?」
「う、う、う、うるさいわ!」
蓮が、童貞なのかどうかは別(割とどうでもいい)として、宗介の言う通り普通の人間が吸血鬼になる条件の一つに、処女もしくは童貞であること、という話がある。しかし、ただの言い伝えであったり、古い伝承のような扱いもされているので真偽はよくわかっていない。なにせ蓮は、ただの吸血鬼ではなく人間から真祖へ変化した存在である。蓮が童貞であろうがなかろうが、通常の吸血鬼として変化するはずのプロセスを踏んでいない以上なんとも言えない。伝承や言い伝えとは違って、清い身体ではなくとも真祖になる時はなれるのかも知れない。
「違うってんなら、お前さんの恋愛遍歴の一つでも俺に聞かせてみろよ」
「ちょい!俺の、掘り下げ方ってそういう掘り下げ方じゃねえよ!れ、れれ恋愛遍歴とかそ、そそ、そんなんどうでもいいだろ!」
「ま。たしかにどうでもいいわな。誰得だし」
蓮と宗介がアホな話をしていると、ドアの向こうからノックがした。蓮が対応すると「失礼致します」という返事と共に丁寧さと渋さの中に優しさを含んだ声色をしたダンディな紳士が、部屋の中に入って来た。
「黒崎様‥おや、立花様もご一緒でしたか。これは丁度良かった」
彼ら二人を見た紳士は、笑顔で言った。
この紳士は、エルウィン=デア=セルヴァンテスという名前で、背が高くシュッとした出で立ちと、やや銀色かかった真っ白な髪に、優しげな眼差しと、ナイスなガイの口髭を蓄えたベストオブ執事である。この屋敷の前主人に長く仕えていて、現在は事実上の屋敷の管理者であると同時に蓮に仕えている執事である。もちろん蓮に仕えていると、同様に宗介や他の人間に対しても気配りを忘れず厳しくも優しい保護者である。
「どしたじいやさん?」
「ええ‥実はお二方にお願いしたいことがありまして。‥早急に対応して頂けると助かります」
部屋に入って来た時とは一転して、エルウィンの表情が険しくなっていた。




