第三話 8
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街が荒らされていた。荒らしているのは人間ではなく怪物だった。その怪物はどこかネコ科の猛獣に似たような姿をしていた。頭部は、ジャガーのような形をしていて身体全体にヒョウのような縞模様がついている。怪物は、四足歩行ではなく二足歩行で全体的にゴツい見た目をしていた。手首から先は猫の手のような形をしているがちゃんと五本の指があり、人間のような複雑な動きを可能としている。
指先には、鋭い鉤爪のような爪がついていて、鉄だろうが鉱物だろうがなんだろうが容易く引き裂くことができる。足は腕同様にがっしりとして、ネコ科の猛獣そのものの形をしている。一目で怪物とわかるその姿に街の人々は即座に逃げ出した。逃げ果せた者たちは、直ちに安全な場所に避難し息を潜め身を隠した。しかし、逃げ遅れた人達は怪物の人間離れした強靭な脚力で追いかけられ追い詰められ、鋭い鉤爪の餌食となってやがて無残に切り刻まれてしまった。
辺りには、人々の悲鳴や怒号、そして血と死の香りが漂っていた。怪物が現れた時点で警察も駆けつけたのだが、まるで歯が立たず数名の負傷者を残して、すでに壊滅していた。かといって自衛隊が来たとしてもあまり状況が変わらないだろう。生存者の人数がわずかに増えるに過ぎず、どちらにしても被害は出ていただろう。
それに“特区”というごく限られた地区に自衛隊が派遣されたという前例がない。なぜなら今まで公に怪物が出るという事がなかったからである。怪物や人外は人知れず現れ、人知れず姿を消していくのが常であった。特区には“人外”を狩る専門の人外狩りという者達がいるが、彼らの多くは人の平和や安全や自由を守る為に動いているのではなく、自分の為だけに動いている。怪物達が現れても依頼と報酬が無ければ彼らが自ら動くことはない。特区の王と呼ばれる存在も、ここ数百年程姿を見せておらず、実在しているのかどうかも不明な有様である。
数ヶ月前に人外が現れた時は真祖である吸血鬼が一掃し、解決したことで事なきを得たがその時に彼は亡くなっている。故に現在、特区の中で人々を守る者が不在であった。だが、今誰もいないこのタイミングこそが“王の護人”であるシャルデウスにとって最良の時期だった。
この怪物は、人間の“憤怒”や“怨み”の感情を利用して怪物を生み出している。生み出したのは他でもないシャルデウスである。
「さぁて‥“彼ら”は来てくれるかな」
街で暴れている怪物を眺めながら、猫の毛みたいな癖っ毛を指先でくるくるといじりながらシャルデウスは一人呟いた。




