第ニ話 49
☆☆☆
時代の流れに、やや遅れ気味の折りたたみ式の携帯電話が鳴った。男は、携帯の背面にあるディスプレイを確認した。電話をしてきた相手を見るためである。男は、携帯を開いて通話ボタンを押した。
『はい。井萩です』
淡々とした口調で、電話に出る。元々、表情や感情が豊かではないため、機嫌が良くても悪くてもあまり違いはない。
『おや?立花さん?ご苦労さま』
その電話の主は、宗介だった。蓮のデータ収集が終わった事の報告だった。
『一応、終わった』
『ふむ。随分と長かったですねぇ…どうでした?彼は?』
『強かった…そんだけだ』
『ほう。貴方に強かったと言わせるとは、彼もなかなかやりますねぇ』
イヤミなのか賞賛なのかわからない感想を井萩は宗介に述べた。もっとも褒められたとしても宗介は、嬉しくはないのであろうが。
『で。データなんだが…闘った時に機械が壊れちまった』
本当は、自分で破壊したのだが、宗介は嘘の報告を入れる。
『ああ。問題ないですよ…既に、主要データは依頼人に送信済みです。そもそも、彼と闘って頂くのに無事に済むとは思ってませんでしたしね』
スマホに良く似た機械を見ながら、井萩は答える。
蓮と宗介の闘いが、終わるタイミングを見計らって依頼人へデータを送っていたのである。
『そりゃあ良かった。じゃあ、報酬は振り込んでおいてくれ』
『ええ。わかりました。貴方の口座に振り込んでおきます。ご苦労様でした』
依頼人ーー、井萩の上にさらに依頼人がいたのは驚きだったが、宗介は井萩とはあまり関わりたくなかった。関わりたくなくて早々と電話を切った。
ブツッーーーという無機質な音と共に宗介との通話が切れた。相変わらず、つれない態度を取っていた宗介だったが井萩にとっては、そんなものはどうでも良くデータを収穫できただけで、充分だった。
「私達と、闘った時よりも腕を上げていますねぇ…彼。…もう、鶴田クン程度じゃ太刀打ちできないかも知れないでしょうねぇ」
井萩が、不敵な笑みを浮かべた。蛇が獲物を喰らおうとしているような、表情をしながら。
「やはり、そうでなくては面白くない。最強格の人外…それも“真祖”の吸血鬼を狩れるなんて、最高ではないですか…」
まだまだ、続きそうな蓮との“縁”を心底楽しみながら、井萩は、特区を後にした。蓮と人外狩り達との闘いもまた、終わりそうになかった。井萩がいなくなったあと、ひゅう、と冷たい風が一つ吹いた。
☆☆☆
fin




