第ニ話 39
宗介は、低い体勢のまま小さな呻き声をあげながら蓮に近づいていた。
「やはり…!彼は、心を失っています」
「どういうこと?」
「彼は、鬼に心を喰われてしまったのです」
「鬼だって?」
「はい。あの状態は間違いありません。彼は、闇の眷属を倒す退魔の者。それも“鬼族”を退ける一族なのでしょう。私も“立花”と名乗る剣士を何人か知っております。彼の一族は魔を退ける強大な力があるものの、魔と寄り添いやすく、挙げ句の果てに心を喰われてしまう者が多いと聞いております。強大な力の副作用…のようなものですな」
エルウィンはさらに続ける。
「“立花”の一族が、心を喰われてしまう原因の一つは、彼が持つあの日本刀です。あの日本刀は、強力な退魔の力を持つ刀なのですが、曰く付きの代物で妖刀とも言われているそうです」
「妖刀?」
「はい。あの刀には、“鬼”の力が使われています」
「鬼を倒すのに、鬼の力を使っているのか?」
「毒をもって毒を制す…という事なのでしょう。人間よりもはるかに強力な力を持つ鬼に対抗するには、鬼の力を利用する他無い、と、考えたのかも知れません」
“立花”の一族は、何人か存在する退魔の力を持つ者達の中の、鬼を倒す事に特化した一族で、“鬼狩り”あるいは“鬼殺し”の一族と呼ばれている。立花の一族が、闇の眷属の中でも最強種の一角と言われる鬼族とこれまで渡り合えていたのは“立花”家の退魔の力はもちろんだが、刀の力によるところも大きかった。
「そんなに、すごいのかよ。立花」
「文字通り鬼の如き強大な力を持つのですが、やがては戦と血と殺戮を求める化物に成り果ててしまうのです。……いずれこうなることは薄々、感じていたのかも知れませんな」
「心を喰われた状態ってのはみんなあんな風になっちまうのか?」
「過去に何人も心を喰われた者達を見てきていますからね。まず、間違いないでしょう。ただし、立花様の場合は通常とは、違うようですが…」
「?」
「恐らくですが…立花様の場合は、黒崎様と闘った事がきっかけとなってそれまで抑えていた、闇の眷属に対して殺戮本能が目覚めてしまったのでしょう。そこを己の中に潜む鬼に付け込まれてしまったのだと思います」
「・・・・・」
揺ら揺らと身体を揺らしている宗介を見ながら蓮は、拳に意識を集中させる。




