第ニ話 5
ある晴れた日の朝。蓮は、屋敷の広場にいた。
人外狩りによる貧民街襲撃事件があってから、早いもので、二週間経とうとしていた。
「ほっほっほ。調子はよろしいみたいですね黒崎様」
「おかげ様で。いやー死ぬかと思った」
蓮は、はははと笑って言った。
蓮は、屋敷の広場で先の闘いで自身に目覚めた能力の確認と、鍛練という程ではないが、軽く練習のようなことをしていた。
蓮には自分に宿った紫色の死毒という能力の使い方を知る必要があった。
「ほう。それが、黒崎様の言っていた?」
紫色に輝く眼をエルウィン向ける。
「ああ。あいつと闘っている時に、使えるようになったぜ」
蓮は、ドヤ顔でエルウィンに言う。
しかし、エルウィンは華麗にスルーし、何か考えこんでいた。
スルーされた蓮は、少し悲しい気持ちになったが気を取り直して、練習に励むことにする。
あの時は気がつかなかったが、紫色の死毒を使用している時、蓮の腕も薄っすらと紫色している。発現したばかりの頃は、毒の制御に苦労したのだが毎日続けていたおかげで、ある程度の調節ができるようになった。
さらに、蓮は腕が紫色になっている状態で、花や生き物に触れたらどうなるのか?食べ物や無機物に触れたらどうなるか?も色々、実験してみた。結果として、闇の眷属である自分自身に効果抜群だった。
まず、花や生き物には生死にかかわる重篤な事態は起こらなかったが、犬や猫などの生き物にはあからさまに嫌がられた。無機物には、特に目立った変化はなかった。が、重要なのはここからである。
紫色の死毒の状態で食べ物を食べ、蓮は自分の毒で死にかけたのだ。エルウィンが蓮を自室で見つけた時には、顔が紫色に変色して息をほとんどしていなかった。
しかし、不完全とはいえ吸血鬼。蓮はすぐに意識を取り戻したのだが、四肢が全く動かせなかった。麻痺などではなく、本当にどこも指一本動かせなかった。まるで、自分の身体では無いような感覚だった。そもそも感覚がないのに感じるという表現はおかしいのだが、蓮にはそう感じたのである。
意識は、はっきりしているのに四肢のみが身体と繋がっていなくてバラバラに離れているようにも思えた。加えて触覚は鈍くなっているのに、痛覚ははっきりと感じているのである。手や足に触られると手袋や厚手の服を着た時のような鈍い感覚。なのに、痛みだけはあるのだから最悪だ。
これを、相手にやられたらたまらないだろうな、と思った。かつて紫色の死毒を使っていた“若様”と呼ばれていた吸血鬼もこの能力を使う時は、躊躇っていたのだろうか?
ぼうっとする意識の中、蓮はそんなことを考えていた。




