第一話 20
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夜。特区を離れてから、数時間がたっていた。
井萩は、鶴田を抱えたまま自分達のアジトへ戻っている。
彼らのアジトは、Y市から離れた場所にあり、街から離れていくにしたがって明かりが少なくなっていき、辺りに暗闇が拡がっていく。
(ふむ…。エルウィン=デア=セルヴァンテスですか。予想以上にでしたね。私が鞘から刀を抜かせてもらえないとは‥ま。それは良しとするとして…あの吸血鬼…確かクロサキという名の少年…彼もなかなか。それにあの(しょうねん)が鶴田クンを倒した時の、紫色に輝いていたあの眼。フフ…楽しみですね。斬り刻むのが、とても。彼の名前も胸に刻んでおく事にしましょう)
心なしか、アジトへ向かう井萩の足どりは、弾んでいた。弾み過ぎて、肩に乗せている鶴田を落としそうになる。
「おっと。鶴田クンを落とすところでした」
「う…」
(やれやれ…意識はあるようですね。
まあ、コレはまだまだ使えそうですし。もう少し、利用価値がある…か)
ふと、井萩は右腕に違和感のようなものを感じた。鶴田を一旦降ろし、反対の手で、触れてみると液体のような滑っとしたモノが付いている。暗がりで、きちんと確認できないが恐らく、血だろう。
エルウィンとの対峙の時に、受けた傷だということは、明白である。
ーーしかし、いつ攻撃を受けた?
井萩は、右腕に付いている血を軽く舐めると狂気に満ちた笑みを浮かべる。
「フフ…面白い。あの特区…なかなか容易くは、制圧できないようですね。気は乗りませんが、一応、“あのお方”に報告しておきますか。今日のアナタの失態も含めて…ね。鶴田クン」
鶴田は、意識は失っているため答えない。井萩は、狂気じみた瞳で鶴田を見つめながら、嗤う。
井萩と鶴田を撫でる夜風は、生温く不気味で身体中にまとわりつくような、不快なモノを孕んでいた。
その日の月は、赤黒く夜空に浮かんでいた。血のような赤、まるで、彼等が殺してきた人外達の血の色のような赤だった。
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第一話 Fin.




