未来
作戦本部は緊張していた。
これから捕獲するのは、死神の左手―――子供だが、特殊訓練を経て一個体で中央要塞と同等戦力を保持すると言われている。
本来ならば国家の最高戦力兵。
それを、捕獲しなければならない。
しかしもともと縮小されていた軍の戦力で、任務遂行はかなり厳しい。
歩兵部隊は壊滅、目標の位置が特定できないのでミサイルもうかつに使えない。
正直、手詰まりだった。
「行ってくれるかい、アルトリア」
上席からモニターを眺めている婆様は、横に立つアルトリアに目配せをする。
アルトリアは無言のまま、モニターを眺めた後、出口へと歩き始めた。
アルトリアの背中から婆様の通信が軍部に入る。
右手の任を受けたアルトリアだが、彼は三代目の右手だ。
まだ就任してから二年しか経っていない。
生まれたときから左手の任を保持しているツィーチェと一対一では厳しいが、軍部の力を借りれば同等。
まだ、戦えるレベル。
シェルターのエレベーターが起動する。
血と肉塊と残虐が鼻を突く、戦場へ。
「アル、僕とたたかいたいの?」
目の前のツィーチェは優しい顔で微笑む。
返り血が頬に付いていなければ、まるで天使のようだ。
アルトリアはさすがに一瞬萎縮する。
ツィーチェを見つけることはアルトリアにとって簡単なことだったが、彼女はあまりにも人の死に近い臭いがした。
歩み寄ってくる足取りも、現実味がない。
ゆらゆらりとしている。
「いいよ、アルとは一度戦ってみたかったし。
人間の相手はもうあきたし、犬ってどうなんだろうなぁって思ってたからさー。
二年ももったから、とくべつだよ」
自分の頭をくしゃくしゃと掻き乱す。
そして微笑みが、深くなる。
「全力、だからね?」
絶対殺人モードの笑みは、ひどく優しかった。
―――結果、軍部部隊はほぼ壊滅。
アルトリアも二度と戦場に立てない程のダメージを残した。
作戦本部も半壊、婆様は片腕だけで済んだ。
ツィーチェこと死神の左手は、永久回廊にようやく捕獲された。
もちろん五体満足のままで。




