五本
藍色のマントの男は、目の前の少年のような少女と対峙している。
気を抜けばすぐに殺されるだろう。
天才的な感性をもつ彼女は、まるで獣だった。
「兄ちゃんはーっどーこーだっ?」
可愛らしい声を斬撃と共に繰り出される。
押されっぱなしの攻撃に鉤爪が折れてしまいそうだ。
ツィーチェの兄は確かに主教派の人間。
期待の新星でそれほどのカリスマ性があった。
――五年前までは。
国に売られた彼女は期待された兄の身代わりだった。
兄はそれを知り、妹に人目会おうと、城の離れに訪れる。
だが訓練中のツィーチェは、アイマスクをして視覚を断っていた。
運良く調教師が止めに入ったが、兄は植物状態となり、死んだように生きている。
失われた神の復活を待ち続けるように、まわりは決して彼の死を許さなかった。
ツィーチェは、その事実を知らない。
目標は完全殲滅。訓練中の教えだ。
「どんどん殺せばいい…」
藍色のマントの男は呟く。
彼らはツィーチェに勝とうなんて思っていない。
最後に笑えれば……それでいい。
「うーん……おまえ、死にたいの?
それなら、僕が殺してやるよ」
目の前からツィーチェの姿が消えた。
もう一度彼女の姿をその目に写すことは、なかった。
八坂の婆様こと――八坂ハルニレに報告が上がってきたのは、朝一番だった。
「左手が主教派のファイブブルーを全滅させた。
全体集会で問われるだろうが、さすがにこちらももう庇いきれん。
永久回廊の手続きを発行しろ」
婆様は額に手を当てた。
苦々しくため息を漏らす。
ツィーチェには、長いが厳固な鎖がある。
生まれたときから、鎖は永遠に約束されている。
「婆様、とりあえずみんな殺したんだけどね、兄ちゃんいないんだ。
もしかして…うそ吐かれたのかなー」
教会に所属していたすべての関係者は全滅。
ツィーチェの兄を語ったもの達は見る影もなかった。
「僕に嘘つく意味が分かんないや」
主教派はようやくツィーチェを訴えられる。
狂った悪魔の子だと。
国はもうツィーチェを護ることを辞めた。
ただ情報だけは漏らさない為に、彼女を永久回廊と呼ぶ地下空間に幽閉する。
「まだ子供じゃないか…ツィーチェもツヴェルフも…」
こうしてツィーチェは、弱冠十歳にして、久遠の闇が拡がる牢獄―――永久回廊行きの処分が下された。




