三本
アルトリアの電話口から罵声が聞こえる。
婆様が怒るはずだ、軍用基地の主力部隊の一つを壊滅させてしまったのだから。
それでも死神の左手も右手も他に適任者がいないので、飛ばされることはない。
軍部に対しても、正体不明の反乱分子に潰される程戦力が低下していたとなれば、引き下がるしかない。
アルトリアも婆様も分かっているが、ツィーチェはその理屈を知らない。
…そもそも興味がない。
婆様は心配して怒っているのだが、当人のツィーチェはアルトリアに通信を託し、さっさと帰ってしまった。
「…今はそれでもいいけどねぇ…。
あの子だっていつまでも男の子じゃいられないんだ。
その時じゃ遅いんだよ」
どんなに強くても、ツィーチェは女の子。
国の態勢が変わり、今の位置や任務ができるか分からない。もし全てを失ったとき、
ツィーチェは普通の女の子として生きていけるのか。
…無論、ツィーチェはそんなことを考えていない。
「―――ブラウデ・ルルスカル・ツィーチェ」
突然だった。
人通りの少ない昼過ぎの道を歩いていて。
人影がすれ違いざまに耳打ちするかのように呟いた。
脊髄反射のように、ツィーチェは素早く脇差を握る。
振り返る反動を使って間合いを詰めた。
彼女を動かすのは機密情報保全。
呟かれたのは、抹消されたはずのツィーチェの本名。
誰も知るはずのない情報だ。
目の前の男は、その一撃をひらりとかわす。
蛍光緑のサングラスに藍色のマントで露出を抑えたスタイル。
一撃をかわした動きから見ても、素人ではない。
休む暇を与えず、舞うように斬り込んでいくが、ツィーチェの刃がマントをかすることもない。
ツィーチェの攻撃にかまわず男はかすれ声で、再び呟く。
「ツヴェルフ様から御言付けがある」
踏み込んだツィーチェの足が止まる、逆手に持った刀は構えたままだが。
男は呟く。
「鎖のついた殺戮に満足できないなら、いつでも歓迎する…とのことだ」
ぎゅ、と柄を握った指に力が入るツィーチェ。
「…目標ほそく。にんむ、かいし」
男に向ける眼差しに、瞳の光はない。
ツィーチェの絶対殺人モード。
『ばあちゃん』
「ツィーチェ、どうしたこんな時間に」
『かいたい処理対象をかいしゅうさせて』
「…反乱分子かい。疲れてるね、らしくないじゃないか」
『んー、どうなんだろ、疲れてはない…。
――あのね、
兄ちゃんが生きてるみたいだから、僕ちょっと行って殺してくる』
藍色のマントで刀を拭いながら、ツィーチェは告げる。
『今度は首をもいで来ないと、また生き返っちゃうよね!』
けらけらと笑うツィーチェ。だがその瞳に光はない。
『だいじょぶだよ。
ちゃんと殺してくるから』




