二本
死神の右手こと――アルトリアはまだ来ない。
ツィーチェだけが待ち合わせの丘に座っている。
眼下には田園風景にそぐわない軍用要塞基地が広がっていた。
まだ肌寒い時間帯。
ツィーチェは特殊素材のぴったりとしたシャツに、下は赤い袴。
羽織るものもないので、細い二の腕が朝の風にさらされている。
「おーそーいっ。
もう『左手』だけで行っちゃうぞお」
むくれて言う台詞も尽きて、足をばたばたさせている。
死神の右手と左手は、増えすぎた軍の縮小に借り出されるまでに落ちぶれた。
…戦争のない世の中なので仕方がない。
ツィーチェは本当の戦争用に訓練された特殊兵。
こうして度々、軍備の緊張感と縮小の為に国から依頼を受けている。
「……ん、遅いよお。
もー先行くからねっ」
アルトリアの気配を背中に感じたツィーチェ。
後ろを振り向かずにそのまま走りだした。
基地までは丘を下って一直線。
走りながら助走をつけ、踏み込む。
「おっじゃまっし」
鍛えられた筋肉が収束し、ツィーチェは基地の天窓を突き破る。
基地の静寂は破られた。
「まーっっす!」
ちょうど朝の食堂だった。
たるんだ軍の空気は一気に引き締まる。
ツィーチェは脇差に両手をかけた。
「動くな」
さすがに幹部は銃を携帯していたらしく、ツィーチェの背中に向けて照準をあわせる。
ツィーチェはまるで西部のガンマンのようなポーズで腰に手を当てて止まった。
「何者だ?」
静まり返る食堂。
フォークが動く音さえしない。
ツィーチェは無邪気な笑顔を向けて、銃口に振り返る。
「僕が何者かだって?
それよりどーしてすぐ撃たないんだよ、おじさん。
こーんなにもはしゃいで飛び込んできたのにさぁー」
銃口を未だ幼い胸元に当てて、紅い舌を覗かせる。
「そんなんじゃ、すぐ死んじゃうよ?」
本能的な恐怖から、幹部の男は発砲した。
しまったと後悔するが、ツィーチェは横に軽くずれただけだった。
おかげで正面の隊員に弾が当たる。
それに爆笑するツィーチェ。
驚愕する一同。
「だっせーの!
あのさぁ…侵入者の身元は解体して明かす。
侵入者はまず殺す。でしょ」
腰を落とし、脇差を抜く。
抜かれた刀身のきらめきをみたものが、次々と倒れていく。
ツィーチェは笑う。
「目標は殺す!ころすころすころすころす!!」
食堂には悲鳴が響き渡る。
すでに出口の扉には鍵がかけられていた。アルトリアによるもの。
だからこの食堂の人間は全てツィーチェの獲物だった。
「にしゃたくいつ!
死ぬ?戦う!
さーどっちっ!」
殺戮は楽しい。
楽しくって仕方なかった。
ツィーチェは血溜りの中で無邪気に笑っていた。




