一本
死神の左手ことツィーチェは、今年十になったばかり。
八坂の婆様はそう言うけれど、ツィーチェ自身自覚はない。
誕生日を知らなくても、ツィーチェは幸せだから。
「アルトリアも呼んだはずだけれどね」
よく晴れた水曜。仕事を受理するのはいつもツィーチェ一人。
アルトリアと休みの日にあう事は一度もない。
毎度のことなので八坂の婆様もため息一つ漏らすだけに留める。
「仕方ないよー。
アルは僕と違って『かぞく』がいるんだもん。
お休みの日くらいちゃんと会わないと忘れられちゃうよー」
楽しそうに椅子にあぐらをかいたまま笑う。
「しがみついてるみたいで、あたしゃあ好きじゃないけどね。
…で仕事の話だけど、今週は500。ちゃんと資料も見てちょうだい」
ぱさと小さなメモ書きを渡されると、ツィーチェはざっと目を通して破り捨てた。
用は終わりとばかりに、婆様に背を向ける。
「ツィーチェ、悪いね。
まだ兄さんは見つからないよ」
ぼそりと呟くように告げる婆様の言葉に、ツィーチェは苦笑して振り向く。
「僕にそっくりだから見つかるよー!
それまで男の子でいるつもりだから、気にしないで」
ツィーチェ、十歳。
行方不明の兄の代わりに、彼女は国の掃除屋を請け負っている。
「もしもしアル?
うん、もらってきたよ。
…場所は読めなかったからわかんない。
だって〜漢字難しいんだもん!」
まだ国に売られて間もない頃から訓練を重ね、ようやく仕事を始めて三年。
だがツィーチェは充分に才を生かしていた。こうして街を歩けるまでになっている。
腰には二本の脇差。
ツィーチェはまだ刀を持つまでの筋力が無いために、これで代用している。
電話の相手はアルトリア。
「うん?
数はねぇ5000だったかなぁ…んー。
じゃー1000じゃない?
別に細かいのはいいじゃーん。
とりあえず基地潰せばそれ位いくでしょー」
ツィーチェは強いて適当な口調で話す。
仕事に本気で取り組む姿勢が馬鹿馬鹿しい。
そう思っている。いつものスタンス。
アルトリアはため息を吐き、ようやく概要把握をあきらめた。
「はいはい。
じゃ明日の朝にね。
…やぁだよ、分かってるでしょお。
…ふふ、よろしーい!
んじゃねー」
がたん、と受話器を落とす。
空を見上げると晴天が眩しい。
伸びをして、歩きだすツィーチェ。
「兄ちゃん、この空のしたでまだ生きてるかなぁ」
半分冗談で呟くツィーチェ。
さぁ眠ろう、明日は早い。
ツィーチェは鼻歌を歌いながら、明日の殺戮を心待ちにしていた。
行方不明の兄が生きているはずが無い。
けれど、
ツィーチェはなんだかそんな気がして少しだけ楽しかった。
「何度でも殺してあげるよ、
兄ちゃん」
晴天に負けないくらいの、突き抜けるような笑顔で
ツィーチェは呟いた。




