第3話 浦和の稲葉組
数日後。
この日は秀美・六花と一緒に登校する。
リタは、埼玉県川口市の女子高に通う2年生だ。
「リタちゃんと一緒に学校行くの、久しぶり。嬉ピ」
六花が女子プロレスラーのような巨体をくねらせる。
「姐さん、なんか眠そうっすね?」
「ああ。最近ゲームにハマってて。藤吉、『信長の渇望』って知ってる?」
「いえ。なんかパチモンくさいっすね」
「それが本家よりリアルでムズいんだわ。全然進まねえんだ。おまえら、今度ちょっと泊まりに来いよ。一緒にやろうぜ」
「女子会ね?わあ、楽しみ」
「そう言えば、姐さんってなんか信長っぽいっすよね?」
「あ。私もそう思うことある。カリスマ感が、なんか信長」
「まあな。あたし、たぶん生まれ変わりなんだよ。上総だし」
「あ!織田上総介っすね?」
「待って。『織田』もムリすれば『リタ』になんない?オリタ…リタ…」
「ハハ。そこまでいくと、逆に嘘くせえわ」
「ん~。そうなると、藤吉も権六も‥‥」
話をしてるうちに、黒塗りの高級外車が横につけてきた。
ウィンドウが下がり、いかつい男が声をかける。
「上総、リタ…さんですね」
「……あたしに、何か用?」
「乗ってもらえませんか?うちのオヤジが、リタさんと話をしたがってるんで」
「大宮ら辺の組?」
「察しがいいですね。浦和の稲葉組です」
「ああ。確か、足利会系の?」
「田舎の組織のことまで、よくご存知で。是非とも、ご同行お願いします」
秀美がリタに耳打ちする。
「姐さん。行くつもりっすか?」
「何の話かくらい見当はつく。行かなきゃ、厄介事が増えるだけだ。おまえらは先に学校行ってろ」
「いや。でも」
「藤吉。これだ、これ」
リタが右耳のピアスを触って見せた。
六花は拳を握りしめている。
リタを護る臨戦体勢だ。
「権六。おまえは動くな。今は武闘派の出番じゃない」
「……」
「行くよ。甘いモンくらい出るんだろうね?おっちゃん」
「……用意しますよ。お嬢さん」
心配気な仲間を残して、リタは車に乗り込んだ。
(浦和市の稲葉組。足利会系)
秀美はわずかな情報を頭に刻み込みながら、走り去る車を見送った。
大宮市の隣、浦和市の稲葉組事務所に通された。
応接間に入る前の廊下で、迎えに来た男が立ち止まる。
「ええと。ちょっと言いにくいんだが、身体検査をさせてもらえるか?」
「……触るの?だったら、誰か女性に代わってよ」
「いや。今ここに女はいないんで、悪いが俺が……」
リタが露骨に嫌な顔をして、身構える。
「おじさんがロリじゃないって、証明できるの?」
「あたりまえだ。俺には、おまえぐらいの娘がいるんだ。だが、念のため…」
「要らねえ!相手は女のガキだぞ。ど阿呆」
応接間の中からの声。
「じゃあ、通しますよ。ただ上総リタは、東京と埼玉数百人のアバズレ女子中高生を束ねるレディースの総長なんです。くれぐれもお気をつけて」
(アバズレ?どういう意味だろ?)
男は渋々引き退がった。
中に入ったリタを、クリームパフェと恰幅のいい老人が迎える。
「ほう。ナントカ坂にでもいそうな、カワイコちゃんじゃねえか」
細川が目を丸くする。
「もっとやさぐれて目つきの悪い、いかにもスケバンってのを想像してたが」
「ああ、それがアバズレなの?まぁ、令和だからね。マイルドなんだよ。じいじ」
「ふ。じいじか。そういや、下の孫娘もJKってやつだったな」
ソファに腰掛けるや、さっそくパフェに食いつく。
その姿自体は、帰省した孫娘のカワイイ仕草だ。
「まあ。世間話はともかく。あんた、独眼竜をぶっ潰してくれたんだってな?」
眼はもう、祖父のそれではない。
やってくれたな、というヤクザの眼だった。
リタはかまわず、パフェを頬ばりながら話す。
「へえ。あの程度でぶっ潰れたんだ。なら、あたしらがやらなくても、誰かが潰したんじゃない?例えば、ヤクザとかがさ」
「嫌味か、そりゃ。まあ。ヤクザは潰さねえだろ」
「トクリュウ(匿名流動型犯罪集団)だから、利用価値がある?」
「だな。やるとしたら、世間ウケを狙うサツか特捜部だろうな」
「あんた達がそうやってあっちの連中に丸投げしてるから、図に乗ったんだよ。あの連中は、女子中学生にまで手を出してるんだ。あたしのかわいい後輩たちにね」
つづく
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