第1話 あたしが上総リタだ
令和最初で最後のスケバン。
それが、上総リタの通り名だった。
令和9年(2027年)2月。
新宿歌舞伎町劇場通り。
夕方にもなると、ピンク系のキャッチがどこからともなく湧いてきている。
その誘いを期待でもしているのか、ターゲットが物欲しげにぶらついていた。
「あいつで間違いないな?」
路地裏に潜む女子の集団のひとり、藤吉秀美が今回の依頼者に尋ねる。
「はい。あれが玉木玲央です。あいつはいつも、この時間から歌舞伎町で遊び始めます……私のお金で」
依頼者が唇を噛みながら答える。
(はあ。JCに売春をさせるクズ野郎か。姐さんが怒り心頭なわけだ。あの人、性的行為にはおばあちゃん並みに口うるさいからな)
秀美はため息一つこぼしてから、スマホのLINEでメールを打つ。
〈背の高いB-boy風チャラ男〉
「182、3はあるな。あたしとのギャップは20センチか」
いつの間にか背後に、上総リタが立っていた。
セーラー服にロングスカート、昭和のスケバンスタイルだ。
彫りの深い顔立ち、いわくありげな碧い瞳、茶髪のピクシーカット、美形だ。
「姐さん。ホントに行くんすか?指揮官が現場にまで出張るのは……」
「藤吉。あたしはプレイングマネージャー・タイプなんだよ。たまにゃ、打席に立たせろ」
「……わかりました。ただ、私はフジヨシっす。ホント名前覚えませんよね?」
通りの向こう側で待機していた仲間ふたりが、メールを確認してからアクションを起こす。
「ヘイ、メン。何か探してる?」
「うちらも今、今夜のサイファー求めてるし」
突然ギャルふたりが、両脇に並んできた。
今の色街は、改正風営法によりあからさまなキャッチ行為はできなくなっている。
だがこの歌舞伎町では、あの手この手で勧誘をしてくる。
例えばこんな風に、女性側からダンスに誘う体でのキャッチもあるのだ。
「わり。俺、なんちゃってB-boyなんだわ」
玲央は商売がらみなのかどうか判断できず、適当に流した。
「や。マジで踊らねえし。ベッドの上でブレイキンするだけだが?」
「女子ふたり相手できるムーブあるなら、どよ?」
玲央が足を止める。
(ガチの逆ナンなら、据え膳食わぬは、だな。やっぱ俺、ギャル系強いわ)
ふたりの女子を品定めしている。
隙だらけ。
リタが駆け出した。
両脇のふたりも察して、玲央の腕を掴む。
「お。ゴーインだね。早くも3P的な?」
だがふたりは、男を逃がさないように掴んでいるだけだ。
やはりキャッチだった。
「ジャンピン‥」
リタが跳んだ。
「ヘッバッ!」
グシャッ!
玲央が正面を向いた頃には、自分の顎に何者かの頭突きが刺さっていた。
強烈なジャンピング・ヘッドバットだ。
顎の骨にひびが入る。
不意に揺らされた脳が悲鳴を上げる。
玉木玲央は声ひとつ上げることなく、その場に崩れ落ちた。
「頭、膝、肘。この三つは性差なく、硬い」
160㎝の女子が183㎝の半グレ男を一撃で倒すための、合理的な技だった。
「藤吉。権六に伝えろ。攻めて攻めて、攻めまくれ」
埼玉県大宮市。
報せを確認した権俵六花は、スマホをしまって手下を集めた。
「総長のGOサインだ。行くぞ」
彼女の部隊は権六隊と呼ばれる精鋭部隊だ。
女子と侮るなかれ。
格闘技や武道の上級者もいる。
カッターナイフやアーチェリーを手にする者もいる。
何より、小娘であることが最大の武器だろう。
どちらに非があっても女子に暴力をふるえば、第三者はそちらの方を悪だと判断する。
相手側も躊躇する。
その隙をつくのだ。
攻撃対象は、「独眼竜」という半グレ組織がアジトにしている潰れたクラブだ。
「かかれ!」
つづく




