表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ガチ恋プリンセス】SideStory 『Future Visioned Star』~エピソード0~  作者: 夕姫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/34

第6話:雨に濡れない声

第6話:雨に濡れない声




 一通り私の話が終わると、星乃社長は手元に置いていた白紙のメモパッドを、人差し指の先でトントンと規則的に叩いた。


 乾いた音が、静かな会議室に冷たく響く。その音の間隔が、まるで私の死期を刻む秒針のように感じられた。


 彼女の微笑みは、まだそこにあった。けれど、その瞳の奥にある光が、ふっと温度を失ったのを、私は肌が粟立つような予感とともに感じ取った。


「……ねえ、如月さん。一つ、聞いてもいいかしら?」


「はい、何でしょうか」


 私は、崩さない笑顔のまま問い返した。頬の筋肉が強張っているのが自分でもわかる。けれど、ここで表情を崩すわけにはいかない。「天才子役」のプライドが、私に完璧なポーカーフェイスを強要していた。


 しかし、そんなポーカーフェイスですら粉々に砕けるかのように、星乃社長は、私の目をじっと見つめたまま、どこまでも透き通った口調で、残酷なまでに真っ直ぐに言葉を継いだ。


「あなたのそれは、子役時代の悪い癖なのかしら?」


「……え?」


 言葉の意味が、一瞬、理解できなかった。


 星乃社長は椅子に深く背を預け、憐れむような、それでいてすべてを突き放すような声を出す。


「今のあなたの言葉。どこかで聞いたような、誰かが書いたような……。面接としては100点の答えだけど、血が通っていない。あなたの喉から出ているはずなのに、あなたの心を通っていないように思えるわ。……ねえ、如月さん。あなたがさっきから並べている綺麗な言葉の、一体どこに『あなた』がいるのかしら?」


 彼女は、何も書かれていない真っ白なメモパッドを、興味を完全に失ったかのように机の端へ押しやった。


「10年だったかしら?……ずっとつまらない答えしかしないのね、あなた」


 「つまらない」。その言葉が、私の胸を鋭いナイフとなって貫いた。今まで培ってきた、私のすべて。100点を目指して、正解を探して、自分を押し殺してまで磨き上げてきた「完璧な演技」が、たった一言で価値のないゴミのように捨てられた。


 呼吸が止まる。


 指先から血の気が引き、視界の端がチカチカと明滅する。


 私はこの10年間、この「完璧さ」だけを頼りに生きてきたのだ。期待に応え、正解を出し、波風を立てずに「如月瑞希」という偶像を維持すること。それが私の生存戦略だったはずなのに。


「……私は、一生懸命、自分ができる限りの誠実さを持って、お答えしたつもりです」


 声が震えた。演じていない、制御不能な剥き出しの震え。


 星乃社長は、机の上の資料をゆっくりと整え始めた。それは明確な面接の「終了」の合図だった。


「そうね、一生懸命『正解』を演じているのは伝わったわ。でもね、如月さん。私たちが探しているのは、そんな綺麗なだけの人形じゃないのよ」


 星乃社長の言葉は、容赦なく私の傷口を抉る。


「……雨の中を走り、泥だらけになって、時間を過ぎてまでここへ来た。なりふり構わずここに飛び込んできた、その『泥だらけの理由』が聞きたかったのに。……あなたの声は、まだあの雨に濡れてもいないのね」


 星乃社長の言葉が、あまりにも遠く、氷のように冷たく感じられた。


「残念だわ。……もういいわよ、如月さん。帰って温かくして休みなさい。今日のあなたは、期待していた……いえ、想像していたような表現者では、なかったわ」


 そう言って、椅子から立ち上がろうとした。


 私の視界が、屈辱と絶望で白く染まる。


 帰れ?


 あんなに走って、泥を被って、プライドをかなぐり捨ててまでここまで来たのに。


 結局、私はまた「つまらない」「空っぽ」だと言われて、あの暗い部屋に戻るのか。また明日から、自分の本当の思いを押し殺して、何者でもない自分に怯えながら、誰かの書いた台本通りに生きていくのか。


 ――ふざけるな。


 私の喉の奥で、ドロドロとした黒い塊が熱く脈動し始めた。10年間、深い地層の下に押し殺してきた感情が、地圧に耐えかねたマグマのようにせり上がってくる。それは「如月瑞希」という完成された虚像を、内側から食い破ろうとする、醜くも切実な「私」の胎動だった。


「……ふざけないでよ」


 低い、濁った声が漏れた。


 星乃社長が椅子から腰を浮かせたまま、ぴたりと動きを止める。


「あら?……何か言い残したことはあるかしら?」


 彼女は椅子に座り直すことなく、立ったまま私を見下ろした。


 その視線が、火に油を注ぐ。


 私は、椅子を蹴るようにして立ち上がった。


 握りしめた拳が、怒りで、あるいは自分自身を解き放つことへの恐怖で、壊れた機械のように激しく震えている。


「つまらない……?人形……?私がどんな思いでここまで走ってきたかも知らないで、勝手なこと言わないでよ!」


 私は、自分でも驚くほど、腹の底からの咆哮を上げていた。それは完璧な発声でも、計算された演技でも、誰かに望まれた正解でもない。


 ただの、泥まみれで惨めな、一人の女の魂の決壊だった。

『面白い!』

『続きが気になるな』


そう思ったら広告の下の⭐に評価をお願いします。面白くなければ⭐1つ、普通なら⭐3つ、面白ければ⭐5つ、正直な気持ちでいいのでご協力お願いします。


あとブックマークもよろしければお願いします(。・_・。)ノ


こちらでキャラクターのイメージ画像とイメージSONGがあります。興味があるかたは1度観に来てくださいo(^-^o)(o^-^)o

私のYouTubeのサイト

https://www.youtube.com/channel/UCbKXUo85EenvzaiA5Qbe3pA

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ