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【ガチ恋プリンセス】SideStory 『Future Visioned Star』~エピソード0~  作者: 夕姫


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第29話:共鳴の産声

第29話:共鳴の産声




「個々の声は完璧。でも、共鳴がない」


 白河ディレクターの冷徹な宣告が、重く、逃げ場のない霧のようにレコーディングブース内に立ち込めていた。100点の技術という壁を必死に積み上げてきた私にとって、その「正解」を否定されることは、足元に広がる奈落を覗き込むような恐怖だった。


 白河ディレクターはコンソールの向こうで、隣に立つ星乃社長へと視線を向けた。


「……社長。彼女たちに何かアドバイスはありますか?」


 ブース内のスピーカーから流れてくる、わずかな衣擦れの音さえもが、今の私には鼓膜を刺すノイズのように感じられた。星乃社長は、組んでいた腕をゆっくりと解き、マイクへと一歩近づいた。


 彼女の鋭い、すべてを見透かすような瞳が、モニター越しに私たち一人一人の魂を射抜く。


《……私が伝えることは、何もないわ》


 スタジオの壁さえも震わせるような重みを持った声。


《あなたたちは既に、答えを持っているもの。……自分を殺して守ってきたその「正解」が、どれほど空虚なものか。Future Visioned Star……未来を見通す煌星。新たに光る一等星が道を照らしてくれているのが、あなたたちにはもう見えているはずよ?》


 突き放すような、けれど確かな信頼を孕んだその言葉。彼女は、私たちが本当の意味で、自らの手で「100点の檻」を壊すのを待っているのだ。


 星乃社長の沈黙が再びブースを支配した。


 私は、マイクを握る自分の指先を見つめていた。また、正解が出せなかった。また、期待に応えられなかった。……そんな、子役時代から染み付いた「負の回路」が、私の思考を支配しようとしていた。


「……ねえ、瑞希ちゃん。100点なんて、もういらないんじゃないかしら」


 詩音さんが、マイクの前でふっと自嘲気味に微笑んだ。彼女はヘッドフォンを片方外し、私たちの顔を、まるで誰かの心を奪おうとする大怪盗のような、鋭くも優しい瞳で見つめた。


「私たちは、綺麗な合唱団を作りに来たわけじゃない。……この『Future Visioned Star』は、泥だらけの私たちが、それでも走り続けようとする歌でしょう?だったら、もっと無茶苦茶に、自分の色をぶつけ合ってもいいんじゃない?私、瑞希ちゃんの『100点』を、私の『自由』でぶち壊したくなっちゃったわ」


「……規律に縛られすぎていたかもしれません」


 若菜さんも、憑き物が落ちたような顔で口元を緩めた。彼女の手元の楽譜には、いつものように細かな強弱やブレスの指示がびっしりと書き込まれていた。けれど、彼女はその楽譜を迷いなく、パタンと裏返した。


「誰かの声に合わせるのではなく、誰かの声を『煽る』。……そんな歌い方、アナウンサー時代には考えもしませんでしたが……今はこの胸が、規律違反を犯せと激しく騒いでいます。詩音さん、あなたの奔放さ、私の『化かし』でさらに煽ってみせますよ」


「私、皆さんの声をもっと近くで感じたいですっ!」


 ひよりちゃんが、弾かれたように元気よく一歩踏み出した。その瞳にはもう、迷いなんて微塵もなかった。


「お姉さんたちの後ろをトボトボついていくんじゃなくて、私も一緒に、最前線を泥だらけで走りたいんです!私の光で、皆さんをもっと眩しくさせてみせますから!……瑞希さん、私たちの『正解』じゃなくて、『本音』で歌いましょう!」


「みんな……」


 3人の言葉を聞いて、私の胸の奥で、カチリと何かが外れ、何かがハマる音がした。


 私は、自分がメトロノームのように正確であることで、この不揃いな三人を「正しく」導かなければならないと思い込んでいた。それが私に与えられた役割(正解)だと思っていた。


 けれど、それは傲慢だったのだ。彼女たちは、私の導きなんて必要としていなかった。ただ、一人の「瑞希」という人間が、彼女たちと共に、傷つきながら叫ぶのを待っていたのだ。


「……わかりました。100点の技術なんて、どこかに置いていきます」


 私はマイクを指が痛くなるほど握り直し、みんなと魂を交わすような視線を交わした。


「調和なんて、いりません。……お互いを食い尽くすくらいの熱量で、ぶつかり合いましょう。……白河さん。もう一度、お願いします。今度は、綺麗事なんて、どこにもありません」


 私がマイクを通じて宣言すると、白河さんは初めて、満足そうに口角を上げた。


 イントロが再び鳴り響く。


 今度の音は、先ほどとは全く別物だった。


 私の歌い出し。西園寺イブとしての低体温な声に、あえて「焦燥」と「熱」を混ぜた。正確なビートをあえて一拍だけ乱し、詩音さんの声にガソリンを注ぐようにエッジを立てる。


 詩音さんはそれを受けて、さらなる高みへと旋律を燃え上がらせた。彼女の歌声は、もはや調和を求めるものではなく、聴く者の心を強奪しようとする、剥き出しの誘惑。


 若菜さんの声が、地響きのような圧倒的な安定感で土台を支えながらも、その中に「愉悦」という名の毒を忍ばせる。ひよりちゃんの歌声が、そのすべてを祝福するように、そしてすべてを焼き尽くすように、天へと突き抜けていく。


 4人の声が、サビで重なる。


 それは、「合唱」ではなかった。


 四つの剥き出しの魂が、一箇所で激突し、火花を散らし、巨大な「光」へと膨れ上がっていく共鳴。


『……4人の絆で 世界の果てまで 届くほどに強く 輝き放てば 最高の未来へ Future Visiond Star!』


 歌詞の一文字一文字が、熱い血となって私の全身を駆け巡る。隣で歌う詩音さんの息遣い、若菜さんの喉の震え、ひよりちゃんの突き抜けるような高音。


 それらが混ざり合い、網膜を焼くようなまばゆい四重奏となって、スタジオを、そして私の世界を、鮮烈に塗り替えていった。


 私がかつて守り続けてきた「100点の孤独」が、この激しい渦の中で、粉々に砕けて消えていくのが分かった。


「……オッケー!最高のテイクよ!鳥肌が止まらないわ!」


 白河さんの、もはや絶叫に近い感嘆の声がスピーカーから響き渡った。ヘッドフォンを外した瞬間、私たちは誰からともなく、マイクの前で互いに駆け寄った。


 汗と、熱気が入り混じる中、私たちは強く、折れんばかりの勢いで肩を抱き合った。


「……やった。……やったわね!」


 詩音さんが興奮した様子で、私の背中を何度も何度も叩く。若菜さんは、少し乱れた髪を直すのも忘れて、瞳を輝かせながら、少女のような晴れやかな顔で笑っていた。ひよりちゃんは、ぐちゃぐちゃの顔で、けれど最高に明るい、本当の笑顔で私たちの手を繋いだ。


「これが……私たちの『Future Visioned Star』。……私たちの、本当の産声ですね」


 私がそう呟くと、星乃社長がゆっくりと、その圧倒的な存在感を示すようにブースに入ってきた。彼女は満足そうに口角を上げると、短く、けれど重みのある言葉を私たちに贈った。


「……いい音だったわ。これで、準備は整ったわね。……行きなさい。あなたたちの新しい物語を、その声で書き換えに」


 ブースを出ると、窓の外には夜の気配が迫っていた。


 けれど、夜空を見上げれば、春の星座たちが、私たちを祝福するように凛として輝いていた。


 私たちはもう、止まった時間の中にいない。


 誰かに評価されるためだけの「元・天才」でもない。


 西園寺イブとしての私の物語は、この四重奏と共に、ついに全世界へとその幕を、鮮烈に、傲慢に押し開けた。

『面白い!』

『続きが気になるな』


そう思ったら広告の下の⭐に評価をお願いします。面白くなければ⭐1つ、普通なら⭐3つ、面白ければ⭐5つ、正直な気持ちでいいのでご協力お願いします。


あとブックマークもよろしければお願いします(。・_・。)ノ


こちらでキャラクターのイメージ画像とイメージSONGがあります。興味があるかたは1度観に来てくださいo(^-^o)(o^-^)o

私のYouTubeのサイト

https://www.youtube.com/channel/UCbKXUo85EenvzaiA5Qbe3pA

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