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【ガチ恋プリンセス】SideStory 『Future Visioned Star』~エピソード0~  作者: 夕姫


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第26話:本当の光

第26話:本当の光




 翌朝、病室の薄いカーテンを強引に突き抜けてくるような、眩しいほどに真っ直ぐな朝日の中で、ひよりちゃんは目を覚ました。


 窓の外には、4月の瑞々しい青空がどこまでも広がっている。私たちがベッドを囲んでいることに気づいた瞬間、彼女の瞳にはパッと灯がともった。そして、あろうことか点滴のスタンドをなぎ倒さんばかりの勢いで、ガバリと身を起こしたのだ。


「あ!皆さん、おはようございます! ……あちゃちゃ、私ったら、とんだ大失態ですっ。すぐ準備してスタジオに戻りますから、待っててくださいね!」


 掠れた声ではあったけれど、そのトーンは無理やり高回転でエンジンを回した、いつもの元気な「ひよりちゃん」そのものだった。彼女は点滴のチューブさえ煩わしそうに、慌ててベッドの下に自分の靴を探そうと身を乗り出す。


 けれど、まだ視界が定まっていないのか、その動作はどこか危うく、見ていて心臓が止まりそうになる。


「こら、ひよりちゃん。大人しくしていなさい。あなた丸2日倒れてたのよ?」


 詩音さんが呆れたように、けれど心の底から安堵したような笑みを浮かべて、ひよりちゃんの細い肩をそっとベッドに押し戻した。


「ええっ、でもでも!私のせいで収録が止まっちゃうなんて、最年少失格ですっ!私、19歳ですよ?体力だけは自信あるんですから、これくらい平気ですって!ほら、もう熱も引いた気がします!」


 ひよりちゃんはなおもニコニコと笑って、私たちが抱いている不安を全力で吹き飛ばそうとしていた。


 その「無理な明るさ」こそが、彼女が19年かけて築き上げてきた生存戦略なのだ。誰にも心配をかけず、誰の重荷にもならず、常に周囲を照らす光であり続けること。その裏側にどれほどの疲弊が積み上げられていたのかを、私たちはもう、痛いほどに知っていた。


「ひよりさん、落ち着きなさい」


 若菜さんが一歩前に出て、手に持っていた新しいスケジュール表を、諭すように彼女の目の前に差し出した。そこには、本来ならデビューに向けて詰め込まれているはずの予定がすべて後ろにずらされ、大胆な空白の「休息期間」が書き込まれていた。


「え……?何ですか、これ。……延期、ですか?私のせいで、こんなに……」


 ひよりちゃんの顔から、一瞬で色が失われた。


 自分という存在が、完璧な計画を汚してしまったと言わんばかりの、ひどく怯えた、拒絶を恐れる表情。


「あなたのせいじゃないわ。デビューまでに私たちが、この4人で最大限に無理せず効率良く活動するスケジュールを立てたの」


 詩音さんが窓際から歩み寄り、ひよりちゃんの癖のついた柔らかな髪を、愛おしそうになんどもなでた。


「ひよりちゃん。マネージャーから聞いたわよ。毎日家事も全部やって、下の子たちの面倒も見て……その上でこの過酷な練習をこなしてたんですって?あなた、どれだけ1人で背負えば気が済むのよ。19歳なんて、もっとお姉さんたちにワガママ言っていい年齢なのよ?」


 ひよりちゃんは、弾かれたように顔を上げた。その大きな瞳が、戸惑いと羞恥、そして堪えきれない感情で激しく揺れ動く。


「……知っちゃったんですか。……あはは、恥ずかしいなぁ。でも、それが私の『普通』なんですっ!お姉ちゃんだから、しっかりしなきゃって。ここでも、私が笑ってなきゃ、皆さんの足を引っ張っちゃう気がして……。私には技術もないから、せめて元気くらいはないと、ここにいる資格がないって思っちゃって……」


「足を引っ張るなんて、一度も思ったことないよ。むしろ、ひよりちゃんがいてくれるから、私はここにいられたんだよ」


 私は彼女の、点滴の針が痛々しい、少し冷たくなった手を両手で包み込むように握りしめた。かつて「100点の解答」ばかりを求めて機械になろうとしていた私には、彼女の「自分がここにいる理由」を探すための必死な足掻きが、あまりにも他人事には思えなかった。


「ひよりちゃん。このプロジェクトは、4人のものなんだよ。誰かが自分を燃やし尽くしてまで出す『正解の笑顔』なんて、私たちは求めてない。……4人が等身大で笑って、4人が全力でぶつかり合って、初めて『FVS』になるの。あなたが欠けたまま先に進むなんて選択肢、最初から私たちには一ミリもないんだよ」


「瑞希さん……」


 ひよりちゃんの大きな瞳が、みるみるうちに潤んでいった。いつも「太陽」であろうとした彼女の唇が、19歳の女の子らしく、あるいは幼い子供のように震え始める。


「私……っ。本当は、すごく、怖かったんですっ。皆さんは大人で、かっこよくて、自分を持ってるのに……。私だけ何もないから、せめて明るく頑張らなきゃって。家でも、私が泣いたら弟たちが不安になるから、ずっと『お姉ちゃん』をやってなきゃいけなくて……っ。でも、本当は……っ、私だって、もっと皆さんと一緒に、何も気にせずにもやしを食べて笑っていたいんですぅ……!」


 堰を切ったように、ひよりちゃんは私の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。大家族の長女という「役割」でも、グループのムードメーカーという「仮面」でもない、ただの「ひより」という一人の女の子としての、初めての魂の叫び。私のニットに染み込んでいく彼女の涙の熱さは、どんな設定資料の文章よりも重く、そして温かかった。


「いいのよ、それで。……これからは、私たちの前ではいくらでも汚い顔をして泣きなさい。私たちが、あなたの涙を拭うお姉さんになってあげるから」


 詩音さんが優しく彼女の背中をさすり、若菜さんも目元を緩めて、静かに頷いた。


「……規律を修正します。ひよりさんは、1日に最低1度は私たちに甘えること。それを破れば、私が許しません。……よろしいですね?」


 若菜さんの、彼女らしい不器用な優しさがこもった宣言に、ひよりちゃんは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらも、「はいっ……!」と、喉を詰まらせながら元気よく返事をした。


 それから10日後。


 十分な休息を取り、スタジオに帰ってきたひよりちゃんは、以前よりもずっと余計な力が抜け、春の風のように清々しい表情をしていた。


 マイクの前に立ち、キャラクターである「きらり」の意識を自分に重ねる。その横顔には、もう「演じなければ」という強迫観念の影は見られなかった。


「……お待たせいたしました! 天羽きらり、今度こそ最高の、本当の光をお届けしますねっ!」


 白河ディレクターが、今日一番の穏やかな顔で合図を出す。


 映像の中で、空腹と孤独に震えながら、それでも目の前の少年のために「私は大丈夫」と微笑もうとする天使。ひよりちゃんは、その丁寧な口調の中に、隠し続けてきた自分の「弱さ」と、剥き出しの「真心」を等身大で注ぎ込んだ。


『……ふぇっ。……ごめんなさい。……少しだけ、泣き顔を見せてしまいました。天使失格、でしょうか。……でも、情けなくても、不格好でも……私はあなたのそばにいます。あなたの痛みは、私には分かりますから。……それが、私が見つけた本当の「幸せ」ですからっ!』


 スピーカーから流れてくるのは、丁寧な響きの中に、泥臭いほどの圧倒的な生命力が宿った、本物の「天使」の声。


 誰かを救おうとするその切実な声が、何よりひよりちゃん自身を呪縛から救っているように聞こえて、私の視界は涙で滲んで止まらなかった。


「……完璧。……これこそが、私たちがずっと探していた『きらり』よ!」


 白河さんの、感極まったような叫び声が響き、私たちはコントロールルームで全員でガッツポーズをした。


 ブースから勢いよく飛び出してきたひよりちゃんに、私たちは3人がかりで飛びつく。


「皆さんっ!私、すっごくお腹が空きましたっ!今すぐ、いつものお店に行きたいですっ!」


「ええ、もちろんよ。今日は特別にチャーシューも、味玉も全部乗せしちゃいましょうか!」


 4人の、混じりけのない心からの笑い声が、スタジオいっぱいに響き渡る。


 バラバラだった私たちの秒針は、今、お互いの鼓動を感じ合い、一つに溶け合いながら、輝かしい「未来」へと加速し始めた。


 如月瑞希としての過去は、もう私を縛らない。


 私たちはこの4人で、誰も見たことのない景色を、この声で創り出していくんだ。

『面白い!』

『続きが気になるな』


そう思ったら広告の下の⭐に評価をお願いします。面白くなければ⭐1つ、普通なら⭐3つ、面白ければ⭐5つ、正直な気持ちでいいのでご協力お願いします。


あとブックマークもよろしければお願いします(。・_・。)ノ


こちらでキャラクターのイメージ画像とイメージSONGがあります。興味があるかたは1度観に来てくださいo(^-^o)(o^-^)o

私のYouTubeのサイト

https://www.youtube.com/channel/UCbKXUo85EenvzaiA5Qbe3pA

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