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【ガチ恋プリンセス】SideStory 『Future Visioned Star』~エピソード0~  作者: 夕姫


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第24話:墜落する太陽

第24話:墜落する太陽




 コントロールルームのスピーカーから漏れ出る、サーッという微かなホワイトノイズが、今の私には秒読みを告げるタイマーの音のように聞こえた。


 スタジオの赤い警告灯が、心臓の鼓動に同期するように点滅している。それは誰かを祝福する光などではなく、自らを燃料にして燃やし尽くそうとする小さな命への、最後のアラートのようだった。


 ブースの中に立つひよりちゃんは、もはや立っているのが不思議なほどに、その輪郭を曖昧にさせていた。


 モニターの中では、銀色の翼を傷つかせた天使、天羽きらりが、暗い路地裏で孤独に震えている。ひよりちゃんは、朦朧とする意識を無理やり繋ぎ止めるように、台本の端を強く握りしめていた。その震えを、彼女は「役としての震え」に見せかけようと、最後の気力を振り絞って抗っている。


「テイク、回ります」


 白河ディレクターの声も、どこか祈るような響きを帯びていた。


 モニターの映像に合わせて、ひよりちゃんが重い口を開いた。


 けれど、そこから漏れ出してきたのは、先ほどまでの「眩しすぎるほどに明るい、完璧な笑顔の声」ではなかった。


『……ぁ……っ……』


 肺に溜まった空気を、無理やり声帯にぶつけるような、乾いた喘鳴。


 彼女は必死に唇を動かしている。画面の中の天使に合わせて、誰かを救うための慈愛に満ちた言葉を紡ごうとしている。けれど、酷使され、熱に浮かされた彼女の喉は、もはや一つの音節さえも形作ることを拒絶していた。


 声が出ていない。


 その事実に、ひよりちゃんの瞳に絶望の色が混じる。


 完璧な「天羽きらり」として、私たちの足を引っ張らないように、太陽であり続けようとした彼女のプライドが、音もなく崩壊していく。


 掠れた呼吸の音だけが、非情なほど高性能なマイクを通じてコントロールルームに響き渡る。


「……ひよりちゃん?」


 白河ディレクターが異変に気づき、マイクのスイッチを入れるのと、彼女の限界が訪れるのは同時だった。


 マイクの前に立っていた彼女の膝から、急激に力が抜けた。均衡を失った人形のように、彼女の身体がゆっくりと横へ傾いていく。


 ――ドサッ。


 厚い防音ガラスを透過して、重く、鈍い音がコントロールルームに響き渡った。


「ひよりちゃん!!」


 私の叫び声と、詩音さんの悲鳴が重なった。


 コンソールのスイッチが乱暴に叩き切られ、私たちは弾かれたようにコントロールルームを飛び出した。


 重い防音扉を突き破るようにしてブースに踏み込むと、そこには彼女が吐き出し続けた、熱を帯びた吐息が澱んでいた。密閉された空間で、彼女の体温が空気を焦がしている。


 ひよりちゃんは、冷たいフローリングの上に横たわっていた。意識は完全に消失しており、私たちがどんなに名前を呼んでも、その瞼が動くことはなかった。


「ひよりちゃん!しっかりして!」


 若菜さんが誰よりも早く彼女のもとに膝をつき、その身体を抱き起こした。


 抱き上げられたひよりちゃんの顔は、春の宵の月のように青白く、その肌は、触れた瞬間に火傷をしてしまいそうなほどに熱を帯びている。


「ひどい熱です……。白河さん、救急車を!すぐに!」


 若菜さんの、これまでに聞いたことのないような、切迫した叫び声がスタジオに響く。


 詩音さんは、自分の震える両手で、ひよりちゃんのぐったりとした指先を必死にさすっていた。


 私は、ただ立ち尽くしていた。


 彼女が握りしめていた台本が、床に散らばっている。そこには、びっしりと書き込みがされていた。


「ここは明るく」

「瑞希さんたちの足を引っ張らない」

「みんなを笑わせる」


 歪な文字で書かれたその決意の数々が、私の視界を歪ませる。


 彼女は、この場所を守るために。


 私たちという「家族」を守るために、自分自身を薪にして、燃え尽きるまで火を灯し続けていたのだ。


 声が出なくなるその瞬間まで、「太陽」を演じようとして。


 最年少の彼女がどれほどの孤独の中で自分を追い詰めていたのか、私は気づいていながら、彼女の献身に甘えていた。


 都会の喧騒を切り裂くようなサイレンの音が近づいてくる。


 それは、一秒ごとに、私たちの「日常」が決定的に非日常へと塗り替えられていく音だった。


 ストレッチャーに乗せられ、搬送されていくひよりちゃんの横顔は、スタジオの廊下の冷たい蛍光灯に照らされて、ひどく幼く見えた。


 私たちは言葉を失ったまま、タクシーに飛び乗り、彼女が運ばれた病院へと向かった。


 到着した夜間救急の待合室は、眩しいほどに白く、そしてどこまでも静かだった。


 消毒液の匂いが、鼻の奥をツンと刺激する。


 ベンチに座る私たちの間には、会話など存在する余地もなかった。ただ、処置室の扉の上にあるランプを見つめることしかできない。


「……過労と、極度の緊張からくる高熱です。喉の炎症も酷い。しばらく点滴を打って休ませれば、命に別状はありませんが、当分は絶対安静です」


 処置室から出てきた医師のその言葉を聞いた瞬間、私は自分の膝が、音を立てて折れるのを感じた。隣で詩音さんと若菜さんが安堵の表情を浮かべながらも複雑な感情が見てわかった。


 彼女の予兆に、誰よりも早く気づいていながら私は、彼女がその「太陽」という役割に押し潰されるのを、ただ見ていただけだった。


 仲間1人の限界さえ救えなかった。


 1人で背負う必要なんて、なかったのに。


 欠けたところがあれば、補い合えばよかったのに。


 西園寺イブとしての私の時計は、真っ白な病院の廊下で、かつてないほど激しく、そして痛切な後悔のリズムを刻んでいた。

『面白い!』

『続きが気になるな』


そう思ったら広告の下の⭐に評価をお願いします。面白くなければ⭐1つ、普通なら⭐3つ、面白ければ⭐5つ、正直な気持ちでいいのでご協力お願いします。


あとブックマークもよろしければお願いします(。・_・。)ノ


こちらでキャラクターのイメージ画像とイメージSONGがあります。興味があるかたは1度観に来てくださいo(^-^o)(o^-^)o

私のYouTubeのサイト

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