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【ガチ恋プリンセス】SideStory 『Future Visioned Star』~エピソード0~  作者: 夕姫


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第21話:真実(まこと)の嘘

第21話:真実まことの嘘




 翌日の収録も、スタジオには重苦しい暗雲が低く立ち込めていた。


 3月の陽気とは裏腹に、防音壁に囲まれた空間はどこまでも冷ややかだ。ブースの中からヘッドフォンを通して聞こえてくる若菜さんの声は、昨日にも増して硬く、そして砂漠のように乾ききっていた。一音の狂いもない、クリスタルのように研磨された完璧な京都弁。


 それが皮肉にも、彼女の心の余裕のなさと、逃げ場のない窮屈さをこれ以上ないほど露呈させていた。


「……もう一度、よろしゅう。うちは月見こはく。あんたさんの心、覗かせてもらいます……」


「カット」


 白河ディレクターの、容赦のない声がコントロールルームに冷たく響く。彼女はコンソールのメーターを見つめたまま、一度も若菜さんの方を見ようとはしなかった。


「若菜さん。あなた、台本を『正しく読もう』としすぎているわ。こはくは今、相手を甘い言葉で誘惑して情報を引き出そうとしているのよ。今のじゃ美しすぎて、何の欲も、こはくらしい体温も感じられない」


 若菜さんはマイクの前で、まるで彫像のように立ち尽くしていた。マイクスタンドを握る拳が震えている。彼女の大きな瞳は、今にも零れ落ちそうなほどの絶望と、逃げ場のない自責の念を湛えていた。その姿は、かつて「天才子役」の看板を背負わされながら、周囲の期待という重圧に押し潰されそうになっていた私自身の過去と、あまりにも残酷に重なって見えた。


「……瑞希ちゃん、このままだと若菜さん、本当に心を閉ざしちゃうわ」


 コントロールルームの隅で、詩音さんが声を潜めて私に囁いた。ひよりちゃんも、今にも泣き出しそうな顔で若菜さんの孤立した背中を見つめている。


 私は、喉の奥に熱い、焼けるような塊を感じていた。


 私の止まっていた秒針は、今、仲間を救いたいという強烈な衝動と共に、激しく胸の鼓動を刻み始めている。


「……詩音さん、ひよりちゃん。一つ、賭けにつき合ってもらえませんか?」


 私は、二人にある「作戦」を提案した。それは、真実という名の檻に自らを閉じ込めた彼女を、強引に救い出すための、私たちの全力の「化かし」だった。


 休憩時間。若菜さんは逃げるようにスタジオの外、薄暗い廊下へと出た。


 1人で冷たいコンクリートの壁にもたれ、浅い呼吸を整えようとしている彼女の元へ、私は息を切らして駆け寄った。


「若菜さん!大変です、詩音さんとひよりちゃんが……!」


 私の必死の形相と、切迫した演技を含んだ声に、若菜さんは弾かれたように顔を上げた。


「……瑞希さん?どうしたのですか、そんなに慌てて」


「ラウンジで……、2人が喧嘩を始めてしまって!詩音さんが、ひよりちゃんのレッスンの態度に本気で怒って……私じゃ、もう止められなくて!」


「……なんですって?」


 若菜さんの顔色が、一瞬で青ざめた。規律を重んじ、チームの和を何よりも大切にしている彼女にとって、仲間の不和は最も看過できない「正しくない」事態だ


 ラウンジの扉を開けると、そこには凍りつくような、刺々しい空気が満ちていた。


「……もういいわ、ひよりちゃん。あなた、そんな甘い覚悟でやってるなら、今すぐこのプロジェクトを降りたら?足を引っ張るだけよ」


 詩音さんの、今まで聞いたこともないような、氷の刃のように冷酷な声。


「そんな……!私、私なりに一生懸命やってるのに!詩音さん、あんまりです……っ!」


 ひよりちゃんは顔を覆って泣きじゃくり、小さな肩を激しく揺らしている。


「……そこまでにしなさい!」


 若菜さんの叫びが、静かなラウンジに雷鳴のように轟いた。彼女は震える足で2人の間に割って入り、自身の目にも涙を浮かべながら、必死の形相で叫んだ。


「詩音さん、言葉が過ぎます!ひよりちゃんがどれだけ泥臭く努力しているか、あなたが一番近くで見ていたはずでしょう!? ……ひよりちゃんも、泣かないで。みんなでここまで頑張ってきたのに……2人とも落ち着いてください!」


 若菜さんは、文字通り必死だった。彼女の頬には、一滴の涙が筋を作って伝っていた。誰よりもチームを愛し、誰よりも「正しさ」の意味を問い続けてきた彼女の、剥き出しの真心がそこにあった。


 その時だった。


「……ふふっ。ごめんなさい、若菜さん。もう我慢できないわ」


 詩音さんが、いつもの柔らかな、春の陽だまりのような笑みを浮かべて、ひよりちゃんの肩を優しく抱き寄せた。


「えへへ……。若菜さん、ごめんなさい!大成功です!」


 ひよりちゃんも、ケロッとした顔で涙を拭い、太陽のような満面の笑みを見せた。


「……え?」


 若菜さんは、時間が止まったかのように、呆然と立ち尽くした。


「……今の、お芝居(嘘)だったのですか?一体何がしたいんですか……?」


 若菜さんの声は、迷子になった子供のように小さく、細く震えていた。私は彼女の前に一歩踏み出し、その震える肩を正面から見つめて、ゆっくりと頷いた。


「若菜さん。……さっきの私たちは、あなたに嘘を吐いていました。でも、それを見た若菜さんの『仲間を心配した気持ち』は、紛れもない本物ですよね?」


「……それは、そうです。けれど、嘘は……人を欺くことは、やはり不潔で、あってはならないことです」


「いいえ。……私たちが今、若菜さんに嘘を吐いたのは、若菜さんを傷つけるためじゃありません。仲間として、若菜さんの凍りついた『心』を、どうしても動かしたかったからです」


 私は、指先まで冷え切った彼女の手を、自分の両手で温めるように包み込んだ。


「嘘は、真実を殺すための凶器じゃありません。……そのままでは届かない真実を、相手の心に届けるための、たった一つの手段なんです。こはくが人を化かすのは、その裏側に、誰にも明かせない孤独や、守りたい慈しみがあるからじゃないでしょうか?」


 若菜さんは息を呑み、詩音さんとひよりちゃんを見た。2人は、申し訳なさと、深い親愛が入り混じった瞳で、じっと彼女を見つめ返している。


「……私のための、嘘……」


「若菜さんの紡ぐ『正確な日本語』は、凛としていて、とても美しいです。でも、もしそこに、相手を想う『優しい嘘』が、人間らしい『ゆらぎ』が混ざったら……それはきっと、どんな真実の言葉よりも深く、誰かの心に届くはずです」


 若菜さんはしばらくの間、自分の掌を、そして私たちの顔を交互に見つめていた。やがて、彼女はゆっくりと天を仰ぎ、溢れそうになった涙を指で静かに拭った。


「……完敗です。……人を化かすというのは、こんなにも体力が、そして愛がいることなのですね」


 彼女の表情から、あの鋼のような、自らを縛り付けていた硬さが消えていた。代わりにそこにあったのは、冬の終わりを告げる梅の花のような、柔らかで、どこか艶やかな微笑みだった。


 スタジオに戻った若菜さんは、まるで別人のようなオーラを纏っていた。


 彼女はマイクの前に立つと、一度だけコントロールルームの私たちの方を振り返り、優しく、そして不敵に微笑んでみせた。


「……お願いします。月見こはく、参ります」


 映像が動き出す。モニターの中の「月見こはく」が、朱色の扇を艶やかに広げて笑う。


『……ふふ。あんたさん、えらい正直な目をしてはるなぁ。……嘘を吐くのは悪いことやて、誰に教わったん?』


 スピーカーから流れてきたのは、耳の奥を優しく撫でるような、甘く、それでいて幾層にも重なった奥行きのある響き。


 正確なアクセントはそのままに、言葉の端々に「相手を翻弄する愉しみ」と、その裏側に潜む「永遠を生きる孤独」が同居していた。それは、真実を愛する彼女が、初めて「嘘の美しさ」を手に入れた瞬間だった。


『ウチは嘘つきや。……でも、今の「話」だけは、本物かもしれへんで? ……信じるのもあんた次第や?』


 録音を終えたスタジオ内が、水を打ったように静まり返る。誰もが、その「声」が持つ魔力に囚われていた。


「……チェック、終了。……完璧よ、若菜さん。これこそが、本物の月見こはくだわ!」


 白河ディレクターの、地を揺らすような感嘆の声が響き渡った。ブースから出てきた若菜さんを、私たちは全力の拍手と歓声で迎えた。ひよりちゃんが彼女の腰に飛びつき、詩音さんが「世界一の嘘つきになれるわね」とはにかみながら彼女の肩を叩く。


「……瑞希さん。ありがとうございます」


 若菜さんは私の元へ歩み寄ると、静かに力強く私の手を握りしめた。


「私、初めて『言葉を操る』愉しさを知りました。……正確であることよりも大切なものが、この世界にはあるのですね」


 彼女の瞳には、もう迷いの影はなかった。


 バラバラだった私たちの欠片が、少しずつ、確かな熱を持って、一つの「物語」へと積み上げられていく。


 西園寺イブとしての私の時計は、仲間の新しい産声と共に、また一歩、強く、深く未来を刻み込んだ。

『面白い!』

『続きが気になるな』


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あとブックマークもよろしければお願いします(。・_・。)ノ


こちらでキャラクターのイメージ画像とイメージSONGがあります。興味があるかたは1度観に来てくださいo(^-^o)(o^-^)o

私のYouTubeのサイト

https://www.youtube.com/channel/UCbKXUo85EenvzaiA5Qbe3pA

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