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【ガチ恋プリンセス】SideStory 『Future Visioned Star』~エピソード0~  作者: 夕姫


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第10話:四色の煌星(きらぼし)

第10話:四色の煌星きらぼし





 契約を終え、案内されたラウンジの自動ドアが開いた瞬間、3つの視線が同時に私を射抜いた。


 広い室内には、冬の低い斜光が差し込み、埃の粒子が光の筋となって舞っている。そこに座る3人の女性は、まるであらかじめ配置された役者のように、それぞれが強烈な「個」の境界線を纏っていた。


「あ、あなたが……西園寺イブちゃん役ですか?」


 真っ先に立ち上がったのは、一番年若く見える、ひまわりのような熱量を放つ女性だった。


「私、天野ひより、19歳です!実は声優の卵をやっていて……でも、オーディションには落ちてばかりで。今回が、本当に最後のチャンスだと思って応募したんです!私はイブさんの相棒の『天羽きらり』役です。よろしくお願いします!」


 その真っ直ぐな瞳に、私は僅かな眩暈めまいを覚えた。彼女が演じる天羽きらりは「本物の天使」だが、ひよりさん自身が放つ、なりふり構わない熱量もそれに負けていない。


「私は鳴海詩音。少し前までラジオのDJをやってたわ。年齢は27。少しお姉さんかしら?……如月瑞希さん、よね? 子役時代のあなた、番組の特集の資料を見たことがあるわ。まさかこんな場所で『再会』するなんてね?私はイブときらりを翻弄するトリックスターの『皆藤オペラ』役よ、よろしくね?」


 洗練されたオーラを放つ詩音さんが、艶やかに笑う。その落ち着きは、数多の言葉を電波に乗せてきたプロの矜持だろうか。彼女の視線は、私の表面を滑るのではなく、その奥にある「何か」を面白がるように探っていた。


「初めまして、三枝若菜です。年齢は今年で29になりました。元は地方局のアナウンサーをしておりました。……如月さん。私は規律と正確さを重んじます。仕事に私情は持ち込みません。お互い、プロとして高め合いましょう。私は『月見こはく』役です。よろしくお願いいたします」


 若菜さんは、一切の無駄を削ぎ落としたような、凛とした佇まいで私を見つめた。その涼やかな瞳には知性と、自分を律するための強固な「殻」が宿っている。正確すぎる発声が、室内の静寂を鋭く切り裂いた。


「……如月瑞希です。年齢は22歳。『西園寺イブ』役です。よろしくお願いします」


 私は、彼女たちの瞳を一人ずつ見つめ返した。驚くほどバラバラな4人だ。けれど、挨拶を交わした瞬間、私は確信した。声優の卵、DJ、アナウンサー。皆、「声」のプロでありながら、何らかの理由でその素顔を隠し、新しい物語を求めてこの場所に辿り着いたということ。


 初顔合わせという名の品定めを終え、私たちは連れ立ってビルを出た。


「……あの、もし良かったら、これからどこかでお食事しませんか?」


 ひよりちゃんが少し勇気を振り絞るように提案した。若菜さんは僅かに眉を寄せ、詩音さんは面白がるように私を見た。私は、カバンの中の設定資料を思い出し、喉の奥にこびりつく緊張を誤魔化すように口を開いた。


「なら、ラーメンに行きませんか。近くに、もやしが山盛りの……ガッツリしたお店があるんですけど?」


 私の唐突な提案に3人は一瞬きょとんとしたが、詩音さんの「いいじゃない、如月さんって意外とパワフルなのね」という笑い声に誘われるように、私たちは駅近くの活気ある店へと向かった。


 カウンターに横一列に並び、運ばれてきたのは、丼から溢れんばかりに高く積まれた「もやし」の山だ。


「うわぁ……!これがイブさんの『主食』。本物の山だ……!」


 ひよりちゃんが目を輝かせて割り箸を割る。脂の匂いとニンニクの香気が、洗練されたオフィスでは決して許されなかった「生」の匂いとして鼻を突いた。


 湯気の向こうで、私たちは必死にもやしの山を突き崩す。やがて、誰からともなく、素顔では語れなかった言葉が零れ始めた。


「実は私、声優のお仕事だけじゃ食べていけなくて。……このオーディションに落ちたら、声優をやめようかなって思ってたんです」


 ひよりちゃんが、熱い麺を啜りながらポツリと漏らした。その声は、ラウンジでの明るさとは違う、湿った重みを帯びている。


「私も、局を辞めた時は、もう二度とマイクの前に立つことはないと思っていました。……でも、正しさを求められる世界に疲れて、それでも、声を出すことだけは諦めきれなくて。私は、自分の言葉で世界と対峙したいんです」


 若菜さんも、厳しい表情を僅かに緩めて言葉を継ぐ。彼女の瞳には、かつてニュース原稿を読んでいた頃には許されなかったであろう、意志の強さが宿っていた。


 避けては通れない、けれど、最も喉を通りにくい言葉。私は割り箸を一度置き、もやしの山の向こう側にいる彼女たちを見つめた。


「私は……皆さんが察している通り、10年前まで子役をやっていました。もう芝居なんて2度としたくないと思っていました。期待された通りに泣いて、笑って……そんな機械みたいな自分に吐き気がして。でも、社会に出ようとしたら、みんなが見るのは今の私じゃなくて、10年前の私の残像だけだった」


 熱い湯気が、私の視界を僅かに潤ませる。私は拳を握り、言葉を絞り出した。


「だから……、誰かになりたいと思ったんです。名前も、顔も、過去も。すべてをアバターの下に隠して、初めて、誰の期待でもない『私の声』を届けられるんじゃないかって。私は、演じるためにここに来たんじゃない。本当の私を叫ぶために、ここに来たんです」


 私が言い終えると、カウンターに一瞬の静寂が訪れた。


「……そう。私たちはみんな、似たようなものね」


 詩音さんの手が、カウンター越しに私の手をそっと包み込んだ。


「素顔でいるよりも、仮面を被っているときの方が、本当の自分になれる。……滑稽な話だけど、それが私たちの真実なのかもね?」


「如月さん。私は規律を重んじますが、あなたのその『意志』は尊重します。それは、ただの技術よりも遥かに尊いものです」


 若菜さんが背筋を伸ばし、初めて、同等な「戦友」を見るような眼差しで私を見て、僅かに微笑んだ。


「瑞希さん!私、イブさんのこと、全力で支えますから!」


 ひよりが鼻を啜りながら、もやしを高く掲げた。


 私たちは、それぞれの「鎧」を脱ぎ捨てはしなかった。むしろ、その「アバター」という共通の言語を手に入れたことで、初めて同じ地平に立つことができたのだ。


「……美味しいね」


 私が呟くと、3人が顔を上げて笑った。


 如月瑞希としての過去は、まだ私の背後に重くぶら下がっている。けれど、この脂ぎったスープの熱さと、隣に座る彼女たちの体温は、確かに今の私を支えてくれていた。


 西園寺イブとしての私の新しい時間は、この騒がしくて泥臭い夜から、力強く加速し、動き出したのだった。

『面白い!』

『続きが気になるな』


そう思ったら広告の下の⭐に評価をお願いします。面白くなければ⭐1つ、普通なら⭐3つ、面白ければ⭐5つ、正直な気持ちでいいのでご協力お願いします。


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こちらでキャラクターのイメージ画像とイメージSONGがあります。興味があるかたは1度観に来てくださいo(^-^o)(o^-^)o

私のYouTubeのサイト

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