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【書籍化】骨姫ロザリー ~死者の最期を追体験し、力を引き継ぐ~  作者: 朧丸
第四章 暗雲低迷、雷鳴轟く

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371 脱出

 ザスパールは急によろめき、殿の騎士に身を預けるように寄りかかった。

 殿の騎士は慌ててザスパールを支えようとした。

 が、その瞬間。

 騎士の腹にザスパールの握る剣が深々と突き刺さった。

 ザスパールと抱き合う形になった殿の騎士が、カッと目を剥く。


「が、うッ、」


 ザスパールが騎士の腹から剣を引き抜くと、騎士は膝から崩れ落ちた。

 ザスパールが振り返り、血に染まった剣をチャキッ、と握り直す。


「ザスパ――あんたッ!」


 向き合う形となったテレサが腰の剣へ手を伸ばす。

 が、ザスパールは彼女を無視し、列の先頭に向かって駆けだした。

 ロイドとアイシャがウィニィを背にして身構えるが、ザスパールはそれも素通りして先導の騎士に襲いかかった。

 先導の騎士はもたついて、剣を抜くのが遅れた。

 それはほんの数秒のことであったが、致命的な遅れであった。

 駆け寄ったザスパールがそのままの勢いで剣を振り下ろす。

 先導の騎士は「待った」をかけるように左腕を掲げたが、振り下ろされた剣はその左腕を切断し、鎖骨の下まで食い込んだ。


「いッ! いッて……はっ? うえ……」


 先導の騎士は顔を歪ませ、残った右手で食い込んだ剣を掴む。

 するとザスパールはあっさりと自分の剣を手放し、腰の後ろから短剣を抜いた。

 そして躊躇なく、短剣を騎士の首に刺しこむ。

 喉をやられた先導の騎士は言葉が出なくなり、この現実を受け入れるのを拒否するように首を振った。

 ザスパールが刺さった短剣をグッ、と突き上げる。

 すると騎士は大量に血を吐き、やがて後ろ向きに倒れた。


「ザスパール……」


 突然の惨状に、そしてその実行者が同級生であるという事実を前にして、一行は固まった。

 ザスパールは剣の血を魔導騎士外套(ソーサリアンコート)の裾で(ぬぐ)い、ぶっきらぼうに言った。


「死体はこのままでいい。こっちだ、ついてこい」


 そう言って、部屋とダイニングルームへの行き来では使わなかった道へと彼は進んだ。

 ロイドとテレサ、アイシャはどうすべきかと顔を見合わせた。

 だがウィニィだけは迷わず、彼のあとを追った。

 ウィニィの背中にロイドが叫ぶ。


「ウィニィ様!」

「行こう、ロイド」

「ですが!」

「彼はこの城で会った中で最も信用すべき人物だ。そうだろう?」


 二つ月城へ入る前にロイド自身も言っていたこと。

 この城で信用すべきはジュノーのみで、ザスパールはその近習である。

 理屈の上ではわかるのだが、目の前の惨状がそれを許さない。

 だが、主たるウィニィは考える時間を与える気はないようで、そのままザスパールについて行ってしまった。


「……ウィニィ様ッ!」


 もはや選択肢はなく、ロイドたちも彼らのあとを追ったのだった。




 ザスパールは城の使用人しか使わないような、狭く古びた通路を選んで進んでいく。


「……スープは口にしてないな?」


 突然、ザスパールが振り向きもせずにそう言った。


「すーぷ?」


 ウィニィが首を傾げると、彼は言った。


「毒入りスープだよ」

「「!!」」


 一行がハッと互いを見る。


「ウィニィ様、たしか食前酒を……」

「うん……口をつけただけだけど……」

「アイシャ、あんたパン……」

「かじっちゃった!」


 ザスパールはため息をついて立ち止まった。

 懐から小さな筒状の容器を取り出し、上部の穴から黒い粒をふたつ、手のひらに取り出した。


「解毒剤だ。スープじゃなければ大丈夫だと思うが……念のために飲んでおけ」


 ウィニィとアイシャが一粒ずつ受け取った。


「ウィニィ様……」

「くどいぞ、ロイド」


 この黒い粒こそが毒である可能性もある。

 だがウィニィはためらいもせず、黒い粒を口へ放り込んだ。

 アイシャもそれに続く。

 そして次の瞬間、揃ってべーっと舌を出した。


「うえええ!」

「酷い味!」

「我慢しろ。それで毒とはおさらばだ」


 そう言って、ザスパールは再び歩き出した。

 ロイドが駆け寄って後を追いつつ、彼に問う。


「ザスパール。毒の種類がわかっているのか?」

「ドーフィナ家に伝わる由緒正しき毒薬だ。特有の臭いがあるんだが、温かいスープに入れるとまるでそれがわからなくなる」

「毒性は?」

「強力な麻痺毒だ。『震えるほど美味』ってふざけた名でな。数十分後にろれつが回らなくなり、一時間後には震えて動けなく、二時間後には心の臓すらも止まる」

「ドーフィナ伯はスープを催促した……殿下を毒殺しようとしていた?」

「殺す気だったのかは俺にはわからん。量を調節すれば自由だけを奪えるのが、この毒の優れたところ。――灯台守も使っただろう?」

「「!」」


 再び、一行が顔を見合わせる。

 ウィニィが言う。


「ザスパール、灯台守は……」

「ドーフィナの家人だ。毒に通じ、【手紙鳥】を使える魔女騎士(ウィッチ)が灯台守の任に就く。あんたの到来を報せたのは、王都ではなく灯台守だ」

「西への【手紙鳥】は――」

「――二つ月城だったのね」


 そう言ってアイシャとテレサが頷き合う。

 それを聞いたザスパールが顔を顰めた。


西への(・・・)? 他にも【手紙鳥】が?」

「ええ。南に二通。ひとつは潰したけど」

「マズいな。急ぐぞ」


 そう言って足を速めたザスパールに、ウィニィが言う。


「待て! いったいどこへ向かってる?」

「城を出るんだよ、王子様」

「ダメだ! ベルが部屋に残ってる!」


 するとザスパールは「チッ!」とはっきり聞こえるほど舌打ちし、ウィニィを睨んだ。


「とうに手は打ってある。いいから黙ってついてこい!」


 何かに苛立った様子のザスパール。

 ウィニィたち四人はお互いを見てから、口を開かずに彼のあとをついていった。

 いくつめかの階段を下り、何個目かの扉を開けると、急に潮の香りが強くなった。


「外、か?」


 石レンガの床の通路が湿り気を帯びている。

 そして次の角を曲がると、波が打ち寄せる船着き場が現れた。

 城の屋内に隠された、秘密の船着き場のようだ。


「ベル!」


 船着き場には小舟が一艘あって、その上にブランケットに包まったベルが座っていた。

 アイシャが駆け寄って様子を見る。

 目を閉じたままのベルと何事か会話し、それからアイシャはこちらを見て頷いた。


「すぐに出るぞ。甲板に大きな油布があるだろう。その下に隠れろ」


 ウィニィたちは言われた通りに小舟に乗り込み、油布の下に身を隠した。

 最後にザスパールが飛び乗り、船着き場をグイッと蹴る。

 そして(オール)を手に取り、秘密の船着き場から静かに、ゆっくりと海に出た。

 北側の港は未だ煌々と燃え盛っていて、夜の海面を赤く染めている。

 城壁の上に走り回る人影が見える。

 火事に気を取られ、こちらに気づく様子はないようだ。


 小舟は二つ月城からまっすぐに離れ、そこから陸地に沿って入り江から抜けた。

 外洋に出ると波が高くなった。

 しかも夜である。

 視界の悪い中での操船は一筋縄ではいかないはず。

 しかしザスパールは、熟練の操船で小舟を西へと進めていった。

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― 新着の感想 ―
やはり同級生は信用できる それにしてもドーフィナまで先王弟に与したのか それとも他に何か狙いがあるのか その辺りはジュノーと合流できれば説明してもらえるのかな
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