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ヒーローになりたくて頑張った結果警察から国の敵になりました〜丁度いいので復讐します〜  作者: ねぎマイト
薬物を強奪しに行くだけのごくごく普通のお話
26/31

23話 ヒーローさんは修行する

 暗い。今度こそ何も見えない。

 また俺はよくわからないところに飛ばされたようだ。


 自分の体が空気のように軽いのに、ズンと沈み込むような重みをみぞおち辺りに感じる。

 ここは地獄なのだろうか。

 飛んでいるのか、立っているのか。はたまた、落ちているのか。

 自分の状態がつかめない感覚がなんとも気味が悪い。


「──!」


 本能を呼ぼうと声を出しても、声は虚空へと飲み込まれた。

 この空間は俺の存在以外の全てを受け付けないらしい。


 俺はここから出られるのだろうか。

 試しに、先程の白い世界のように足を踏み出そうとしても足が動かない。

 そして、気づいた。

 俺には今、体がない。

 自分の体が軽いなんて、ないのだから当たり前だ。

 今の俺は羽原悠里という魂であり、この虚空の一部。


 黒い空間から『目』のみ浮かび上がった。それはこちらを物珍しげに見つめてくる。

 不思議と怖くはない。

 俺はその目に話しかけた。声は出ない。しかし、なぜか意思が疎通できると思った。


「──?」

「──!?」


 ここはどこかと聞いたところ、ここは俺がいるべき場所ではないらしい。

 ここは俺の深層心理の中で一番深い無意識の領域。

 本来、俺は理性の領域にいるらしく、先程の白い領域がそこにあたるらしい。


「──?」

「──!」

「──!?」


 そして、本能が俺の理性の領域へ勢力を伸ばしていたとのこと。

 驚くべきはその後の話だ。

 ヤツは俺に代わり、外の肉体。

 つまりはこの羽原悠里という人間そのものを操りだした。

 俺は今、自分の欲求のためだけに動く自己中野郎へと成り下がったんだとか。


 しかも、それを止めようと理性の領域へ戻っても俺は負けるらしく、俺は無い頭を抱えた。


「──」

「──!?」


 目はある提案をしてきた。

 ここで自分が修行を積み、自分の英雄戦技(ヒーローズセンス)を意のままに操れるようにしろと、そう言ってきた。

 そうして、理性の領域へと再び足を踏み入れ、本能をねじ伏せる。

 それ以外の方法は存在しないとのこと。


 やる……しかない。

 あいつは復讐を果たそうとしている。

 ならば、彼女、水崎美玲はどうなる。

 それだけはダメだ。あの子との約束を守らなければならない。


 ──俺は絶対にやつを止める。止めてみせる。



 ************

 

 「オアシスって液体だったんだな」

 「なんかドロドロしてて気持ち悪いですね」

 

 瞬がオアシスの詰まった円柱の容器を持ってきた袋の中へ入れている間、俺は最後の警備員にトドメの一撃をいれた。

 大して強くもない人間を倒すのはつまらないし、なにより格下の人間を気絶させるは骨が折れる。


「あの、京介さん。何か……嫌な感じしません?」

「ん?そう?」


 別に何ともないけどな。

 でも、瞬の顔色は確かに悪い。

 額に脂汗を浮かべながら、唇がほのかに震えている。

 熱はないようだが、念のため急いで出るとしよう。


「とりあえず外に出て、サラちゃんを待とう。

 ──よいせっ!」

「ちょちょっ!おんぶなんてしなくていいですから!」


 嫌がる瞬をおぶり、気絶した人達を乗り越え、外へ出た。

 外は嫌に静まり返っていて、どこか不気味な雰囲気を漂わせている。


「なんでしょう……?」

「分かんね。でも、なんかが起きているのは確かだね」


 サラちゃんはいつ来るかな。

 連絡手段がないので、向こうのオアシス回収が済むまでここまで待つ必要がある。

 瞬の様子を見ながら待つこと十分、どこかで轟音が鳴り響いた。

 カタカタとビルの窓ガラスが身震いして、衝撃を教えてくれる。


「な、なんでしょう……?」

「悠里……悠里だ」

「な、なんで悠里なんです?」

「わっかんない。でも……そんな気がする」


 正体不明の確信を訝しむが、なぜだか、それ以外考えられない。

 あいつは自分の英雄戦技(ヒーローズセンス)は生命エネルギーの転用だとか意味分かんないこと言ってけど、絶対なんかを隠している。

 何か……歪で黒く、底しれない邪悪な力を悠里から感じるのだ。


「──っ!?京介さん上ですっ!」


 瞬が俺の背中から大声で叫んだ。

 上を見上げると、空中に悠里がこちらを見下して浮かんでいる。

 体の肉が爛れていたり、本来足があるはずの場所に手が生えていたりともはや人が行き着いてはいけない姿へと変わり果てた悠里がそうしていたのだ。

 当然、瞬は敵だと思って大声で叫んだのだろう。

 悠里と分かってからは、徐々に驚きと猜疑心が入り混じったどっちつかずの表情になっている。


 悠里は生気の無い瞳をこちらに向けながら、何食わぬ顔で降りてきた。

 凄まじい違和感を覚えながら、悠里に問いただした。


「何があった?お前がここまでになるなんて今まで無かったろ」

「別に」悠里は淡々と返事した。

「話してみろよ。誰にやられた?名前は?能力は?」

「京介さん……」瞬が俺の腕を引き、首を横に振った。


 瞬の手は微かに震えていて、どこか怯えているようだ。


「どうした?」


 明らかに様子がおかしい瞬に耳打ちすると、瞬はぽつりぽつりと話してくれた。


「この悠里は……その……悠里じゃない……。

 えっと……なんだろう……今までの悠里が嘘で……今のが本物なんだけど……。

 なんて言えば良いのかな?」


 イマイチ何を言っているのか分からないが、伝えたいことはなんとなくだが分かる。

 この悠里は何かがおかしい。

 少なくとも何があったのかを隠すようなやつじゃない。

 この生命がかかる可能性があるのに、説明もなしに淡々としているような冷静沈着な人間でもなかった。


「悠里……サラちゃんは?」

「猿真は少年を抱えて、病院へ向かった。

 それよりお前らの方はオアシスは見つかったのか?」

「……ああ。運良く大量に」


 確定。なんかあるわこれ。

 あいつはサラちゃんのことを本名で言ったことは無い。

 あいつは少し常識に欠けることはあっても気遣いまでは


「それならさっさと帰ろう。

 直にこの国はパニックに陥る。ドサクサに紛れてやつらを根絶やしにする」

「やつらっていうと?」

「決まってる。ヒーローたちだ」


 この国がパニックに陥るという言葉に引っかかりはしたものの、それ以上に引っかかったことがある。

 悠里はヒーロー()()を殺すなんて言ったことはない。

 悠里が殺すと言ったのはジュピターに関係する四人のヒーローのみ。

 それ以外は基本無視か、倒すくらいに留めようとしていた。

 その証拠に瞬がこうやって生きている。


「そうかい。なんにせよ……サラちゃんが来ないと行動ができない。

 ここでサラちゃんが来るのを待つ。騒ぎを起こすのはいくらなんでも得策じゃないだろ?」

「……分かった」


 しぶしぶ……って感じか。

 本当に別人だな。


 サラちゃんが来てからも悠里には落ち着きがなかった。

 キョロキョロと周りを観察しだしたと思ったら、急に黙りこくって何か思い詰めたような顔をするし。

 サラちゃんは悠里がなんでこうなったのか知っているらしく、俺に耳打ちして、説明してくれた。


「私……ちょっと見てたんだけど。

 あの子、すがるちゃんに会ったのよ」

「良かったじゃないか」

「その後が問題なのよ……。あの子が急に倒れたと思ったら、そこにジュピターが来てね?」

「ジュピターが!?」


 思わず声を大きくしてしまった俺に、サラちゃんは静かにするよう、人差し指を唇に当てた。


「それでね?しばらくジュピターとすがるちゃんがバチバチにやりあってたんだけど……そしたらあの子、人が変わったような姿で暴れだして」

「さっき見た。あのグロい感じだろ?」

「そうそう。あの子すがるちゃんに向かって、殺意ビンビンに放ちながら、向かっていったのよ」


 ん?すがるはあいつの好きな相手じゃないのか?

 その前に攻撃されたから反撃した、とか?

 いやでも、あいつって好きな女に手をあげるようなタマか?


「そしたら、もう大惨事!ジュピターはどっか行くわ、悠里はすがるちゃんをボコボコにするわ、最終的には浅草が──」


 サラちゃんは握り拳をこちらへ向け、パッと開いた。


「さっきめっちゃ揺れたじゃない?あれあの子のせい。

 私大変だったんだからね?残った生存者がいないか、あいつらにバレないように一生懸命探したんだから」

「マジかよ」


 あいつがそれをやったことに驚いているんじゃない。

 あいつが民間人諸共、吹き飛ばそうとしたことに驚いているんだ。


 悠里は関係のない人間に危害を加えるような男じゃない。


「何してる。早く行くぞ」


 悠里が顎でこちらに指示をした。

 何があったんだよ……悠里。


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