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ヒーローになりたくて頑張った結果警察から国の敵になりました〜丁度いいので復讐します〜  作者: ねぎマイト
薬物を強奪しに行くだけのごくごく普通のお話
24/31

21話 ヒーローさんは暴走する

 悠里が崩れた体を引きずりながらゆっくりと距離を詰めてくる。

 あんなボロボロの体からどうやってあの爆発力を生んだのかは謎だが、少なくとも生物としての超えてはいけない境界線を踏み越えている。

 ヒーローでもなければ、怪人でもない。

 あれは化け物だ。

 悠里に倒されていたツィィがようやく目を覚ました。


「いっつつ……なんだぁ?」

「ツィィ。立ちなさい」

「へ、へい」


 おずおずと立ち上がるツィィは苦悶の表情を浮かべていた。

 恐怖。恐れ。不安。

 悠里に対する圧倒的畏怖の感情がツィィの心を支配している。

 これはもうダメだな。


「私にその体を捧げなさい」

「……へい」


 ツィィは一瞬驚いたような素振りを見せたが、その驚きは鳴りを潜め、ツィィから感情は消え失せた。

 これで彼の意志や行動はすべて私の意のまま。


 私の英雄戦技(ヒーローズセンス)は人類の調教者『ディノ・プロポ二ティス』。

 人間を操作する能力。

 ヒーローも、怪人も。ありとあるゆる人間を相手の意志も関係なく自分の制御下における。

 怪人らしい悪の象徴のような能力。


 記憶を消そうと思えば消せるし、相手に死ねといえばその人間は為すすべなく死ぬ。

 ただ適当に言うだけでは能力は発動せず何も起こらない。

 しかし、ハッキリと、そうなってほしいと本気で思えば相手を怪人にすることも……。


「主……いかがいたしますか」

「ツィィを悠里とぶつけるわ。

 まあそうは言っても勝てるかは分からないけどね。

 イェン。あなたは私の指示があるまでここにいなさい」

「はっ!」


 勝率は五分よりも下回るが致し方ない。

 悠里は女を抱えながらゆらゆらと体を揺らし、こちらとの距離を更に詰める。

 女を守りたいのか、私たちを殺したいのかイマイチはっきりとしない。

 もしかして、そのどちらも?


「主?」

「いいえ気にしないで。

 それよりも彼から目を離さないで」


 彼には私の能力が効かない可能性がある。

 その場合、私が負ける可能性が極めて高い。

 最悪のケースを考えて立ち回ろうとした矢先、彼に変化があった。

 体の崩壊がピタリと止まったのだ。

 崩壊だけでなく、再生も止まった。

 眼球のあった場所にはぽっかりと穴が空き、体の不足した部分が目立つものの、再生はされない。

 そして、彼は女を置いて視界から一瞬で消えた。


「どこへ──っ!?」


 横から迫る拳をすんでのところで腕によるガードで防いだが、私は慣性によって吹き飛ばされた。

 私の体がいくつもの壁を貫き、やっと街道へ飛び出したと思えば、上空から悠里が足を振り上げ、私への更なる追撃をかけようとしていた。

 私は咄嗟に身を翻し、蹴りを躱す。


「ツィィ!来なさい!」


 ツィィを呼び出すと、ツィィが長い舌をビルの壁に突き立て、縦横無尽にビルの間を飛び回りながら私の元へやってきた。

 ツィィは舌による攻撃よりも機動力を活かした立ち回りをした方が良い。

 市街地での戦闘の場合にこの長い舌が最大のネックになるため、常に舌を使って、相手を撹乱させ、仕留める。

 これが私の()()()()()怪人ツィィの本来の戦い方だ。


「ツィィ!」

「怪人……倒す。

 すがるは俺が救って……あげるんだ。

 姉さん……約束」


 まだ独り言を言っている悠里にツィィをけしかけた。

 ツィィは悠里の周りをビュンビュンと飛び回り、好機を探る。

 悠里はそれに目もくれず、私の懐へと入り込む。

 悠里のアッパーを両手で防ぎ、その隙をツィィに狙わせた。


「ツィィ!」

「──ぐぎっ!!」


 ツィィが悠里に飛びかかり、悠里の脳天を舌で貫く。

 これで死……なないか。

 悠里はツィィの舌を絡み取り、引きちぎった。

 ツィィの痛覚は私の能力で消しているので、構わず攻撃を続けさせる。


「ツィィ!時間を稼いで!」


 ツィィに悠里の意識を集中させるため、ツィィには悠里をひたすら牽制させる。

 次第に鬱陶しくなったのか、悠里はツィィに標的を変えた。


 これで一度、体勢を立て直せる。


「舌を更に強化しなさい!ツィィ!次で決めるわよ!」


 私の能力は他者の身体構造を変えられる。

 本気になれば、こうやって英雄戦技(ヒーローズセンス)を付与、あるいは改良させることも。

 生命をいじくり回せば、それなりにデメリットはあるが、ツィィの耐久性は中々のモノだ。

 多少の無理でもなんとかなる。


 ツィィの舌が歪に変化し、先端が槍のように鋭く変化する。

 そして、ツィィにはそれとは別のもう一つの力も与えている。

『舌の巨大化』。

 シンプルだが、これが一番良い。


 舌の槍が悠里の首元を貫く。

 ──仕留めたか!?


「すがるの……声。すがる……?すがるすがるすがるすがる」


 彼の首を繋ぎ止めていた肉が裂け、彼の頭は地面へと転がり落ちた。

 頭と胴が離れていても、依然、私の名前を呼び続ける彼に少しの恐れを抱きつつも、ツィィにトドメを命じた。

 早く殺さねば。悠里の力の底が分からない。

 だが、どうやったら死ぬ?

 そもそも悠里は死ぬのか?

 頼むから……早く死んで……。これ以上はもう見たくないの。

 ツィィの舌がしなやかなカーブを描きながら悠里の体を消し飛ばそうとした瞬間。


「──っ!?ツィィ!戻りなさい!」

「『生命の収縮コントラジオーネ・デラ・ヴィータ』」

「イェン……来い」


 そう言い放った悠里の破損した部位から光の塊がトロリと垂れ落ちた。

 ぽっかりと空いた頭蓋から、脇腹から、果てはかすり傷まで。


 ありとあらゆる傷口から垂れ落ちたそれは徐々に弓へと形を変えた。

 それは太陽のような煌めきを放ちながら、悠里のボロボロの体に身を委ねた。

 身を委ねた、というのは比喩ではない。

 まるで一つの生命体のように、それは悠里のボロボロの手へと自ら向かったのだ。

 悠里は光の弓の弦を絞り、こちらに狙いを澄ませる。

 光の弓は弦を絞られたのと同時に、悠里の手を燃やし尽くしながら、さらに眩い光を放ち始めた。

 あれをモロに受けたら確実に死ぬ。

 本能がそう警笛を鳴らす。


「イェン!!早くっ!」

「『生命の咆哮ルドラ・デラ・ヴィータ』」


 ギリギリでイェンが間に合い、私と悠里の間に入り込むも、イェンの体は辺りのビルと共に跡形もなく消し飛んだ。

 イェンの体の強度は世界最高だった。

 核爆発をゼロ距離で三回受けたとしても瀕死には至らせられないというのに。

 たった一発の攻撃で……。

 幸い、イェンの体を盾にしたおかげで左腕だけで済んだ。


「生えなさい──うぐっ!!ううう……うああ!!」


 激痛に耐えながら生やした腕の動作を確認しながら、私は周りを見渡した。

 悠里の姿がない。

 更地になった浅草の街のどこにも、彼らしい姿や肉塊が見受けられない。

 ひとまず二体に指示を与えるとしよう。


「イェン……あたりのコンクリートを取り込みなさい。

 ツィィは……頭だけ……まあこれだけあれば十分ね。

 そこから復活しなさい。出来なければその程度として扱うわ。

 勝手に死になさい」


 光の矢によって溶かされたコンクリートの中からイェンは不完全だが姿を現した。

 まだ声は出せないらしく身振りで謝罪をしている。

 ツィィはまだ首しか再生出来ていないが、復活出来そうだ。


「いい。あなたはよくやったわ。

 ……女ごと吹き飛ばしたのか?いやそれとも?」


 なんであれ悠里は未だ生きている。

 あの爆発で死ぬのであればもっと早い段階で死んでいたはずだ。

 その場合、あれがまた私の前に立ちはだかったら厄介だ。

 いや、計画を進めればあんなのは大して問題では無くなるだろう。

 今ここにいないのであれば、それはそれで好都合。

 スムーズに計画を進められる。


「予定通り、浅草を占領する。

 イェン。回復し次第、テレビ局へ向かい、こう伝えなさい。

『浅草を更地にしたのは怪人すがる改め、怪人カラだ』とね。」


 あえて、これの首謀者は私とする。

 その方が恐怖を植え付けやすい。

 渡りに船っていうのはこういうことを言うのだろうか。

 ちょっと違う気もするがまあいい。


「そして、本題だ。

『今より浅草を怪人の国とし、世界に対して宣戦布告する』。

 そう言いなさい」


 悠里が死なないのであれば、悠里がこれ以上傷つかないように、早く滅ぼせば良い。


「さあ──人類を滅ぼすためのファーストフェイズは終わった。

 人類よ……私に震えろっ!!。

 義姉さんを奪ったこと。忘れたこと。

 そして、悠里に復讐なんてモノをさせようとしたこと!

 全てを後悔させてやる!!」


 私は声を張り上げ、宣言する。


「セカンドフェイズの始まりだ」

次回、ヒーローさんのお話です

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