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ヒーローになりたくて頑張った結果警察から国の敵になりました〜丁度いいので復讐します〜  作者: ねぎマイト
薬物を強奪しに行くだけのごくごく普通のお話
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20話 ヒーローさん

次に向かったのは浅草。

 金色のうんこのようなオブジェクトがビルとビルの間から垣間見える位置に転移した。

 って待て!!何だあれ!?都会ってあんなうんこ飾ってあんの!?


「……?ああ。あなたあれが気になるのね?

 ふふっ。顔に凄い出てるわ」


 面白そうに笑う彼女(かれ)に食い入るように聞く。


「え、な、なんでうん……飾ってんの!?」

「うんこじゃないわ。あれはあそこの社員さんの燃えるような心をイメージしてるの。

 いわば聖火ね。ほら下の建物が聖火台みたいでしょ?

 名前はなんだったかしら……。

 ああそうそうフラムドールよ。確かフランス語で金の炎」

「フラムドールか……カッコイイな……」


 何度見てもうんこにしか見えないがフラムドールという名前は気に入った。

 俺の英雄戦技(ヒーローズセンス)の名前は聖火(フラムドール)にしよう。

 命を燃やして闘う聖なる炎のような能力。

 我ながらいい考えだ。そうだそうしよう。


「さっ。無駄話はそこらへんにしてさっさと行きましょ。

 あの子達を待たせるわけにはいかないわ」


 自分の能力の名前にうっとりしていると、サラちゃんからそう切り出され、我に帰った。

 これではいけないと、両の頬を叩き、気持ちをリセットする。

 大通りの方を見るとガヤガヤと皆が騒がしい。都会ならではの喧騒。

 特段、自分の地元が田舎というわけではないのだが、ここまで騒々しくない。

 しかし、都会というのは不思議なところだな。

 街行く人達の中には奇抜な格好で歩く者もいれば、呑んだくれもいて、果ては舌が異様に長い人間も。

 すげーな……流石にうんこ飾るだけのことはある。

 ハロウィンでも無いのに狼のような顔で毛むくじゃらな服を着こなす人とか、トカゲみたいな顔で火を吹く人もいる。

 やっぱり田舎じゃ分からないこともあるなぁ。


「何よ……これ……」


 サラちゃんが口を手で覆い、目の前の光景がまるで信じられないような口ぶりで呟いた。

 ……やっぱりそうだよね。こういう奴ら相手にしてたから分かるもん。


「怪人……」

「どうしてこんなに怪人がいるのよ!?」


 確認できるだけで七、八人はいる。

 さっきの三人に加えて、三メートルはある爪でアスファルトを切り裂く女に、体中が岩で覆われた人などなど。

 個性豊かな怪人たちが好き勝手に暴れまわり、破壊の限りを尽くしている。

 悲鳴と共にどこからかゴロゴロと転がってきた人間を見た時、心臓が跳ね上がった。

 この人は、この子は泣いていたのだ。

 無惨に引き裂かれた体から噴水のように吹き出る血が、幼い子どもの頬を赤く染め上げていても分かった。

 血を吐き出しこの子は前が見えていないのか体を引きずりながら怪人たちの方へと向かい始めた。

 たまらず声をかけ、静止を促した。


「動くな。死んでしまうよ。

 サラちゃん、計画変更だ。この子を病院に連れて行こう」


 サラちゃんは静かに頷き、子供を抱きかかえようとすると、子供はその手を振り払った。

 痛みに耐え、生と死の狭間を生きるこの子は俺の方をじっと見つめる。

 底が見えない気迫と覚悟。

 相手は自分よりも遥かに弱い子供。なのにも関わらず全身の筋肉が緊張した。


「姉ちゃん……姉ちゃんは俺が助けるんだ……邪魔するな」

「邪魔って……あなたこのままだと死んじゃうのよ!?」


 サラちゃんは血まみれの服を掴み、子供を抱き上げた。

 子供は身をよじり、なんとか抜け出そうとする。

 じたばたしていると、右の拳がサラちゃんの顔面に直撃した。

 怪我をさせないためにあまり力を入れなかったのか、子供は地面に落ちた。


「──死んだっていい……母さんも父さんもさっき死んだ。姉ちゃんだけなんだ。姉ちゃん……」


 拳を握りしめ、匍匐前進を始める子供。

 心臓の鼓動がさらに速くなった。

 姉ちゃん……姉さん……。

 目の前の子供は俺に似ている。何の力も無いのに自分の家族のために強い相手に挑む無謀さ。

 あの時の俺もそうだった。

 無力の癖にヒーローに立ち向かい、負けた。

 無力ゆえに目の前で姉さんを陵辱され、すがるも連れさられた。

 何もかもを失っても誰も助けてはくれなかった。


 ──だけど、この子は違う。

 確かに無力ではある。一般人が怪人に勝つ可能性は0だ。

 これは無謀な行動だ。

 しかし、無意味ではない。この子の行動によって俺の心は動いた。

 誰も助けてくれなかったあの時とは違う。

 この子には俺がいるんだ。

 一人ぼっちにはさせない。この子の姉は俺が助ける。


「姉さんは俺のために戦っているんだ……どけ。そこをどけぇ!ごほごほっ!」


 血反吐を吐く子供の手を優しく取った。

 覆面を取り、痛みを必死に耐えるために潰れた瞳を真っ直ぐに見つめ、言葉を紡いだ。俺の出来る精一杯の言葉を。


「君のお姉さんは俺が助ける。約束する。

 君を一人にはさせない。俺を信じてくれ」


 拙い。ヒーローらしからぬ説得力の無い言葉。

 俺の顔に見覚えがあるのだろう。子供の真っ赤な顔が見事に歪んでいる。

 信じれないかもしれない。

 しかし、君は選ぶはずだ。

 たった一人の家族を救うためならば君はきっと。


「……お前みたいなやつの事信用できるわけないだろ」


 ダメ、か。まあ元は安心させるための言葉だ。

 俺のすることは変わらない。サラちゃんにアイコンタクトで病院へ送るように言った。

 そして、いざ姉の救出に行こうと背を向けると小さく幼い声が聞こえた。


「……お願いします。姉ちゃんを……助けて」


 その声はか細く震えていた。

 国の敵である俺に子供が厭いながらも救いを求めたのだ。

 これを無碍にする人間がどこにいようか。

 俺は片腕を横に広げ、親指をビッと立てた。

 

 もう言葉はいらない。


 約束は結ばれた。



 ******



 何人かを逃してしまった。

 目の前の狼男があまりにも逃げ回るからわざわざ生命解放(ライフパージ)もしてしまう始末。

 本当はお姉さんの救助用に残しておきたかったんだけど。

 軽くため息を吐き、拳を振り上げ、トドメを打つ準備に入る。

 まあいいか。さっさとこいつを殺して、探しに行くとしよう。


「まっ!待て!お前もコッチ側だろう?なぜ俺らを!?」

「んなわけねーだろ」


 よく分からない命乞いをする狼男の心臓を拳で貫き、その後、手を拭った。

 頬にべったりとついた返り血がなんとも気持ちが悪い。


 俺が戦っている最中も、浅草の街はこの世のものとは思えないほどに荒れた。

 瓦礫に押しつぶされ下半身を失い、そのまま息絶えた者。

 全身を食いつかされ、惨たらしく開いた傷口から鮮血を流し、死んでいる者。

 彼らを一瞥して、脳漿のこびりついたアスファルトの上を駆け抜け、件の女性を探す。


 さっきの口ぶりからすると、そのお姉さんはヒーローだ。

 騒ぎの起きている方へ向かえば、いるに違いない。


 西の方から戦闘音が聞こえた。

 音の感じから察するに恐らく多対一になっているのかな。

 他のところから音がまったくしない。

 大体、三対一……くらいかな。


「急ごう」


 足に力を集中させ、一気に踏み込む。

 戦場に着くや、見覚えのある顔の女性が三人の怪人と対峙していた。


「アイドルヒーロー水崎美玲……あいつだったのか。

 いやそれよりもあいつ戦えんのか?」


 美玲は右腕を抑えながら、怪人達から少し距離をとっている。

 応援を待っているのだろうか。周りをキョロキョロと見渡している。

 やはり、戦闘よりもサポートする側だろうに、命を張って国民のために頑張るその姿はまさにヒーローそのもの。


「くけけ!あの馬鹿げたヤロウよりオンナの方が柔くていい!美味いっ!美味いぞ!」

「馬鹿者。主がお待ちなのだ。時間をかけてはいられん」


 男が長い舌をべろりと自分の唇を舐め、嘲笑するのを隣の全身が岩で出来た岩男が制す。

 もう一人は、フードを目深に被り、彼らの後方で佇んでいる。

 多分、いや絶対にやつが一番強い。

 先程から冷や汗が止まらない。

 恐怖?俺が?


「へいへい──っと!!」


 舌長男は舌をまっすぐに女性へと伸ばす。

 女性は屈み込み、舌を躱す。舌は止まることなく直進し続け、店先に勢いよく突き刺さった。


「切れろっ!!!」


 ピンと張った舌を屈んでいた美玲は掴み、大声で叫んだ。

 すると、舌がスパッと切れ、舌長男は絶叫する。

 岩男は痛みを紛らわせるために転げ回る舌長男の首根っこを掴み上げ、無理やり立たせた。


「いい加減にしろ。ツィィ。遊ぶなと言っているだろう。

 見ろ。増援が来てしまった」

「わーったわーった。ちゃんとやるって」


 泣き叫んでいたのが嘘だったかのようにケロッとした顔でいるツィィとかいう名前?の男を見て、美玲は変な声を上げた。

 切り落としたはずの舌が再生している。

 英雄戦技(ヒーローズセンス)は一人につき一つ。

 やつの場合は舌を長くし、なおかつ舌の強度が上がる能力のはずだと、美玲同様、俺も思っていた。

 しかし、やつは切り落とされた舌を再生した。

 もしかすれば、セットの能力なのかもしれない。

 だが、あまりにも都合が良すぎる。

 基本、怪人はヒーローに対して相性の悪い能力を持つはず。

 その大前提を無視した補正。

 目の前のやつは明らかに異常だ。

 そんなやつに強く当たる隣の岩男にも、この掟破りの補正が働いていると考えたほうがいいか。


「っ!?は、羽原悠里じゃない……ああもう!どうしてこう……私はただ家族で……」


 涙ぐむ彼女を尻目に奴らを観察する。

 なるほど。どうしてあいつらを逃したのかが分かった。

 ()()()()いたんだ。

 気配がまったく無いものだから気づかなかった。

 背後から迫る怪人の方を振り向き、ローキックした。


「くぎっ!?なんっ!?」


 怪人の片足が吹き飛び、体勢を崩したところをすかさず追撃する。

 ローキックで使った足を地面につけ、それを軸足に後ろ回し蹴りを怪人の脳天めがけて繰り出す。

 横からの衝撃を受けた頭はそのまま首の中へ入り込み、体を突き抜け、肛門から飛び出していった。


「ひぁぁっ!!」


 返り血が美玲の顔にかかり、絶叫したが気にせず三人の方へ視線を戻す。

 眼前に迫る舌を身をよじって避けた。

 すごいびっくりしました。

 ……なんか作文みたいになってしまったが、びっくりしたのは本当だ。

 そのまま舌を掴むが思いの外、感触が気持ち悪く手放した。

 うぇぇ……糸引くんだけど。


「マジかよ!?今の避けんのかよ!どうすんだおいっ!聞いてねーぞこんなの」


 ツィィは岩男の肩──どこらへんが肩なのかは分からないが──を揺らす。

 岩男は静かに一言。


「落ち着け」


 となりの怪人とは違い、小物感が一切ないあいつもかなり強いな。

 奥のフード怪人よりも遥かに弱いが、戦闘力で言えば京介レベル。

 佇まいや覇気はジュピターのそれと同じ圧。

 正直、美玲がここにきちんと立っていたのが不思議なくらいだ。

 弟のため、か。家族というのはすごいな。


「あの男は我々にとってイレギュラー中のイレギュラー。

 だが、主はこれすらも予想されておられる」


 そう言うと岩男は空気椅子の姿勢になり、あれほど騒いでいたツィィも頭を下げ、地に膝を着ける。

 フード怪人がゆっくりと歩き出した。

 ただそれだけ。ただそれだけなのに、なぜこんなにも汗が止まらない。

 美玲とフード怪人の間に立ち、様子を見る。


 フード怪人は岩男製の椅子に腰掛け、スラッとした足を組み、フードを取った。

 涙が一つ流れた。

 他でもない俺の涙が頬をツーっとつたっている。

 フード怪人の素顔を見て、何もかもが溢れ出そうだった。

 一粒でも我慢したほうだ。


「すがる……」


 フード怪人の正体は秡場すがる。

 俺の初恋の相手。

 俺が助けるべき相手。


「悠里……」


 すがるも懐かしさを噛みしめるように俺の名前を呼んだ。

 ああ……すがる。会いたかった。

 もっと近くで顔を見たい。

 君の顔をもっと見せてくれ。

 俺は一歩。

 すがるの方へと踏み出すと、すがるは俺を指差した。


「死んでくれ」


 すがるがそう言い放つと、俺の意識は闇へと引きずりこまれていった。

 徐々に消えゆく意識の中、すがるの悲しげな表情が見えた気がした。

 ──すがる。大丈夫。俺が必ず君を助ける。


 そこで俺の意識は完全に闇へと飲まれた。

怪人は元々人間なのに躊躇なく殺してますが、怪人さんは人類の敵なので殺してもオールオッケーというのがこの世界の価値観です。

なんなら殺したほうが褒められます。

しかし、法改正が進んでいないので、怪人をヒーロー以外が殺せば捕まるし、怪人と偽って人間を殺す人もいます。

最低です。

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