19話 ヒーローさん本格的に始動します
言っておきたいことがあり、転移中のサラちゃんに話しかけた。
「さっきみたいな真正面はやめてくれないか?」
「私、八王子であそこ以外に行った事がないのよ。
だから必然的に真正面になっちゃうの」
「ホテルの中じゃあダメなのか?」
「ホテルの中なんて監視カメラだらけ。
一応言っとくけどあれでも十分配慮した方なのよ?」
口を尖らせて言うサラちゃんにそれ以上何も言わなかった。
本人がこう言うのであれば、これ以上何を言っても無駄だ。
「──次はどこに行くんだ?」
「渋谷にするわ。あそこなら人気の少ない良いところ知ってるのよ。
先にそっちにするべきだったかもね。
あ、良いこと思いついたわ。次にまた八王子に向かう時はあなただけで強行突破してくれる?
この子達には先に帰ってもらいましょう」
「そうだな。その方がいい」
八王子に走って向かうのは簡単だが、常人離れした速さで駆け抜ける覆面をした人間なんて注目の的もいいところだし、もう警戒態勢に入ってるだろうから俺が無理矢理押し通った方がいい。
ヒーローも駆けつけてくるかもしれないけど、そうなったらそうなったでどうにかなる。
っていうか2回連続で移動してるけど、こいつらは大丈夫なんだろうか。
嘔吐が止まらないんだけど。
「お"え"え"え"‼︎吐くのなんて半年ぶりだわ……。うっ……お"え"」
「う"っ……なんで僕いつもこんな感じになるの……おえええ……気持ち悪いよぉ」
「ごめんなさいねぇ。これ使用者以外は移動の負荷に耐えられなくて結構体にキちゃうのよ」
サラちゃんは二人の背中をさすりながら申し訳なさそうに言う。
もう瞬の目にはうっすら涙の膜が張られている。
相当吐くのが辛いんだろう。いつもより口調が弱々しい。
しかし、一つ気になった点が。
「京介。お前……。
二ヶ月前に俺の家で酒、がぶ飲みして台所で吐き散らかしただろ。
あれ掃除大変だったんだからな」
「今それ言う?お"え"ええ」
過去の文句を言っていると、どうやら目的地に着いたようだ。
目の前には雑居ビルの壁。また後ろにも雑居ビルの壁。
これが裏路地というやつだろうか。
大きな雑踏の音がすぐ近くに聞こえるため、大通りが近いことが分かる。
二人をサラちゃんに任せて、まずは周りの警戒を行った。
どうやらこの路地には俺たち以外の人はいないらしい。
ひとまずは安心して良さそうだな。
三人の元へ戻り、二人の回復を待つとしよう。
******
ひとしきりに吐いた後、二人は優れない顔で裏路地の奥へと歩いていく。
サラちゃんを先導に、オークション会場へと向かう俺たち四人の内、二人はノックダウン寸前。
大丈夫だろうか……。
一抹の不安を抱えながら、黙々と歩みを進める。
「あそこよ」
サラちゃんが指を差す先を見ると、二人のガタイのいい強面のおっちゃんが周囲に睨みをきかせている。
この会場の守衛か。
少し観察していると一人……まあ守衛Aとしよう。
守衛Aは訪れた人間から何かの紙──おそらくは招待状──を渡される係。
もう一人の守衛Bはただそのやりとりを見届けているだけ。
だが、腕っぷしは守衛Aより上。
守衛Aよりも体は引き締まっていて、佇まいは百戦錬磨の武人のようだ。
だからなんだって話だけども。
「……悠里?どうするの?」
「ちゃちゃっと済ませてくるよ。
お前らまだ本調子じゃないでしょ」
俺は三人にここで待つように伝えて、守衛に近づいた。
守衛はギョロッとした目でこちらを睨む。
怖いなぁもう。
「招待状を」
守衛Aが無愛想にそれだけを言い放った。
招待状なんてものはもちろん無い。
ならばどうするか。答えはシンプル。
この二人を気絶させる。
猿でも分かる簡単な話だ。
「招待状を──ッ!?」
守衛Aの顎の横を軽く2本の指で叩いた。本当に軽く。
あまり強くやると彼の首がさよならバイバイしてしまう。
守衛Bには見えなかったのか、突然倒れる相方を目の前にしてうろたえ始める。
オドオドする姿には愛らしささえ感じる。
そのくらい彼らは俺にとって取るに足らない。
守衛Bにも少し夢を見てもらおうと近寄ると、何か彼から懐かしさのようなモノを感じた。
なんだろうと思いつつ、守衛Aと同じように指で顎を叩いた。
「早いな……相変わらず」
瞬は呆れたように呟いた。
俺は守衛Bの服をまさぐり、何でこの懐かしさを感じるのか原因を探る。
この人には会ったことがないはず。
なのに、この人からはひどく懐かしさを感じるのだ。
「人柄かなぁ……ヤクザもんみたいな雰囲気の人多かったからな」
一通り探してみたが、全然それらしいものが見当たらないので、こう思った矢先、白い粉の入った小袋を見つけた。
これは……なんだろう。麻薬か何かだろうか。
「おーおー。こいつはやってんなぁ」
「京介……やってるって言うと?」
覗くように小袋を見る京介。
この手のことは京介の方が詳しい。
警察をしていた時、怪人を探している最中に半グレの馬鹿共を逮捕することがザラにあり、それらの担当をしていた京介は麻薬関連の知識を持っているのだ。
「これはミエドって言ってな。強い依存性があって、使うと強烈な幸福感に包まれる。まあ簡単に言えば他のダウナー系のヤクやりもちょっとヤバい奴、って感じ」
「なるほどなぁ……懐かしさの原因はこれか」
そう呟き、この薬物はもらっておこうとこいつらにバレないようポケットにしまった。
俺に使うわけじゃない。
少し面白いことを思いついたのだ。
「悠里ここは俺がやっとくからお前は次のところ行ってこいよ」
「……そうか。分かった任せるよ」
京介の肩を叩き、その場をサラちゃんと共に後にする。
あいつなら大抵の奴。それこそヒーローにだって負けることはない。
瞬は……まあ京介が守ってくれるだろう。
顔色がまだ優れていないのが少し気がかりだ。
「本当にいいの?あの子たち本調子じゃないんでしょ?」
「んー……正直なんとも。
京介の強さは単純な能力によるモノじゃなくて、センスが大きいからな。
まあなんとかするって。あいつは強い」
二人を背に歩くサラちゃんは俺に問うが、俺は答えを濁した。
彼に対するこの気持ちは信頼、というのとは少し違う。
言うなれば放任に近い。
縛られるよりも自由気ままにやる方が彼としては楽だろうという俺なりの配慮。
信頼なんて彼を縛りつける縄でしかない。
「次は二つ一気に行こうか」
「本当に?いけるの?」
「もちろん。余裕さ」
俺だってそんじょそこらのヒーローは敵じゃない。
俺はサラちゃんが差し出した手を取り、次の場所へと向かった。
──今日、人が死ぬとも知らずに呑気に俺はそんなことを考えていたのだ。
次回、いよいよ襲撃です
少し長めの話を予定しております




