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『嵐の中、失踪』②

 聖の話だと、こうだった。


 聖は各ツテをさがして霊感のある人間を集めあげた。その中には、臣や紀介、緋姫がいて、その臣がクラスメイトの私とレニも聖と会わせたことで、メンバーが集まりそうだったのだ。そんなある日、聖は大学でとある少年を見かけた。


 彼は、パッと見ごく普通の人間に見えた。少しだけ不思議な雰囲気があったが、ごく普通の人間だと、そう思って通り過ぎようとしたら、すれ違った瞬間に、かすかに『妙な気配』がしたという。それをぴんと感じ取った聖はその少年の腕を掴んだ。


「……君は……何者だ?」

 そう、問われた彼は、初対面にも関わらず、聖に言った。



「……僕自身も、分からないんです」



 彼の名は、琉生と言った。彼と接すれば接するほど、彼の言動も生活も、ただの人間と同じだった。時折感じる妙な気配以外は、だ。彼と話すなかで、彼はこう話したと。


「僕は……自分が人間だと思って生きてきました。でも、最近わからないんです」

「それは、なんで?」


 そう聖が尋ねると、琉生は言ったという。


「……僕、なにかずっと、変な感じがするんです。自分が自分じゃないような感覚。周りに不思議なことが起きることも、多くて。それだけならいいんですけど、最近は……」


 琉生は一瞬口ごもって、また話を続けた。


「……夜、起きると部屋がぐちゃぐちゃになってたりすることもあって。もしかしたら、何か、二重人格のようなものがあるんじゃないか、と思うこともあって……」


 そう言われた聖は考えた。……この子も、利用できるんじゃないか。

 この彼の身に起きていることをうまく解決したら、その二重人格さえ飼い慣らして、目的を果たすことが出来るのではないか、と。


 その時、聖は琉生に初めてチャンネルへの勧誘をした、ということだった。


「……霊感がある人たちがいっぱいいるから、君自身の身も守ることが出来ると思うよ。なんにせよ、君の問題を解決するのには時間が必要そうだ。なんだったら一緒に住んだりした方がいいかもしれない。それなら周りの力で抑えられるだろうし……」

「え、ええと……なんでそこまで……?」

 その時、そう聞かれた聖はこう答えた。


「君のことが必要だから」


 ……その後、撮影に好都合だからという理由で、聖は緋姫にシェアハウスの相談をしたという。ちょうどいい場所に別荘がある、ということでそこに私たちは住むようになった。家賃は超安価でいいということで、それぞれ親を説得してシェアハウス生活を始めることになった……という、ここは私達もよく知る経緯だった。


 聖は、言った。


「……僕の、自分勝手が産んだことだ。それが結果的に、琉生を苦しめてしまっていたのかも」



 その話を聞き、部屋は静まり返る。外にはざあっと雨の音が聞こえる。ふと、私は思いだした。いつだったか、夜中に上の階から物音が聞こえてきたのは、もしかしたら琉生が苦しんでいた時だったのかもしれない、と。

 でも、と臣が声を上げた。


「今聖が言ってたのって、琉生になにか事情があることと、聖はそれを利用しようとした、って話だろ? それがなんだって突然琉生は出ていったことに関係するんだよ」


「……不安になったんじゃないかな」


 私はつぶやく。え?と臣に聞き返された。


「何がきっかけかはわからないけど……琉生は手紙に迷惑を掛けたって書いてたんだよ。あの子に何があったかはわからないけど、耐えられなくなって、ここから出ていこうって決めたんじゃないかな……」


 その気持ちはよく分かる。私はずきんと胸がいたんだ。迷惑をかけたくない、出ていかなきゃ、と追い詰められる気持ちは……ついこのあいだ私も経験したからだ。それにしても、あまりにも分からないことが多かった。

 何故出ていったのか?琉生が抱えていたことは何?……そう考えても、なにも、わからない。

 でも、とレニはぼそりと話し始める。


「じゃあ……琉生を連れ戻そうってのは正しいのかな……」


 緋姫がはっとした顔をした。紀介が首を傾げると、レニは続けた。


「琉生になにがあったか私たちはわからないけどさ、それこそ琉生にしか分からないことはあるよね。そもそも、琉生自身の意思でここを出ていったんでしょ。だったら、連れ戻すことって、琉生にとっては苦痛にしかならないんじゃないかな……」


 うん、と聖が頷く。


「……それも含めて、今までの経緯を知った上での皆の意見も聞きたくてこの場を設けた。色々今まで言えなかったことも多くて、本当にごめん。でも僕は、このまま琉生のことは無かったことにするのって……正しいのかわからなかったんだ」


 そう言って、聖は立ち上がり、私たちに頭を下げた。私たちが戸惑っていると、聖は言う。


「自分勝手なことは分かってるけど……どうか、皆の知恵と力も貸してほしい」


 そう言われた私たちは顔を見合わせる。臣はそんな空気を割くように、いつものようにはあ、とため息をついた。


「だーから最初から俺ら頼れっつってんじゃん。わかんねーやつだな」

「臣、言い方……」


 レニは呆れ顔だ。だが臣は続ける。


「聖、お前のことはこの数ヶ月見てきてよく分かった。ああ、確かにお前は自分はなんでも知ってますって感じで俺らにはなんも相談しない、薄情なやつだよ。でもな」


 聖の目の前まで臣は立ち上がって言って、指をさした。


「お前は自分勝手だとか利用してたとか言うけどな、俺らのこともちゃんと考えてるのは分かるんだよ。……上手く言えねえけど、この問題はお前だけのものじゃないから、俺らも考える。俺ら自身のために。分かったか」


 そう言われた聖は目を丸くする。聖が何かを言いかけたそのとき、紀介がぶっと吹き出した。臣はその様子に目を釣り上げる。


「なんだお前人が真面目な話してる時に!」

「あは……いや、ツンデレかよ、と思って」

「あぁ!?」

「でも臣の言う通りだ」


 紀介はしっかり頷いて、続けた。


「俺もずっと、悔しかった。力が借り物なことも、俺自身のことを否定されても何も言えねえ自分にも……。でもな、お前がこの居場所を作ったんだろ。その恩はちゃんと返すよ。……もちろん琉生にもこのままじゃあバイバイ、で済ませるかって話だよ」

「二人とも……」


 そう言うと、レニは素早く挙手をした。割り込む勇気がなかったのだろうか。みんながレニに視線を向けると、レニは少し顔を赤くしながら話し始める。


「……私も、自分の力はずっと人を傷つけるものだって思ってた……けど、聖も背中を押してくれたでしょ。それで気づいたの。私もちゃんと人の為にできることがあるって」


 そう言い終わったあと、はにかむように笑う。

「だから、一緒に考えよう。どうすればいいか」


 皆、自分の思いをきちんと話している。私も口を開こうとしたが、その前に端的な緋姫の言葉が飛ぶ。


「聖さん。あなたはいつも聡明で気遣いをされる方です。このお話をするにも勇気が必要でしたよね。……でも、大丈夫ですよ、きっと」


 そう言うと、優雅に微笑んで見せた。その背筋はいつものように、凛と張られていた。


「私たちは貴方が選んだ『さいきょー』のメンバーですもの。きっといつものように解決してみせますわ。ね?」


 みんなが頷く。聖が息を飲んで、ぼそりと呟く。

「……僕の仲間は……本当に、心強いな。ごめん、弱気になってた」


 そう言うと、聖は自分の顔をぱちんと叩いて、いつもの微笑みとは違う笑顔を見せる。にっと、力強く笑って見せた。


「そうだね。大丈夫だ。責任はちゃんと取るよ。僕はこのチャンネルの設立者だからね」


 ……そうやって、話がまとまりかける。と、ちょっと待て!


「私も! なんか言わせて!」

「うぉうびっくりした」

 私が思わず遮ると、臣がびっくりした顔をする。完全に私も話すタイミングを見失っていた。咳払いをして、改めて聖に伝える。


「まぁ色々聖も言ってたし、言いたいことはみんな言ってくれたから、これだけ! 超簡単に言わせて欲しい!」

「……うん。何?」


 私はハッキリと、声に出す。この間、分かったこと。伝えるべき言葉。


「聖! ほんとに、色々ありがとう! それで、私たちにも任せて!」


 聖はちょっとの間ぽかんとしたあと、笑う。その笑いに伝播して、皆の空気も、緩んだ。

 ああ、と思う。本当に、ここにいられてよかった、と。


 雨の音は、いつの間にか聞こえなくなっていた。


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