第9話 プロファーンの仕事②
パチパチという小さく細かい音と、体に向けられた暖かい何かに、セイヤは薄らと目を開ける。
「お帰りなさい。どうだったかしら、最初のお仕事は」
目の前には、あの大きな椅子に座ったプロファーンが、大きな猫のような瞳をじっとセイヤに向けている。
そして、絨毯の上でうずくまっているセイヤの背後には、暖炉の中で火が勢いよく燃えていた。
「あ…え…あれ…?僕は…戻ってきた…?」
「そうね。お仕事お疲れ様」
「仕事…はっ!そうだ!藤咲さん!藤咲さんは、どうなりましたか!?それに、僕はまだ何も仕事を終えられて…」
「終えてるわよ」
椅子の近くにいつの間にか置かれている、小さな机の上の瓶を、プロファーンが指で弾いた。
そして、瓶の上から手を勢いよく手を入れると、瓶から水のようなものが溢れる。
そして、プロファーンのその白い手が瓶の中から出てきたとき、その手には、薄だいだい色のゴムのようなものと、赤とピンク色を合わせたような塊が掴まれていた。
「それ、なんですか…?」
「さっきの人間の皮膚と肉よ」
「は…さっきのって…誰…」
「刺された女性、藤咲の皮膚と肉よ」
「え…な…どういうこと…ですか…?」
チャポン
愕然としているセイヤの前で、プロファーンはその皮膚と肉を、もう一度瓶の中へと落とす。
「願いが叶うとき、プロファーンが目の前に現れる。そのときに、願いが叶うでしょう」
プロファーンは猫のような大きな瞳を、じっとセイヤに向ける。
「叶ったでしょう?三島紗子も、藤咲も」
「な…!」
「三島紗子の願いは、三島海斗、藤咲の両人へ制裁を加えて欲しい。結果、藤咲は死亡、三島海斗はあの後、警察からの聴取を受け、勤務先からは解雇されたわ。藤咲の願いは、自分から三島海斗を遠ざけて欲しい。死んだことで、もう二度と会うことはなくなったでしょう。つまり、あなたは、仕事を完遂かんすいしたということよ」
「仕事…僕は何もしていない、ただ2人に偶然会って話を聞いただけで…」
「偶然じゃないわ、会うことは決まっていたの。手紙を出した人物2人に出会ったのち、願いを叶えることが、あなたの仕事だったのよ」
「だとしても、あんな殺されるような結果は…!」
「残念ながら」
プロファーンが椅子の横に置いてある箱から手紙を取り出し、暖炉に投げ込む。
「プロファーンが現れた場所では、必ず人が死ぬ。それは昔から変わらない」
「…まるで悪魔じゃないですか」
歯を食いしばり、プロファーンを睨みつけるセイヤ。
「プロファーン・サンタクロース。私は、大人の邪な願いを叶える、俗なるサンタクロース」
プロファーンは立ち上がると、肉片が入った瓶を両腕で抱きかかえる。
「仕事はまだまだあるのよ。仮眠でも食事でも、好きに過ごしなさい。また数時間後に呼ぶわ」
プロファーンは静かに部屋を出ていき、セイヤは床に拳を打ち付けて、うずくまったまま、しばらく動かなかった。




