第2話 プロファーン
どこへと進めばいいのか分からないセイヤだったが、進むと勝手に開くドアを、ただひたすらに進んで行った。
何個目だろうか、開いたドアの先には火がともった暖炉があり、その火がゆらゆらと暗い部屋を薄い赤色に照らしていた。
セイヤがその部屋へ足を踏み入れると、暖炉の近くで大きな背もたれ付きの椅子に座った、黒と赤の服を着た女性が見えた。
椅子の持ち手部分に肘をつき、手の甲に頬をのせ脚を組んだその女性は、じっと暖炉の火を眺めている。
暖炉の火の音以外無音のその静寂さに、セイヤが飲んだ唾の音が異様に目立つ気がした。
「あの……」
「あなたがセイヤね。もっと暖炉の近くへどうぞ」
目の上までの長さの重めの前髪の下から除く大きな瞳だけを動かし、セイヤを見つめる女性。声はどこか気だるそうで、ゆっくりとした話し方だ。
「あの…あなた様がプロファーン様でしょうか」
「そうよ」
端的にそう答えるプロファーンは、ニコリともせず、ただじっと暖炉の火を見つめたままだ。
「手紙、いいかしら」
「…え…あ、はい」
セイヤが手紙を渡すと、プロファーンは中身を出して開いて読み、ザッと目を通したあと暖炉にその手紙を投げ捨てた。
「なっ…!手紙…!よろしいのですか!?」
サンタクロース邸では、子ども達からの手紙1枚1枚全てを大事にパッキングして保管していたため、目の前で手紙を暖炉に投げ捨てるプロファーンの行動に、セイヤは衝撃を受けたのだったのだ。
すると、プロファーンはその大きな猫のような瞳をじっとセイヤの方に向ける。
「…あ…すみません、サンタクロース邸では手紙は宝のように大切に扱っておりましたので…つい口に…。何か気に障ったなら…申し訳ありません」
「場所が違えば道理も違うのよ」
そう言うと、プロファーンは暖炉に視線を戻しまたじっと火を見つめる。
「申し訳ありませんでした。…それでは、私は手紙もお渡ししましたので、ここで…」
「あなた、どうやって帰るつもり?」
「どうやって…?それは、ここへ来たときと同様にトナカイのルドルフに乗っ…あっ…!」
セイヤはこのプロファーンの土地に降り立ったとき、トナカイと別れトナカイが空へと駆け上がっていったのを思い出す。
「あなたの乗ってきたトナカイ、あなたを待つことなく、すぐに帰ったでしょう」
「そうだった…しまった…」
プロファーンの場所へとやって来た緊張感とサンタクロースからの頼まれごとからの責任から、トナカイがすぐに去ってしまったことで帰るときは自分がどうするかなど、全く頭になかった。
「まあ、あなたがもしトナカイに留まるよう言ったところで、どっちみち結果は同じだったけれど」
「…同じ…?それは、どういうことですか?」
「あなたは、サンタクロースに売られたのよ」
「は…売られた…?何を…おっしゃられているんですか。僕は、ただここに手紙を持っていくよう言われただけで…!」
「私の所へ来たら戻れない。彼との間で、そういう取り決めになっているの」
「うそだ…サンタクロース様はただ、手紙を渡して欲しいとだけ…!…そうだ!移動手段の何かをお貸し頂けませんでしょうか——!?お礼は…そうだ、掃除など雑用でも!プロファーン様のご要望通りいたします!」
プロファーンは頬杖をついたまま、また目だけを動かし、じっとセイヤを見つめる。
「言ったでしょう、戻れない取り決めになっていると。まあ、私の噂を聞いていて、帰りたいと思うのは、仕方のないことだけれど」
プロファーンは椅子から立ち上がると、セイヤの前にゆっくりと近づいて来る。
セイヤは、立ち上がったプロファーンを初めて見た。
黒く長い真っ直ぐな髪の毛に、色白い肌そして細いそのスラリとした姿で、静かにセイヤを見つめる。セイヤは背が高いことを自負していたが、プロファーンも自分とほぼ同じ目線の高さで、立っているだけでその姿に圧倒された。
それだけではない、プロファーンが着ている服は黒と赤の暗めの色で、決して華やかなものではないが、その出立のせいだろうか、不思議と目を惹きつけられるほどに、言葉に言い表せない何かの魅力があった。
セイヤがプロファーンから視線をそらさないでいると、プロファーンがゆっくりと手をあげ、その細い人差し指でセイヤの顎を上に軽くあげる。
「目をほじくり返され、鼻は削ぎ落とし、髪の毛は引き抜かれ、顎が砕かれ口は切り裂かれる。プロファーンは人間やエルフをくらう悪魔だと、そう聞いているんでしょう?」
セイヤは恐怖を覚えたが、プロファーンのその大きな瞳に見つめられ、恐怖の中に不覚にも胸が高鳴ってしまった。
「…心臓を食らうことを好む、とも聞きました」
プロファーンはその大きな瞳を更に大きく開けると、体をのけぞらせて大きな声で笑い出す。
「うふふはははっ!!凄いわね、噂なんて嘘ばっかりと思っていたけれど」
プロファーンは口元に笑みを浮かべて、セイヤを正面からみつめる。
「意外にも真実を伝えるのね」
「…それでは…噂は本当なのですか…」
プロファーンはセイヤの顎から指を離すと、不敵に微笑む。
「真実よ。そして、あなたは、これからそれらを私に給仕するのよ」




