第18話 前任者は
気がつけばプロファーンの所へ戻っていた。
あのあと、セイヤは自分がどうしたかハッキリとは覚えていない。
ただ、村の中を歩き回って辺りを見回したが、誰一人として動いている者はいなかった。
立ち止まった足元には、最初に会った子供たちが固まって倒れており、それを見た瞬間気分が悪くなり意識が遠のいたのだった。
「おかえりなさい」
暖炉がパチパチと燃える前で、大きな椅子に座ったプロファーンは、いつものように感情のこもっていない瞳でセイヤを見つめていた。
「…僕がここに戻ってきたということは、仕事が完了したということでしょうが、村長は改心などしていません。ただ殺されただけです。これで願いが叶ったというには、おかしいです!」
「改心してたわよ。彼は、殺されることが分かっていたわ」
「は…どういうことですか」
「彼は市街化計画が既に止められないのは、分かっていた。最後の手段として、村の撲滅しかなかった。そしてそれを成せるのは、真実を知っている彼女のみ。私たちは、そのキッカケをあげたに過ぎない」
「あげた…?」
「そう。不思議なことに、プロファーンが降り立った場所では、必ず誰かが死ぬ」
セイヤが脱力して座り込む。
「今回も報酬がもらえたわ」
プロファーンは、小さなテーブルの上に置かれた瓶を、指ではじく。
そこには、ピンク色の少し厚みのあるものが、中央で浮かんでいた。
「それは……」
「舌、よ。村長の」
プロファーンが自分の舌を出して見せ、指でさす。
「うっ…おえっ…」
セイヤは気持ち悪くなり、下のカーペットに四つん這いになると吐いてしまった。
「死んだ人間の一部を貰うのも、プロファーンの仕事」
「いやだ…もう、こんな仕事を続けたくない…。僕は、人が幸せになる、願いを叶える仕事をしていたかったのに、なぜこんなことをやらなければいけないんだ…!」
「選ばれたのだから仕方ないわ。いい加減諦めて。」
プロファーンは、床で四つん這いになったままのセイヤに近付くと、セイヤの横にしゃがみ込む。
プロファーンと、これほどまでに近い距離にいるのは初めてで、プロファーンの魅力的な容姿に、セイヤの精神とは裏腹に心臓の鼓動が早くなる。
プロファーンはその大きな猫のような瞳で、セイヤの顔を覗き込む。
「この役割りからは逃れられない。最後までやり切って」
いつもの淡々とした声ではなく、温情を感じられるようなプロファーンの声に、セイヤは少し動揺した。
「…僕が来る前には、他の人がこの仕事をしていたんですよね?前任の人は、今どうしているんですか」
「自死したわ」
プロファーンは数秒目を伏せた後、瓶を両手で抱えて立ち上がると、セイヤに背を向けて歩き出す。
「その方は…死んでしまった前任の方は、どうされたのですか?どこかに埋めたとか…」
「また明日もお願いするわ」
プロファーンはセイヤの言葉を遮るようにピシャリと言うと、部屋を出て行った。
「あの瓶どうしてるんだろう」
プロファーンが食べている、という噂が頭に浮かび、また気分が悪くなったセイヤは、床の上に大の字に寝転ぶと、そのまま天井を見つめた。そして、いつの間にかまた深い眠りについていた。




