第17話 ヒメごと⑧
「…市街化計画が、順調ではないということですか?」
村長はスープをまた数口すすると、ガチャと大きな音を立てスプーンを器に置く。
「市街化計画はね、嘘で固められた計画なのだよ」
「…というと…?」
警戒しながらセイヤが尋ねる。
「元々、市街化計画はプルーニの父、前村長が進めてきた話なのだよ。子どもが死なないために街をつくる、それが目的だったのは確かだった。…だが、その目的とは別であることが進められていた」
「あること…ですか?」
村長は、また数口スープをすする。
「子どもが死なないために街をつくるという目的の裏で、街には訳ありの人間が働き、薬物を作る場所になるように、無断で計画が進んでいたのだよ」
「……前村長は、それを初めから知っていたのですか…?」
「ああ、知っていた。承諾した上で、市街化計画を許可したんだ。この村を一番に考えなければいけない村長が、だ…。……それを知った私とプルーニは激昂して、ある晩村長と言い争いになった」
村長はテーブル上の握り拳を強く握り、その手の甲に骨と血管が浮き出ていた。
「…その件なら、村の男性から聞きました。村中に声が響き渡っていて、すごい剣幕だったと。そして、その日からヒメちゃんを見かけなくなった…と。何があったのですか?」
村長は無言で残りのスープを飲み干すと、力無く笑う。
「それは…プルーニの願いを叶えるために、言わないといけないかね」
「それは……」
「あんた、いいよ。私が代わりに話す」
声に振り返ると、プルーニが村長の家の中に入ってきていた。
プルーニは村長の向かいに座ると、セイヤを見つめる。
「私の父親は市街化計画において、大量の金銭を個人的に受け取っていたんだよ。言い争った日も、その金で買ったんだろうね、高そうな尖ったナイフを私らに向けて、脅してきたんだ。村にこのことをバラす気なら、うちらを病院送りにすると。そのときだったよ、寝ていたヒメが起きてきてしまってね」
プルーニは村長へ視線をうつし、村長とじっと見つめ合う。
「…父は気が狂いかけてたんだろうね。父の異変に気がついたときには、もう遅かった。ヒメにナイフが刺さっていたよ。けれどね、悪いのは私とこの人さ。村長の悪事を黙っておこうって、村の皆に話せなかったんだからね。市街化計画も、…ヒメのことも……」
「ヒメちゃんは…その後どうされたのですか?」
「それは、私が話そ…ガッ!グウワッ!」
「村長さん!!!」
村長が急に大量の血を口から吐き出し、テーブルの上につっぷするように倒れ込むと、そのまま動かなくなった。
セイヤは立ち上がると、村長の横に立ち村長の両肩に手を置き揺する。
「大変だ…!プルーニさん!村長が…!!医者を…!呼ば…ないと…」
プルーニは微動だにせず椅子に座ったままで、その目は黒く不気味で、なんの感情のこもっていない冷たいものだった。
「無駄よ。このスープには村一番の猛毒が使用してあるから。それに、うちの村の医者も、おそらく同じように倒れてるだろうね」
セイヤは走って村長の家の外に出ると、外には人があらゆる場所で倒れており、見たところ動いている人間はおらず、倒れてる皆その近くにはスープが落ちていた。
「プルーニさん、あなたまさか…」
「あ〜ぁ、これじゃあヒメちゃんが泣いちゃうわ。パパ汚いーって」
プルーニは、テーブルの上の村長が吐いた血の溜まりを白布で、ゆっくりとふいていた。
「このテーブルにはね、ヒメちゃんが入ってるの」
「は…?」
「ヒメちゃんが亡くなったとき、この人と2人でヒメちゃんを解体して、木の中に埋め込んでテーブルを作ったの。それがこれ。可愛い私のヒメちゃん、大丈夫ですからね〜、よしよし」
テーブルに頬擦りするプルーニの頬が、薄っすらと赤く染まっていく。




