第16話 ヒメごと⑦
「散らかってて、悪いねえ」
そう言いながら、床に置いてあった袋や雑多な物をガバッと腕で抱え、プルーニは奥の部屋へと行ってしまった。
プルーニの家は、ここに来るまでに見たどの家よりも広く立派で、外から見る限り何部屋もありそうなこの家は、プルーニ1人で住むには、広すぎるくらいだった。
丸い大きめのテーブルの上には、小さな写真立てが1つのっていた。
「そうそう、今日の夕飯はねー…」
戻ってきたプルーニは、セイヤが写真立てを持っているのを見て表情が固まる。
「この女の子が、プルーニさんの娘さんですね?」
「あぁ…そうだよ」
「お名前は…」
「ヒメだよ」
「亡くなった原因は、なんですか」
プルーニの眉間にシワがよる。
「それを聞いて、どうするんだい。私の願いを叶えるのに必要なんかい?」
「…分かりません。必要かもしれませんし、必要でないかもしれない」
「はんっ!分からないのに、人の死について不躾に聞いてくるんじゃないよ!」
唇をギュッと結び、口角を下げセイヤを見つめるプルーニ。
「プルーニさん、いるー?そろそろ、夕ご飯の時間だよー」
村の子どもが、プルーニの家のドアを開けて入ってきた。
「ああ、そうだもう時間だね。行こうか」
笑顔になったプルーニはセイヤの顔を少しも見ずに、隣を無言で通り過ぎていった。
「はあ…」
セイヤは深く息をついて、2人の後を追う。
村のある一角は大きな空き地となっており、既に多くの大人と子どもが集まっていた。そして、その中心では、大鍋やフライパンのようなものが、幾つも火にかけられていた。
プルーニが大きな鍋をかき混ぜ始めたのを見て、セイヤはプルーニと最初に出会った場所が、ここだったと気付いた。
プルーニは鍋の中のスープのようなものを器によそうと、腕を突き出してセイヤに向けた。
「悪いんだけど、これを村長に持って行ってくれるかい」
「分かりました」
セイヤはスープを持って、村長の家まで行きドアをノックする。
すると、村長がドアを開け、セイヤの持っているスープに目をやると、穏やかに微笑む。
「やっときたか。待っていたんだ」
村長はテーブルの前へと行くと、上に載っていた書類を乱雑に抱え、床にドサッと置く。
「今日は朝から何も食べていなくてね、もうお腹がペコペコなんだ」
ニコニコと笑う村長は、初対面のときよりも元気で、気分が良さそうだった。
「では、いただこう」
テーブルについた村長とセイヤ。セイヤは、村長が引き出しからスプーンを取り出し、スープを啜るのを見つめていた。
数口飲んだ後、村長はスプーンの手を止め天井を見上げ溜め息をついた。
「ふう…この味だ。プルーニと最後に食べたスープも、これだったんだよ」
ニコッと笑った村長はスプーンを置くと、その金色の瞳でじっとセイヤを見つめる。
「それで、プルーニの願いは叶えられそうなのかな」
低い声で静かにそう言った村長は僅かに間をおいて小さく笑ったが、その笑みはどこか悲しげだった。
「…なぜ、それを…」
「初めて会ったときから、君がプロファーン様、もしくは関係者だと気付いていたよ。君の服装を見てね。騙したような形になってしまい、すまない。プルーニがプロファーン様へ手紙を書いたのも、プルーニから聞いて知っていた。だが、まさか…本当に私たちの所へプロファーン様が来てくれるとは」
「私…たち…ですか…?私は、プルーニさんの願いを叶えに来たのですが」
村長は視線をテーブルに落とすと、テーブルを優しく撫で、その後セイヤに視線を戻す。
「私を改心させにきたのなら、もう既に願いは叶いかけているよ」




