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転生先に断罪後の悪役令嬢しか選べなかった  作者: ふぅみ


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第4話

 魔力と体力が半分以上回復して自分でトイレへも自由に行けるようになったころ、医師から退院の許可が出た。後は安静にして少しずつ散歩していけば大丈夫ということで経過観察や診察は必要ないらしい。

 その翌日、診療所に来た迎えはメレスタとお兄様の下で働く侍女、ひとりだ。私の侍女を連れて来てもらえなかったことが、私の屋敷での扱いを表していた。


 同じ屋敷に住んでいても主人が違えばほとんど言葉を交わすことはない侍女に着替えを手伝ってもらう。医療着からようやく令嬢らしいドレスに着替えることが出来たし、髪もきちんと櫛を通してもらうことが出来た。

 個室の病室から迎えの馬車までは車椅子で運んでもらった。正直、自力で歩ける距離はまだ少しだったからありがたい。迎えの馬車に乗り込むときにはメレスタに抱きかかえてもらった。

 馬車の中では、メレスタが黙ってしまうと私も黙るしかないので沈黙が続く。屋敷にこのまま連れ帰ってもらえるのかそれともどこかに連れて行かれるのか分からなくて…怖い。


「…エリザベスお嬢様。着きましたよ」

 それとなく窓の外を窺って無事に屋敷に向かっていると気が付いてからは俯いたままでいた。開けられたドアの向こうにいた執事のハルギートにほっとした。どうやら隔離されることなく本宅に迎え入れられるみたい。


「失礼します」と声を掛けてメレスタが私を抱きかかえ、馬車から降ろしてくれた。

「おかえりなさいませ、エリザベルお嬢様」

 いつも沈着冷静な執事の顔色に変化はないが、ほんのわずか…声が震えていたように感じた。

「ただいま、ハルギート」

 私の声も少し掠れてしまった。生まれた時から顔を合わせている使用人が他にも出迎えのために並んでくれている。彼らの内心がどうであれ、無事に家に帰ることが出来たという安堵で胸が詰まりそうだった。


「ボニタ、後は頼んだよ」

 私の車椅子を押してくれるのはお兄様の侍女、ボニタだった。どこへ連れて行かれるだろうと心配していたが、当然のことのように私の部屋へと連れて行ってもらえた。嬉しい! いつまで居られるかは分からないが、第一関門を突破した気分だった。


 車椅子ごと持ち上げて2階へ運ぶために階段を上がるときだけ下男の手を借りた。だがそれ以外は私の世話をしてくれるのは女性だけ。メイドも侍女もお兄様付きのものばかりなのが気になると言えば気になるが…。私の侍女やメイドたちはもう解雇されてしまったのだろうか。


 聞きたい。だけど、知りたくないような気がして…されるがままに夜着に着替えてベッドに横になる。言葉少なにお世話してくれる彼女たちに、なんと言葉をかけていいのか迷う。

「夜のお食事はこちらにお運びいたします。それまでどうぞごゆっくりお休みください」

 お世話をする立場の者…侍女やメイドに軽々しく「ありがとう」は言えない。前世の記憶でつい言ってしまいそうになるその一言をぐっとこらえて、かすかに微笑みを浮かべる。


「まだ体調が悪いから、助かります」

 彼女たちが部屋から出た後、私はふかふかの枕に寄り掛かった。ああ、帰ってきた! 暗くて冷たい牢の中で、何度も夢に見た私の部屋に戻ってくることが出来た! 自然と涙が零れ落ちた。

 懐かしい私の部屋。この空間は私の小さなお城。生まれてからずっと過ごしてきた私の居場所。


 正直、眠気はない。移動疲れを解消するために聖魔法のキュアを使うとすぐに疲れが消えた。

 よしっ、使い方が分かっても試すことが出来なかった空間魔法を練習しよう。静かにベッドから離れてきょろりと室内を見渡す。

 空間魔法で今の私が出来ることは2つある。ひとつはアイテムボックスだ。王家に嫁ぐと自分で決めていたため空間魔法に関する知識は習得済み。あれ? 知識があったことが転生後にスキルとして現れた? いやいや、他にも土魔法、氷魔法、雷魔法などノベルズやアニメなどで知識だけはいっぱいあるのに空間魔法だけが前世の影響を受けたとは思いにくい。


 それよりはむしろ、狭くて何もない牢に入っていてもアイテムボックスがあればいろんなものを入れたまま牢に入れたのに…なんて夢想がスキルとなって発現した、という方がまだ可能性がある。…と思う。聖魔法も牢の中にいた時の願望だ。どうしたら少しでも楽になれるか。健康を取り戻せるかと考えて、ああ、聖魔法があったらなぁなんてことを繰りかえし夢想していた。


 願望がスキルになった? そんな正解が出ない謎は横へ置いておいて、急いで新しいスキルをものにしなければ…。


 初めから上手くできないかもしれない。入れたものが消える可能性もあるから、消えてしまっても差し支えないものはないかな。

 室内を見回すがなかなかこれはというものが見つからない。ドレスが消えてしまったらメイドや侍女にはすぐに分かってしまうだろうし…と思いつつ衣裳部屋に入ると何着かのドレスがすでに無くなっていることに気が付いた。


「……これ、ヘルミーナが持って行ったわね。きっと」


 第2夫人の娘であるヘルミーナは私の異母妹で2つ年下の14歳。身長だけは私とあまり変わらないが胸も腰もヒップもサイズが違うので私の服をそのまま着ることは出来ない。だけど私がオーダーしたドレスを欲しがって、よく癇癪を起していた。私が生きて戻ると思わずに、とっておきのドレスばかりを漁って自分のものにしてしまったのだろう。確実に死んだと聞いてからならすべてが手に入ったというのに、待てなかったらしい。


 そういえば王妃様主催のバラの鑑賞会の開催までひと月を切っている。形見分けのドレスだとかなんとか説明して、自分用にサイズ直しとアレンジをして着ていく気なのだろう。

 相変わらず馬鹿な異母妹だこと。


 よし。すでにドレスが何着かないのなら、これでアイテムボックスの練習をしてみよう。先に宝石を外してから、アイテムボックスのスキルにチャレンジしてみた。


 えーと…収納! ドレスに触れた状態で念じてみたが、変化なし。うーん…簡単にはいかないか。呪文が違う? ステータスの掛け声のような決まった呪文はなかったような気がするんだけど。

 あれこれ考えつつも手はドレスから宝石を外していく。全部外してしまうとすぐにバレるから、小心者の泥棒がやったように一部分だけを外していく。

 なんとか、この宝石を隠し持っていたいのに…どうしたらいいのよ。お願いだから、アイテムボックスに入ってよ。

 ぎゅっと握りこんだ宝石が、すっと手の中から消えた。

「…え?」

 手のひらを開くが、やはり気のせいじゃない。手から落ちた…わけでもない。


 アイテムボックスの中に…あっ!

 頭の中を探るようにしてみると、見えないけどエメラルドの小さな宝石の存在を感じた。

「………」

 もう一度手の中に…出して!


 エメラルドの小さな宝石が手の中に現れた時には感動した。これが、王族に伝わる空間魔法の一つ、アイテムボックスなのね。

 入れたり出したりしているうちに、なんとなくコツのようなものを会得することが出来てしまった。わずか1時間ほどでアイテムボックスが自在に使えるようになるなんて、もしかして私ってチート?


 いろいろ試してみた結果、容量は私の衣裳部屋…前世でいうところの八畳ほどの広さ…は確実にあることが分かった。衣裳をすべて入れた後、室内の家具や姿見なども入れてみたがいっぱいになった感覚がないから間違いない。

 これ、魔力量に比例しているのかしら? もしそうなら、王族の方々でアイテムボックスが使える人は部屋丸ごとに相当するものを持ち歩いているのも同然だ。貴族のたしなみとして侍従や侍女に荷物などを持たせて、自分は何も持たないのが普通だから…王族にアイテムボックスのスキルって宝の持ち腐れじゃないかしら。


 いえ、こんなことを思ったなんてことを知られたら不敬になるわ。皇帝が玉璽を肌身離さず持っていられるということは素晴らしいことだもの。そうよ、容量が大きいからといってあれもこれも持ち歩く必要はない。王家に代々伝わる大切なものが誰にも盗まれずに守りきれるのだから、素晴らしいスキルじゃない。

「…ん?」

 でも、万が一よ。アイテムボックスに玉璽を入れた皇帝が死んでしまったとしたら…どうなるのかしら? 


 ふと考えてしまった思い付きに、慌てて首を横に振る。

 し、知らないほうがいい気がする。私も自分が死んだ後、アイテムボックスに入れていたものがどうなるかなんて知りたくない。実験する気にもならないわ。


 ドレスから外した飾りの小さい宝石を少しとレースの手袋やハンカチといった小物も少し。それから帽子やショールなど無くなったことに気が付かれにくいものをアイテムボックスに入れて衣裳部屋を後にする。鍵のかかる引き出しの中も物色されたみたいで、お気に入りの羽ペンもなかった。鍵の隠し場所が簡単すぎたのだろう。私の侍女がヘレニーナに寝返ったと思いたくないから、そういうことにしておこう。脅されて、仕方がなかったのかもしれないし。


「宝石箱にも手を付けられたようね」

 これには思わず眉を顰めずにはいられない。

 無くなったものを確認してから、静かに引き出しを戻す。


 私が現金を持ち歩くようなことはなかったから金目のものはアクセサリー、ドレスや置時計などの魔道具くらい。ここから追い出されるようになったら根こそぎ持ち去りたいが、そうするとアイテムボックスのことがバレる危険があるため慎重に取捨選択しなければならない。

 ヘルミーナやメイドなどが盗んだように見せかけることが可能な、転売しやすそうなドレスとドレスについていた飾りの宝石の一部だけを隠し持つことにした。


 アイテムボックスに関してはこれで検証も済んだから、次は空間魔法のもう一つのスキル『転移』を試してみたい。転移といってもラノベなどで読んだことのある、遠くの町へ一瞬で移動できるような便利なものではない。

 私のスキルの転移という仕組みはAという空間とBという空間を入れ替えるというものだ。つまり、入れ替えるということから分かるように目で見える範囲での交換になる。見晴らしがよければ1キロほど離れた場所との転移が可能かもしれないが、緊急避難のために使うならばともかく、消費魔力の量を考えると普段使いできるスキルではない。

 いざというときに逃げる、隠れるなどの場合には非常に便利だと思うけれど…見つかって空間魔法が使えると知られたら大変なことになるから使いどころに悩むわ。


 ともかく、部屋の端からベッドの横に移動できるか試してみることにした。ステータスで先に魔力量を確認しておいたので一度の消費量が分かる。3度同じ距離をいったり来たりしてみたところ、一度に消費する魔力量は25。総魔力量が872あるため30回ほど転移を繰り返すことが出来る計算になるが、アイテムボックスの検証でも魔力を消費していたようで転移を試しているうちに少し疲れてきた。

 距離によって魔力量が変化するかどうか確かめたいが、休憩して魔力が回復してからにしよう。


 

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