表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先に断罪後の悪役令嬢しか選べなかった  作者: ふぅみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/16

第3話

「医師と看護師を呼んできます」

 そう言ったのは審判員の男だったが、下働きの男たちもさっさといなくなってしまったために一人だけ部屋に取り残された。

 清潔なベッドに寝かせてもらえたが、いいのだろうか。塔に連れて行かれる前に着替えさせられた粗末なワンピースは20日間ずっと着たまま。汚れた体でベッドに寝かせられたことに罪悪感のようなものすら感じた。

 石牢にはベッドすらなかったので直接床に座ったり横になったりするしかなかった。元気なうちにクリーンをかけて床を綺麗にしてあったおかげでそれほど汚れていない…と思いたいが、自分の状態を確認することすらできない。


 かなり待たされたが、走って看護婦と医師が来てくれたので文句は言えない。というか、まだまともに声も出せない。

 簡単な診察をした医師の指示で看護婦たちがてきぱきと動く。私はクリーンをかけてもらい、服ごと綺麗にしてもらった後、薄めたポーションを少しずつスプーンで飲ませてもらった。ベッドの近くにきて見下ろす医師の顔と看護師二人の顔をじっと見つめた。


 医師は50代くらい、看護師二人は40代くらいでどちらもベテランぽい。私が真実の審判を生き抜いた元罪人だと知っているはずなのに、ただの病人のように親切にお世話をしてくれる。

 ごく普通に、人としての扱いをされていることがこんなに嬉しいなんて…。


 医師が出て行った後、服の着替えは明日用意しますねと言って下着だけでも女性看護婦が着替えさせてくれたのは正直嬉しかった。

 薄めたポーションをすべて飲み干すまでかなりの時間がかかったのに、彼女は根気よく飲ませてくれたし、何度も様子を見に来てくれた。一晩寝て体力と魔力がわずかに回復しているのを確認してから回復魔法を弱めに…何度もかけてくれたことにも感謝している。

 弱りすぎた体に強めに回復魔法をかけるのはよくないので、時間をかけるのよと教えてくれた。


 塔を出た後の2日間の処置で私の体はかなり回復した。衰弱死一歩手前から、安静が必要な病人までの状態に回復したと思う。マッサージも丁寧にしてくれたので硬直していた筋肉が少しずつほぐれ、自分で腕や足が動かせるようになった。

「ありがとう」と、言葉で感謝も伝えることが出来るようになったのが本当に嬉しい。寝て、診察を受けて、治療を受けて、また寝て…という2日間が過ぎ、ようやくエルレンマイストの人間が来た。


「お嬢様、医師からは順調に回復していると聞いていますが、お加減はいかがですか?」

 正直、迎えに来てくれるとしたらお兄様か従僕のメレスタだろう…いや、そうであって欲しいと思っていたから少しほっとした。お父様が来ることはなくてもお父様の従僕や部下が来たなら秘密裏にどこかに連れて行かれてそのまま監禁。からの密かな処分という可能性も考えていた。

 だがお兄様か、お兄様に命じられてきた迎えが来てくれたなら一番生存率が高くなる。お父様に処分しろと命じられて断り切れないでいる可能性も残っているから、完全に安全だと思えないのだけれど…今の私にはどんなに細くても、手を伸ばさずにはいられない救いの糸だった。


「…ありがとう。お兄様に気にかけていただいて嬉しいわ、と伝えてくれるかしら」

 メレスタは改めてまじまじと、ベッドに横になったままの私を見下ろした。

「ギルファート様が直接来られなかったことを責めないんですか?」

 思わず苦笑してしまった。


 来られるはずがないのは分かっている。生き延びたことで無罪を勝ち取ったとはいえ、家名に泥を塗ったことには変わりないのだ。

「いいえ。…私は一度死んだのよ。そして生まれ変わったわ」

 これは本当のことだが、死の淵を覗いたことによって性格や言動が変わって別人のようになったことの言い訳に使える。

「ただのエリザベスとして打ち捨てられる覚悟も出来ているわ。でも叶うならば、せめて自分で歩けるようになるまではここ…医務室にいさせて欲しいわね」

「……無実となったお嬢様が捨てられるようなことはございませんよ。ご安心ください」

 それを聞いて少しほっとした。

「だったら、お父様たちにお会いして謝罪してから…どこか誰も知らないところで静かに暮らしたいわ。生きていることを許されるなら」

 再び侯爵令嬢として大きな顔をして家に戻りたい、などとは言わない。私の人生はもう巻き戻せない。


「…医師からはまだ退院できる状態ではないと伺っています。ご入用なものはありますでしょうか?」

 まだベッドから離れることもできないから着替えも必要ない。ゆるく首を振ってから一番気になることを聞いてみた。

「治療費のことが気になっているのだけれど…」

 私の資産はもうすべて没収されているのだろうか。それとも、少しくらいは残してもらえるのだろうか。

「どうぞお気になさらずに。すべてこちらで…手配いたします」


 良かった。


「ギルファート様になにかご伝言がありましたら承ります」

 伝言。確かに…伝えたい言葉はあるが、甘えてもいいものかどうか。どこまで信用してもいいのか分からないと思っているからなのか、すぐに言葉が出てこない。躊躇いつつも、やはり謝罪はしておきたい。


「…ごめんなさい、と。私が愚かでしたと伝えてくれるかしら」

 現在進行形で迷惑をかけていることには変わりない。生きている限り、エルレンマイストに迷惑をかけていると思われているはず。少なくともお父様や異母兄弟からは憎まれ、疎まれているに違いない。

「分かりました。また明日にでも御用がないか伺いに来ます」

 メレスタが滞在していたのは5分ほどのことだったが、どっと疲れが出た。目を閉じるといつのまにか寝てしまっていたようで…お兄様に叱責される嫌な夢を見て飛び起きた。


「………」

 寝汗で気持ち悪い。そろそろ魔力も回復してきているし、自分でクリーンを掛けてもいいだろうか。いや、使う前にどれだけ回復したか確認しよう。


 ステータス。


 目を閉じて自分のスキルを視たいと願う。実はこのステータスと唱えることは初めてだ。この世界の知識にはないが今のエリザベスにはある知識だ。ゲーム世界やノベルズの世界の知識らしく、この世界でも使えるかどうかは分からないが、魔力が回復したら試してみたいとずっと思っていたのだ。


 あ、出た!

 本当に、教会の水晶を使わなくても名前やスキルが脳裏に浮かんできたので吃驚(びっくり)する。

 もしかして、この世界はゲームの中の世界なの? いいえ、違うはず。転生を助けてくれた女神さまがゲームの設定に似ていただけ、と否定してくれていた。悪役令嬢と婚約破棄、元婚約者が横取りされるなどの共通点がどんなに多くても、単なる偶然だと。


 それに…たとえゲームの中の世界であったとしても、悪役令嬢が表舞台から退場してからの世界はゲームのストーリィから外れている。ヒロインと皇子のラブストーリーにはもう悪役令嬢は関わらない。


 ステータスが表示されたことを喜び、今の自分自身を知ることで将来の目標、生き残るという願いへと繋げたい。


「………あれ?」


 エリザベスは侯爵家の長女として生まれたためか魔力量も多い。しかも風、水、火と3種類の始原魔法が使えるうえに、生活魔法ももちろん使えるという優れた魔法使いだ。血統魔法は残念ながら顕現(けんげん)しなかったが、これは一代に1人ないし2人ほどしか血族に現れないという稀な魔法である。お父様の代はお父様1人だったが、次世代はお兄様と分家の跡取りの2人に発現していて、歴史ある名門である我が一門の繁栄は約束されているも同然だ。

 話が逸れた。何が言いたいかというとありえない…レア魔法と血統魔法があったからだ。


 どういうこと? 私が一度死んだことと関係があるのかしら?


 聖魔法をいつの間にか獲得していた。これがあれば…いや、自分で自分を回復したとしても魔力切れを起こしていたら死に向かって一直線だった。転生後は魔力はほぼからっぽで何もできなかったし、今もまだ全回復していないから使うことに躊躇(ためら)いがある。

 しかし…これはとてもありがたい。全回復とまでいかなくても、魔力が半分以上回復したら練習してみたいところだ。私を治療してくれた医師が弱い回復魔法をかけてくれたことを思い出す。

 1日も早く健康な体になって、いざというときには…残酷な運命から逃れられるようになりたい。


「それと…」

 声が少し震える。空間魔法は王家の血統魔法である。こちらの発現率は他の貴族たちの血統魔法よりも高い。なぜなら発現確率を上げるために皇帝は複数の妃との間に少なくとも6人ほど子をもうけるのが慣例になっている。

 空間魔法が使える者がもし王家以外の者に現れた時は、たとえ平民であっても高位貴族の養子に迎え入れられた後に王室に嫁ぐ、あるいは王家の姫との婚姻が結ばれる。そうして確実に血統魔法の血脈を集めて繋いできたのが王家なのだ。


 私が第2皇子の婚約者となったのは様々な要因が絡んでいた。父が高位貴族であること。母が王家の傍流の血を引いていたこと。私の魔力量が多かったこと。そして…私自身が第2皇子に一目惚れをして絶対に結婚したいと我儘を言ったことがダメ押しになった。


「これ、やばいよ…」


 転生前のエリザベスなら使わない言葉がつるりと出る。

 第2皇子は私との婚約を破棄した。恋人を暗殺しようとしたという暗殺未遂の罪で。しかし、だ。真実の審判によって…公には…無罪となったからには、私が空間魔法を使えることがバレたら新たな婚約話が有無を言わさず持ち込まれる。第2皇子との再婚約はありえないとしても…相手を変えれば話は別になる、気がする。


 王家は空間魔法使いを逃がしたくないのだ。市井の中からも掬い上げて王家という器の中に注ぎ込み、空間魔法の使い手を王家から確実に排出することに心血を注いでいる。

 現在、皇帝の息子は3人いる。第2皇子は私の2歳年上でちょうど良い組み合わせだったが、第3皇子は私より4つも年下だ。つまり、現在12歳。結婚が可能な年齢は成人後の16歳からなので、第3皇子に私を娶せるならあと4年過ぎないとだめだ。そのとき私は20歳すぎ。初婚で20歳を過ぎるのは婚期を逃した女とみなされる。ま、婚期どころかもう誰とも結婚する気はないのだが。


 第3皇子がダメなら…と瑕疵(かし)が付いたという理由で皇太子の妾妃に迎えるという可能性の方もある。しかし皇太子にはすでに正妃の他に側妃もふたりいる。私が4人目の、しかも妾妃扱いされるなんてすごく嫌だ。

 以前のエリザベスなら高位貴族が複数の妻を持つことはよくあること。この世界の常識としてとらえていたようだが、一夫一婦制度が当たり前の世界で生きてきた異なる世界の常識の方が今の私の心情的にはしっくりくる。


 ホント、ありえないのよ。

 生き残って罪が消えても貴族たちからは傷物あつかいされる私にとって、結婚への願望はない。貴族の生き方を捨てて自由に生きるということの方が魅力的だ。廃嫡? 追放? ありがとうございます、なのだ。

 しかし、権力とお金のありがたみはよく理解しているから…できることなら与えられていた個人資産だけは確保したい。それには、厄介ともいえる空間魔法がすごく便利だ。

 お屋敷の私の部屋に戻ることが出来たら…持ち出せる限りの宝石類や魔道具などを持ってから逃げたい。


 そんな風にこれから先のことを考えていたらますます気力が沸いてきた。無事に牢から出られたのだから、次は健康な体を取り戻すことが最優先。体力と魔力を取り戻したらスキルの使い方学び、レベルを上げる。そうしてから…屋敷に戻れるものなら戻りたい。


 ダメでも…今の私には普通の令嬢にはない経験と知恵がある。一度もお屋敷の厨房に足を踏み入れたことがない私だけど、高校卒業後に借りたアパートでの自炊生活の記憶があるから、一人でも生きていける。と思う。……多分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ