七章 最後の波乱の舞踏会。 7
ようやく侍女も気がついた。
ライルが踏み込み、一瞬で高く跳躍する。
そのまま侍女の背後に着地した。
素早く腕へと、手を伸ばす。
掴んだ瞬間に、離さない。
「…離しなさいよ!!」
大きな怒号。
侍女も激しく暴れ、腕を振りほどこうと身を大きく捩る。
ライルも必死に押さえ込む。
「大人しくしてください!」
「キィィィィィ!!」
また甲高い金切り声上がった。
――その時だった。
操られた兵士達の動きが、一斉に止まる。
父の手の力が抜けた。
わずかに首を絞める手も緩んだ。
(今だ!)
私は半ば強引に身体を捩り、抜け出した。
すぐに後ろに下がり、思いっきり呼吸する。
「げほ、ごほ。」
荒れた息を整えると、ライルの方を振り返る。
すると――
彼の足元から円形の陣が浮かび上がる。
淡い光。
さらに見たことない文字が、光の中で回転しだす。
「…?!」
メイドが踠き、苦悶の息を漏らした。
髪も余計に激しく蠢く。
「…おまえの力、…」
ライルが何かを呟く――が、その寸前。
操られた兵士が死角から飛びかかった。
一直線に剣を振り上げる。
「ライル!」
私は反射的に叫び、踏み込む。
ほぼ同時に、空を切る音。
「くっ!?」
だが彼は咄嗟に後ろへ飛び退き、舞台に降り立つ。
「!!」
「殺、――」
さらに別の操られた兵士達も集結しだし、次々と飛びかっていく。
ライルは再び高く跳躍し、身を翻す。
そのまま私の隣に着地したのだった。
互いの目が合う。
「すみません。…失敗してしまって、…」
ライルは即座に頭を下げ、再び前を振り向く。
その直後だった。
「…さっさと始末しなさい!!」
メイドの指示する声。
操られた兵士達が周りを取り囲む。
次々と武器を出鱈目に振り回しながら、切りかかってきた。
ライルが躱す。
私は身を捩り、すぐに剣でいなした。
一歩踏み込んだ。
次の瞬間に、反撃。
一瞬で勝負が決まる。
「はぁ!!」「ぐげ!?」
さらに一人、吹き飛ばす。
だが、すぐに別の人が突進してくる。
「この!」「殺、――」
「また!?…しつこい!!」
「カレンナさん!」
今度はライルが、横から蹴り飛ばす。
そして私達は、背中合わせに並び立った。
「どうしたらいい?」
慌てて呼びかける。
「このままじゃ、…まずいわよ」
「やはり、媒介をなんとかしないと…」
ライルは表情を曇らせ、苦々しげに小さく答えた。
(…もう、打つ手はないの?)
私は無言で、メイドの方を睨む。
周囲の空気が、重く沈むようだった。
「っち、…しぶといわね。」
舌打ちの後、メイドは再び叫んだ。
「……こっちに近づけさせないで!!」
そして踵を返して、舞台から階段を上がっていく。
「く、来るな!!」
ドギアス王が叫ぶ。
「陛下!!」
「おのれ!」
護衛の兵士達も間に入り、立ちふさがる。
「…下がれ、おまえ達まで操られたら、…」
遅れて、ドギアス王が指示を飛ばす。
その間にメイドは、二階へと一歩ずつ歩み寄っていく。
「殺す、殺す、殺す。…」
同じ言葉だけを、途切れなく呟く。
やがて二階へ辿り着いた。
「…う。」
護衛の兵士達は腰が引け、じりじりと後退りする。
「ふん。…」
すぐにメイドは鼻を鳴らし、手を前に伸す。
徐々に距離を詰める。
「…あ、う?!」
ほぼ同時に、ナンリー様の苦悶の声。
「ナンリー!?…しっかりしろ!!」
ドギアス王が叫ぶように、呼び掛ける。
「逃がさない。…」
そしてメイドが低く呟き、シヤリーの方に近づく。
私の視線だけが、空回りしていく。
その時だった。
「…!!」
すかさずシヤリーが手を伸ばし、ナンリー様の髪留めを掴む。
「ふん!」
そのまま勢いよく引き抜いた。
次の瞬間、――
「あ、れ?…」
ナンリー様の瞳に光が戻る。
「あったわ!」
さらにシヤリーが叫び、髪飾りを高く掲げた。
「これよ、…髪の毛よ!」
「…なっ!?」
メイドが声をあげ、わずかに肩が跳ねた。
「なんと!!」
同時にドギアス王も叫び、すぐにナンリー様を抱き寄せる。
「え!!?…シヤリー!?」
私も思わず、聞き返した。
「…そうか。…それが媒介なら」
するとライルの姿が掻き消えた。
次に現れたのは、正面の兵士の懐。
足払いを叩きこんだ。
兵士が倒れる寸前に――、彼の指が鎧の隙間に差し込まれた。
そのまま長い黒髪を強引に引き抜いていた。
「あ、あれ?」
兵士の目に光が戻る。
「あ!」
思わず呟いた瞬間には、私は反射的に前に駆け出していた。




