七章 最後の波乱の舞踏会。6
「あぁ、…もう!!」
私も遅れて走り出し、ぐんぐんと速度を上げて追い付く。
(——なんとかして、あいつの意識を、こっちに向ける。)
それが、私の役目となった。
そのまま二人で、操られた兵士達と対峙した。
相手は出鱈目に剣を振って、何度も攻撃してきた。
だが私は先制し、敵の武器だけを弾き飛ばす。
「…ふん!」
「!!」
さらに間髪入れずに、ライルが体当たりして、強引に間を抜けた。
若い兵士達と共に、倒れて床に這いつくばる。
その隙に私も無理矢理に、押し通って行く。
すぐにメイドの方へと、真っ直ぐ迫った。
「!!?」
だが、ーー
今度は父が邪魔をしてきた。メイドを庇う様に行く手を阻んでいる。
しかも、その手には他の誰かの剣を既に持っており、すかさず斬りかかってきた。
やがて互いに唾是り合いとなり、膠着状態となる。
「…もう!!…あいつに、近づけないじゃない!」
私は悪態をつき、憤りを露にする。
「…あぁ?」
メイドは眉を潜めだし、首を傾げながら独り言を呟いた。
「…いったい、何のつもり?…どうして、あたしの方に来るの?」
次第に考えを巡らせていくと、ハッと目を見開き、即座に後ろを振り返る。
「…まさか。…あたしの邪魔をするのは、あの女を殺させない為?」
その視線の先には、シヤリーとナンリー様がいる。
「…ふざけんな!!」
と、メイドは再び激怒すると、片腕を前に出して、奇妙な動作をしながら喋りだす。
「…何よ、何よ!?…あんな女達なんて、此処にいる価値なんてないでしょうが!…」
また一人で大騒ぎしだす。
「私よりも、ヴィシュー様に近い所にいるからってだけで、愛して貰えてるだけでしょうが。…」
そして、ナンリー様にも異変が起きていた。
「お、おい!?…ナンリー!!」
ドギアス王は、慌てて呼び掛ける。
しかし、ナンリー様は既に目の焦点を失い、操られていた。
「…!!」
「…きゃあ!?」
次の瞬間、シヤリーは襲われそうになる。
ナンリー様が、彼女の首に両手を掛けて、締めようとしていた。
「…止めろ!!」
すぐにドギアスも後ろから羽交い締めにして、必死に引き剥がそうとする。
「…!?!」
私は目の前の様子に、背筋が凍りつく。
(…あのメイドが、姫様に魔法をかてしまえば、また振り出しです。だから僕が隙を付いて、あいつから魔法を奪います。)
さらに先程のライルの指示も、脳裏に過った。
(…その為に、どうにかしてシヤリーさん達から意識をそらして、此方に向ける様にしてください。)
痺れる様な緊張が張り詰めだしていた。
「…さっさと、その怪盗達を片付けなさい!」
またメイドの指示が飛んでくる。
同時に父の剣撃、激しさが増していた。
徐々に押され始めた。
(ーー考えろ!…)
私に出来る事はと、考えを巡らせる。
「!!」
その時、ひとつの方法が思い浮かんだ。
「…そんなんだから、皇太子にだって相手にもされないんでしょ!」
すぐに私は大声で叫んだ。わざと聞こえる様に響かせる。
するとメイドは僅かに反応を示し、肩をピクッと揺らした。
「…何よ!!…その反応、図星なんでしょ?」
さらに私は、畳み掛ける。
「……はぁ?」
「…本当は、自分でも解ってんじゃないの?…あの皇太子には、妹以上に振り向いて貰えないって!」
「何ですって?…」
するとメイドは此方に視線だけを向ける。周囲の空気が、びりびりと震えていた。
操られた人達の動きも、一瞬だけ鈍ったようだった。
メイドは完全に意識を、此方を向けていた。
即座に反論してくる。
「…ヴィシュー様を、侮辱するなんて!?…あんなに周りに優しい人を、…」
「アイツの裏の顔を知らないから、そんな事が言えんのよ!…あんなのは、ただのクズのシスコンよ!!」
「…だまれ。」
「…いいえ、黙らない!!…それに優しくなんて無いわよ!!」
「だまれ!!」
「…アイツは、慕っている女性を蔑ろにして、自分の命すら顧みない本当に優しい人を、平気で殴りつけているんだから!!」
「だまれぇぇぇ!!」
ついには今まで以上の、絶叫が上がる。
そしてメイドは此方に身体ごと振り返り、大声で命令を飛ばす。
「さっさと、その女から消しなさい!!」
(ーー来た!)
「ふん!」
「ぐ?!」
「……ころ、…す。」
父は、私の首を掴んで動きを封じてきた。
すかさず周囲の兵士達も、全速力で迫ってくる。
私だけを標的にしてきたのだ。
(ーーそれで、いいわ。)
その一瞬の隙に、ーー
銀色の影が目にも止まらぬ速さで、駆け抜けていった。




