七章 最後の波乱の舞踏会 5
ほぼ同時に、大広間に人々の悲鳴が上がった。
招待客達は扉を開けて雪崩れ込み、次々と部屋から逃げだしていく。
「…客を逃がす為に、騒ぎをおこしたけど。……やりすぎたかな?」
その頃合いを見計らい、ライルは呟く。
私達は真下の様子を伺った。
舞台の上には、シャンデリアの残骸が散らばっている。
さらに周囲には、何人かの近衛兵士達が倒れている。
どうやら逃げ遅れたようだが、残骸の破片から身を守る様に床に伏せており、大きな怪我はなさそうだ。
「…おのれぇ!!…アルジェン共め、降りてこぬか!!」
父も激しく怒鳴りつけてきていた。此方を睨み付けながら、階段の一段目で地団駄を踏んでいる。
その時、誰かが舞台の袖の方から忍び寄ってきていた。
黒髪の側使えのメイドだった。
「…父さま!!」
と、私は思わず声をあげた。
しかし、それがいけなかった。
「は?」
父は一瞬だけ動きが止まる。
その隙に、側使えのメイドが父の首元に手を伸ばした。
「ぐ?!…が?…」
すると父は目の焦点が合わなくなり、だらりと腕が下に垂れ下がる。
完全に傀儡の魔法に掛かってしまったのだった。
さらにメイドは、倒れた近衛兵士達にも、次々と触れていく。
すると兵士達は不自然な体勢から、一人ずつ立ち上がる。
「…邪魔よ!…アンタ達、邪魔しないでよ!!」
さらに側使えのメイドは叫び、捲し立てる様に喋りだす。
「…しかも私の、私のヴィシュー様に勝手に触れないで!…いったい何処に隠した!!」
明らかに激昂していた。
「…憎たらしい。…あの女や妹だけでも、ヴィシュー様の側にいるだけでも、鬱陶しいのに。」
ずっと独りよがりの主張を、吐き続けている。
「…ヴィシュー様は、私だけに微笑んでくれる。…あの妹と一緒でも。…あの人は優しいから、笑顔を皆に向けるから、付け込まれて拐われたのね。…やっぱり、私が一緒に居られる様にしないと。」
やがて彼女の表情が歪む。
白目は血走り、長い黒髪が独りでに逆立ちながら蠢きだす。
まるで生きた蛇の様だった。
「え?!」「きゃあ?!」
シヤリーは動揺し、声を漏らす。
ナンリー様が悲鳴をあげる。
私も驚愕し、両目を見開いてしまった。
「…何よ、あれ?」
ほぼ同時に、ライルが説明しだした。
「…魔法は、術者にの感情の高ぶりに強く反応します。…その気持ちが高ぶれば、次第に形を持とうとするんです。」
「じゃあ、…」
と私は呟く。
ようやく魔法の盗む方法が判った気がした。
「…おい!!…これ以上、いったい何をするつもりだ?」
同時にドギアス王も、大声で問いかける。
メイドは無言のまま、ゆっくりと顔を振り向かせた。
鋭い視線がシヤリー達を射貫く。
護衛の兵士達は庇う様に前に出て、武器を構える。
「…やることは、最初から変わらないわよ。…姫も婚約者も、私の計画を邪魔する者も、全て消えればいい。」
メイドは淡々と告げだした。あたかも当然の様だと、言わんばかりだ。
「…だけど、もう隠れながら実行するのも埒が明かない。…どうせ顔を見られたし、この場の全員を始末すれば済むわ。」
あまりにも冷たい言葉だった。
シヤリー達の顔色は、瞬く間に青くなっていた。
「あいつ!…」
その瞬間私は怒りがこみ上げる。既に周囲の喧騒も、兵士達の動きも、全てが遠のく。
既に視界には、あのメイドの姿しか映っておらず、今すぐにでも飛び出したい衝動が抑えられない。
「カレンナさん。…」
しかし、それより先にライルが耳打ちながら、指示を伝えてくる。
「…今、僕らがするべき事は、………。」
ほぼ同時に、ふわりと身体が再び浮かぶ。
するとライルは急降下して、素早く床に着地した。
私も静かに立たされる。
そして彼は、すぐさま走り出して行ってしまう。
「…こっちに来ないでよ!!」
とメイドは大きな声で叫ぶと、ー
操られた兵士達が迎え撃ちながら、行く手を阻んできた。




