5章 再びの波乱の舞踏会 4
「キィィィィィィィ!!」
すると何処からともなく、若い女の金切り声が響いた。
その声は一階、舞台の側からだ。
すぐ近くの招待客達が一斉に振り返る。
次の瞬間、ーー
その中の数人に、また異変が起こる。
また目の焦点が合わない表情だ。さらに覚束無い足取りで走りだす。
彼等は舞台を横切り、階段へと向かってきた。
完全に、【操り人形】の魔法で操られているようだ。
私は目の前の光景に、背筋を這う寒気を感じ、思わず言葉を吐き捨てる。
「…何よ、あれ。…人を人とも思ってないの?!」
「…此処なら代わりは、幾らでもいます。…やはり、この状況を何とかしないと。」
ライルも静かに呟いていた。
「…な、何だ?…彼等を取り押さえろ!」
時を同じくして、再び父が命令を飛ばした。
近衛兵達は踵を返し、一階部分に向かう。
全員で横一列に並び直し、行く手を阻んだ。
さらに複数人ずつで、操られた人達を確実に制圧をしていく。
「…後は、お前だ!…陛下達の側から離れろ、アルジェン!!」
そして父だけは、剣を構えながら、此方に向かって突進してくる。
瞬く間に、間合いに踏み込むと、ーー
「…我が剣を受けてみよ!」
と、剣を両手で掲げ、即座に振り下ろしてきた。
その軌道の先には、ライルが立っている。
(ーー!?…間に合わない!!)
私は反応に遅れてしまう。
「…ふん!」
「何?!」
だが次の瞬間、ライルの姿が消えた。目にも止まらぬ速さだ。
さらに頭上高くへと飛び、空中で弧を描きながら父の背後に下り立った。
対して父は両目を見開きながら驚き、自分の両手を見つめている。
一瞬のうちに、剣が無くなっていたからだ。
その代わりに、ライルが父の剣を持っていた。
「アルジェン!」
と私は大きな声で呼び掛け、手を前に伸ばす。
彼も迷いなく、剣を頭上高くへと放り投げてきた。此方の意図に気がついたようだ。
剣は放物線を描いて、飛んでくる。
それを私は、難なく手にした。
父は手を伸ばすも、空振りに終わったからだ。
そのまま私は踏み込むと、目の前の父の腹に蹴りを入れた。力づくで押し通る。
「ぐっ!?」
と、父は倒れてしまう。
そして私とライルは、再び合流を果たした。すぐに階段を駆け下りる。
前方では、近衛兵士達が立ちはだかってきた。だが数は少ない。
未だに操られた人達に手こずっているようだ。
彼等は慌てて、一斉に攻撃してくる。
「…退いて!」
しかし、私は剣を大きく振り抜く。容易く対処してしまう。
相手の武器を弾き飛ばし、体勢を崩した拍子に、回し蹴りをした。
次々と兵士達はよろめいて、仰向けに倒れ込んだ。
不意を突かれて成す術もなかったようだ。
その隙にライルは、軽やかな身のこなしで頭上へと飛んで、舞台の中心に着地した。
間髪入れずに、悲鳴があがる。
招待客達は、慌てて走りだして逃げ出した。
さらにライルは両手を広げながら、大声を張る。
「さぁ!!…私を捕まえるなら、捕まえてみろ!…でないと、このまま皇子を連れて行く。」
明らかに、犯人に向けての挑発だった。
「…何をしているんだ!…早く捕まえるんだ!!」
また父の怒号が轟いていた。
「うりゃあぁぁ!!」
一人の近衛兵士が慌てて立ち上がると、ライルを目掛けて走り出す。
さらに他の近衛兵士達も、後に続いた。
ライルは舞台上を駆け回り、軽やかに跳び跳ねる。
指先すら掠らせず、完全に翻弄していた。
対して近衛兵士達は、指先すら掠りもせず、ただ追いかけ続けている。
もはや完全に、翻弄されている。
「…凄っ。…」
私は思わず呟き、見つめ続けた。
「…えぇい!…軟弱者め!」
ふと背後から、父の声がしてくると、気配が迫ってきた。
「ヤバっ!!?」
私が後ろを振り返ると、怒り表情の父を目撃し、慌てて舞台の方へと逃げだした。
徐々に距離が狭まりつつある。
「!?!…此方に!!」
ライルも此方に気がつき、手を伸ばしながら、走ってくる。
ちょうどシャンデリアの真下で、また合流を果たした。
「…失礼します。」と、ライルは先に、颯爽と此方の身体を抱き抱えてきた。
ふわりと身体が浮く。
所謂は、お姫様抱っこの状態だった。
「ちょっ!?!」
と、私は慌てふためくも、反射的に彼の首に腕を回した。
パチン。
その直後に、ライルは利き手を頭上へと上げて、指を弾いて音を鳴らす。
すると彼の指の先から、光の糸が出現した。
それは天井まで、真っ直ぐに伸びた。
そのままシャンデリアの付け根に絡み付くと、ー
ガキン、と音を立てて、接続部分の金具だけを砕いた。
シャンデリアは真っ逆さまに、舞台へと落ちていく。
同時に私達は引っ張られ、勢いよく上へと昇っていく。
まるで滑車の要領で、一気に動いていた。
「な!?…た、退避しろーーーー!!」
ようやく父は舞台にまで辿り着くも、上を見上げて叫んだ。再び階段の方へと戻って行く。
近衛兵士達も、慌てて逃げ出した。
次の瞬間にはーー
大きな音が響く。
シャンデリアが床に激突して、粉々に砕けたのだった。




