七章 最後の波乱の舞踏会 3
「…フッ。」
と、ヴィシュー(?)が不適な笑みを溢す。
さらに自分の顔を手で撫でる仕草をした。
次の瞬間には、目の前の人物の姿が一瞬にして別のものへと塗り変わる。
そこにはアルジェン、ーー怪盗服姿のライルがいた。灰色の唾広の帽子を片手で直し、ペルソナマスクの下で笑みを浮かべている。
まるで此方に微笑んでいるようだ。
「ライ、…!!…」
対して私は思わず名を呼びかけて、慌てて口を手で抑える。
「あ、アルジェン!!」
「え!!?」
その代わりに、会場内が騒然となる。
「な!?…」
「あ、あれは?!」
「…アルジェンですって!!?」
「どうして、此処に!!?」
驚愕と混乱が、一斉に広がっていた。
「…シヤリー嬢!!」
そしてライルは大仰な仕草で一礼し、周りに告げた。
「事前に予告した通り、…貴女の大切にしている方は、既に私の手中に収めさせて貰いました。」
よく通る声が大広間に響く。
すぐにドギアス王は、問いかけだした。
「…おい!…ラ、…いや、アルジェン!…これは、どういう事だ!?」
「陛下、お下がり下さい!」
「姫殿下とシヤリー嬢も、我々の後ろへ!」
しかし途中で、護衛の兵士達が即座に前に出て、壁の様に立ち塞がる。
ドギアス王と、シヤリー達は半ば強引に後退させられた。
「…陛下!…えぇい、…退いてくれ!」
その直後、父の声が響いてきた。
「げ!?…」
と私も視線を向けたら、思わず声を漏らしてしまった。
父が人集りを押し退けて、姿を現す。即座に剣を抜いてきた。
「すぐに取り押さえろ!!」
続けざまに、怒声の様な指示が飛ぶ。
やや遅れて近衛兵達も出てくると、一斉に動き出す。
「「は!!」」
一糸乱れぬ統率され陣形で、周りを囲んできた。
さらに次々と階段に足を踏み入れて、じりじりと距離を詰めてくる。
(ーまずい。)
と、私は思った。
「…それ以上、前に来ないでください!!」
ほぼ同時に、ライルが大声をあげた。
それを兵士達は聞くと、ぴたりと足を止める。
その異様な緊張に、空気が凍りつく。
周囲の誰もが突然の出来事に、驚きの表情となっていた。
私も再び顔を振り向かせ、小声で問いかけた。
「ライル?…どうしたの?」
「来ます。」
ライルも短く答えた。すぐに舞台の方を見つめていた。
「…あいつが動きました。…魔法の気配がします。」
私もハッとして気がつくと、また招待客達の方に振り返った。
「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
「殺す、殺す殺す殺す!!」
すると低く濁った声が、彼方此方から湧き上がる。
人集りの中から、男の招待客が五人も前に出てきた。
虚ろな瞳のまま、階段を駆け上がって襲いかかってくる。
その手には、ナイフやフォーク、割れたワイングラス。
誰もが凶器を持って、迫ってきていた。
「ぐ?!……殺す、殺す殺す殺す。…」
「…殺す殺す殺す殺す!」
さらに若い近衛兵士達からも、同じ様子の者達が新たに二人も現れた。
徐々に目が虚ろになると、自らの剣を引き抜いて、一斉に迫ってくる。
「きゃあぁぁぁ!!?」
悲鳴があがる。
招待客が我先にと逃げ惑う。
大広間の中は、一瞬にして恐怖と混乱が広がった。
「な?…何だ、これは!?…早く取り押さえるぞ!」
「…は、はい!」
真っ先に父が命令を飛ばし、向かっていく。
周りの兵士達も、急いで後に続く。
しかし、彼等は間に合いそうにはない。
操られた人達は、既に階段の中腹に来ていた。先に此方へと辿り着いてしまう。
「くそ。…」
するとライルは、すかさず袖口から小瓶を取り出す。
それを迷いなく、真正面の空中に放り投げた。
瓶は弧を描きながら回転し、蓋が外れる。
その中身の液体が飛び出しながら、階下の方に落ちていく。
コツン、コツン。
段差に当たりながら、下に転がった。
「何だ?…この甘い匂、…い?」
と、一人の兵士が呟く。
ふわりと甘い香りが広がった。
「…殺、…ぐっ。」
すると途端に、操られた人達が膝をつく。
やがて最後には、次々と俯せの状態で倒れていったのだった。




