七章 最後の波乱の舞踏会。2
そこでは、既にシヤリーが待っていた。
「ヴィシュー様?」
「あら、お兄様。」
隣には、ナンリー様もいる。
彼女達はヴィシューの名を呼んだ後に、首を傾げて戸惑いだす。
「え?…」
「!!?」
私は驚いて両目を見開き、思わず立ちすくむ。
自ずと目が合わせられなかった。まるでシヤリーから奪って、本当に傷つけている様な気がしてしまっていた。
「…誰ですの?」
さらにナンリー様は呟き、まじまじと此方に視線を向け、交互に見渡してくる。
「え?…え?…」
と、シヤリーも呆然として、固まった様に動かない。
「シヤリー。」
するとヴィシューは、淡々と告げだす。
「…今宵の私は、君とは踊れない。…隣の彼女をエスコートするからだ。…」
すかさず扉を開け放つと、再び此方の手を引いて歩きだす。
「ちょっと!?…」
また私は、後を追う様に歩きだした。
「ヴィシュー様?…」
シヤリーは、ぎこちなく戸惑いの言葉を、漏らしていた。
「おい!!…待て!」
その時、ドギアス王も呼び掛け、シヤリー達とも合流していた。
「…シヤリーよ。…悪いが察してくれ。」
だがヴィシューは、全く止まらずに歩き続けていた。
そのまま私達は、会場の中へ入って行ったのだった。
次の瞬間には、招待客が振り向き、一斉に視線が集中する。
会場中から視線が向けられ、私達に集中する。
「…来ましたね。」
「おや?…ヴィシュー様が誰か連れているぞ。」
さらに、誰かが声に出して呟いた。
それを皮切りに、他の人達も囁き合う様に喋りだす。
「…あれが婚約者のシヤリー令嬢か?」
「…私、お見かけした事がありますけど。…違う気がしますわ。」
「…なら誰だ?…何故、顔を隠しているのだ?」
ざわめきが段階的に広がる。
「…いったい、どういう事なのだ?」
「まさか?…あれ、別の女か?」
「王家の婚約の場でか?…とんでもないな。…」
「だとすると、シヤリー嬢も哀れだな。」
そして彼等の視線が変わってきた。
(…覚悟はしていた。…でもキツい。)
と私は、心の中で悪態をつく。一身に視線を浴びて、身が縮こまってしまう。
(本当なら、この場はシヤリーが幸せになる筈の場所だったのに。)
「おい、…降りるぞ。」
対してヴィシューは平然と呼び掛けてきて、また腕を引きながら、階段を降りていく。
だが私は、立ち尽くす。前に出るのを躊躇し、僅かに抵抗する。
すぐにヴィシューも、此方に振り返ると、視線を向けてくる。
互いに沈黙し、視線が交わった。
(…この男が憎たらしい。…アンタの自分勝手のせいで。)
私は心の中で、再び怒りを募せる。
ふと頭の片隅で、つい妄想が浮かんだ。
(……あの時は、此処にはシヤリーがいて、凄く幸せそうだったわね。…あんな感じに私も、もし誰かの隣を歩くなら、ライルならいいかも。)
「ヴィシュー様!」
それと時を同じくして、聞き覚えのある声が呼び掛けてくる。
私は我に返り、後ろを振り返る。
ちょうどシヤリー達が扉から会場内に入ってきた。
少し遅れてドギアス王も姿を現し、兵士を伴いながら、やってくる。
「だから、貴方は誰ですの?!」
するとナンリー様が先に辿り着くと、大きな声で言いだした。
「…お兄様じゃない、ですわよね!!」
「え?!」
また誰かが呟いた。
(…そうよ!!…あんなに妹にべったりなのに、なんで今のヴィシューは、私だけを連れてきたのよ?…あっちのドギアス王も兵士を連れているから、本物!?…)
私もハッとして違和感に気がつく。
すぐに再び前へと顔を振り向かせた。




