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七章 最後の波乱の舞踏会。1

 いよいよ今日は、あの舞踏会の日となった。

 会場の大広間では、準備が概ね終了していた。

 至るところで、装飾品や花が飾っており、室内を華やかにしている。

 出入口からは、招待客が絶え間なく流れ込み、あっという間に会場内は今にも人で埋めつくされそうな程の賑わいだった。

 そのまま誰もが思い思いに歓談し、笑い、料理と酒に舌鼓をうつ。

 (…さてと。)

 と、私も頃合いを見計らって、ゆっくりと動き出す。

 先んじて父と共に入場した後は、今まで別行動を取っており、二階部分から会場全体を見渡して、警戒に当たっていたのだ。

 今のところは異変はない。

 側使えのメイドの姿もなく、招待客を操っている様子もない。おそらく怪しい動きを取れないのだろう。

 今回は近衛兵達も、会場内で警備に就いている。

 そして父も、会場内で指揮を取っていた。

 部下達と共に、出入口や壁際に配置され、すぐにでも動ける態勢だ。

 そんな様子を私は見届けると、大広間を離れ、渡り廊下へと足を向ける。

 やがてドギアス城内にやってきた。

 此処も既に人払いされており、嘘の様に静まり返っていた。

 (……後々、ライルから知らされたけど。…此処でヴィシューと、落ち合うんだっけ?)

 と、私は考えながら歩いていた。

 すると次の瞬間、不意に近くの扉が開いた。

 例の部屋である。

 前回の時に、ドギアス王の護衛達を押し込めた場所だ。

 その中から、ヴィシューが姿を現した。すぐに此方に気がつくと、話しかけてくる。


 「やっと来たか。…カレンナ・スカーレット。…変わった事はないな?」

 「…今はね。…あのメイドも居ないし、妙な動きもないわよ。」

 「そうか。…流石に、此方が自分の存在に気付いているとも、思ってもいないだろうな。…」

 「…で?……この後、どうするの?」

 と、私もわざと顔をそらし、溜め息まじりで答える。

 ヴィシューは気にも留めずに、懐を探って何かを取り出す。

 それは黒い生地のレースヴェールだ。

 頭からすっぽりと被り、顔まで覆える簡素なものだ。

 「何よ、それ。」

 と、私は問いかける。

 「…これで顔を隠せ。…多少は、お前だと気付かれ難くはなるだろう。」

 と、ヴィシューも即答する。

 「…何よ、それ。…アンタなりに、気でも使っているつもりなの?」

 「…ふん。…ただの演出に過ぎないさ。」

 「はぁ?」

 「…その赤色の髪では…いずれ誰だかバレる。…ならば、…多少は傷つくのに覚悟する時間は与えてやる。」

 そして彼の口元が僅かに歪んだ笑みを浮かべた。

 「そう。…」

 だから私は前に踏み込む。

 「…でもね。…一番に傷つくのは、シヤリーの方よ。」

 そして拳を握りしめ、ーー

 「…だから、この一発は我慢しなさい!」

 と言いながら、思いっきり顔面を目掛けて叩き込んだ。

 バン!!

 乾いた衝撃音が、静かな廊下に響いた。

 ヴィシューの頬が大きく揺れる。

 確かな手応えが、拳に残った。

 「気が済んだか?…」

 しかし、ヴィシューは最初に小さく呻いただけで、何事もないかの様に振る舞っている。


 (あぁ、もう。…コイツ!!)

 私は苛立ち、肩で息をする。さらに鋭い目付きで睨みつけた。

 「さっさと付けろ。」

 とヴィシューは、ヴェールを再び差し出す。

 「っち。…」

 私は渋々ながら、受け取る。

 ゆっくりと頭から被って、顔を隠した。

 「何をしているのだ?」

 その時、ヴィシューの背後から声がかかる。

 すぐに気配が近づいてきた。

 その方向から、ドギアス王が此方が現れる。

 後ろには二人の護衛を従えていた。

 「ん?…お前、…」

 ふとドギアス王は、何かを言おうとしていた。

 「ほら、…もう行くぞ。…」

 それより先にヴィシューが歩きだし、此方の腕を掴んで、強引に引っ張ってきた。 

 「ちょっ!?…」

 私は足が縺れかけるが、どうにか踏みとどまる。

 そのまま会場の方へと、早足で進んで行った。

 「待ってくれ!」

 少し遅れて、ドギアス王達も急いで追いかけてきていた。


 ※※※


 そうして私達は、渡り廊下を進んで、会場の方に向かう。

 周囲には、重苦しい沈黙が続く。

 「ねぇ。…だから、この後はどうするのよ?」

 と私は、再び問いかける。

 だがヴィシューは、こちらを一度だけ見ただけで、何も答えない。

 じっと前を向いたまま歩き続けた

 その様子に私は、また苛立ちを感じ、じわじわと積もっていた。

 まるで、前へと進むごとに膨らむようだった。

 「!!」

 その時、頭の中でライルの姿が過った。

 あの地下室での、お茶会だ。

 あの時と同じく、彼は柔らかな微笑みを浮かべている。

 その直後に、私は我に返る。気がつけば、頬も熱くなっている。

 ほぼ同時に、目の前に扉があった。

 そこは大広間へと続く出入口だ。

 ようやく私達は、戻ってきたのだった。

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