第47話「後悔」
わたしの耳に囁かれる「殺していい」という言葉。お姉ちゃんは、わたしを抱きしめたまま無防備。そのときを待っているよう。
「お姉……ちゃん……!?」
信じられない言葉がわたしを焚き付ける。この気持ちをぶつけていい許可が下りた。
わたしは自問自答する。いけないことと頭では分かっていても、1度湧いた殺意を引っ込める考えにならないことが怖い。
「……早くしな。殺されるのを待つってのは辛い」
お姉ちゃんの優しい声。いつも聞くと安心する声。なのに今は駄目。聞くたびに殺意が強くなる。はらわたが煮えくり返る。
わたしは意識を集中させる。無意識に氷の刃を作る。冷たいはずの氷が熱く感じる。身体が熱くなっているのを自覚する。呼吸が荒くなって苦しい。わたし自身の最後の抵抗。
「ごめんね。わたし……わたし……!」
お姉ちゃんがわたしを解放した。それは合図だと瞬時に理解する。もう抵抗も葛藤もなくなっていた。身体は震えていても、心はまっすぐ。
「やれ」
「うわあああん!!」
氷の刃をお姉ちゃんに突き刺した。身体の震えが激しくなる。鮮血で赤く染まるお姉ちゃんと氷を見て涙が溢れてきた。
「……がはっ……!!」
「お姉ちゃん!?」
「……いいんだ。これで……いいんだ……」
わたしに寄りかかってきたお姉ちゃんは冷たい。わたしが刺したのだから冷たいのは分かっている。
「ユキ様!!」
「ユキちゃん!!」
「ユキおねえちゃん!!」
みんなの声が耳に届く。聞こえてしまって涙が出る。あれだけ湧いていた殺意が引くと同時に膝から崩れてしまった。今更遅いのに。今更頭が冷えても遅いのに。
「わたしは……わたしは……!!」
「実に美しい姉妹愛なことぞ。まさか妹に殺されてやる姉がいるとは。お前の姉が何もせずとも、私は2人を殺していたぞ」
「……え!?」
「驚くことか? 私は全てを終わりにすると言ったはずぞ。人間は愚かで醜い。そんなやつらには滅ぶべき」
これがティル神なんだね。人間を……命をなんとも思わないやつが神様だなんて。って、わたしも同じか。
「ああもう! ワタシはこんな神をありたがっていたわけ!? なんか負けた気がするわ!!」
「人間は愚かぞ。簡単に神にすがるさまは笑えた」
ティル神は不敵に指を鳴らす。それが何を意味するのかは、ヴェルさんの驚きが伝えてきた。
「ま、魔法が……出せない!?」
「当たり前だ。私が消したのだからな。その驚きの顔はいい! 徐々に消すのも悪くないぞ」
ティル神は神様なんかじゃない。悪魔だ。自分が作った世界にも命にも情がないんだ。
「……ユキ……」
「お姉ちゃん……!?」
「……ボクの最期の足掻きだ。魔法が消える寸前に創造した。これを……かませ……」
「お姉ちゃん!!」
「……大好きだユキ。元気でな……」
お姉ちゃんは瞳を閉じた。最期まで笑顔のまま。
わたしは涙を流すことしかできない。後悔したってしょうがないのに。ごめんなさい、お姉ちゃん。




