第43話「血の気が多い男女」
夜露死苦的な街とは、簡単に言っちゃえば荒れている街ってこったねえ。レンガ造りの家が並んでいて、本来ならば綺麗な街並みであろうにもったいない。
そのまま映画の撮影に使える素材なのに、ゴミが全てをぶち壊しちゃってる。通る人たちの肩が震えているように見えるのは、この街に怯えているからだろう。
「ゴミが散らかって寂しいな。あちこちに落書きの嵐だ」
「宝の持ち腐れですね。今すぐ掃きたいくらいです。街の汚れは心の汚れです。全員が全員そうではないでしょうに」
リンさんの目が輝いている。メイドの血が騒ぐのかねえ。
「平気でゴミを捨てる人の気が知れないわ。ゴミはゴミ箱に捨てなさいって。リフェちゃんは真似しちゃ駄目だからね」
「はーい」
ロリババアはすっかりお姉さんだな。リフェアのなつき具合が半端ない。微笑ましいねえ。
「この街は荒んでいるよ。こうして歩いているだけで気持ちが沈んじゃう。さっきの集落の方が断然よかったよ」
ユキの言うことはごもっともだ。こんな街にいて気持ちが高ぶる人がいるのなら会ってみたいもんだ。
おっと。そんなことを思っていたからなのか、前方から何か近づいている。上手くやり過ごせるか。
「……ちょっと待て。オレに挨拶もなしとは好かねえ」
はあ、まったく。面倒なことになるのは避けたかったんだけど。売られた喧嘩は買うしかないか。
「そいつは悪かった。目で挨拶したんだがな」
「それがそっちの挨拶とは。随分と目付きが悪いと見受ける」
「そいつはお互い様だろう。街の雰囲気とアンタの殺気がマッチしてんだ」
さっきの輩が小さく見える。それだけの殺気を男は放っていやがる。男の勲章だと言わんばかりに顔や腕が傷だらけなのも拍車をかけているしねえ。まあ、そんな風貌で強さが決まるってんなら苦労しない。
「オレに許可なく歩こうなんざ舐めきっていやがる。叩き込まなきゃいけねえみたいだ。女だからって容赦しねえ」
「ほーん。ボクたちが女だからって舐めているんならやめときな。口にしている煙草で火傷するかもな」
「ミアちゃん、本気なわけ!? なんかヤバそうだわ」
「こわいのじゃ! ここはにげるのじゃ!」
「街中での戦いは避けるべきでしょう。私たちはお客です。彼の方が街を把握していますし、こちらが不利でしょう」
「確かに。けど悪いねえ。客を満足にもてなすことのできない街を歩けるほど、ボクは鈍感じゃないもん!」
スッキリさせて歩いてやらあ。暴れてやるっての。ボクの魔法を喰らわせてやる!




