第12話「水を差す」
街をぶらりしていると、顔馴染みの店員と遭遇した。5年前にドレスを買った店の。宮殿で住むようになってからもちょくちょく来てはいる。ボクは買わないけど。
「いらっしゃいませ」
「何か新作入った?」
「いくつかは入ったけれども、ユキちゃんに合いそうなのはないかな」
「じゃあ、お姉ちゃんに合いそうなのは?」
「ミアちゃんに合いそうなのならある! 是非とも試着してくれると嬉しいのだがね」
また、この展開かい。ユキと店員による悪巧み。ボクに服を着せたくて堪らない2人による地獄が……。
「お姉ちゃんは何でも似合うの。これなんかいいんじゃない? かわいいよ!」
「流石はユキちゃん! ではこちらはどうでしょうか」
「小鳥柄のワンピース! 凄くかわいいっ」
こいつはヤバい。ボクは着せ替え人形じゃないんだぞ。この店に来ると必ずこうなっちゃう。ヒラヒラしたものなんて遠慮したい。
「随分とお困りのご様子ですね。私が少々助け船をお出ししましょうか?」
ボクに小声でリンさんが訊いてきた。迷わず小さく頷いて応える。頼んだぜリンさん!
「コホン……ユキ様。ミア様がご昼食をご所望です。水を差してしまい大変恐縮ではございますが、人と食は切っても切れないものですので」
「もうお昼なのね。楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうよ。お姉ちゃんの洋服はまた今度にします」
「そうするといい。焦って買うものではないから。ミアちゃん好みの服をキープしといてあげるよ」
キープ、か。本当にボク好みなのをキープするのか不安があるが。
「助かった。リンさん、ありがとうな」
「いえ、当然のことをしたまででございます」
どうにか地獄を乗り越えた。安心したら本当にお腹がすいた。何かガッツリいきたいねえ。
「く、食い逃げー!」
はあ? 聞き間違えじゃなきゃ、食い逃げって聞こえたんだけど。度胸の使い道を間違えているやつがいるもんだ。
あの男がそうか……まったく。白昼堂々とやっといて逃げきれると思っているのかねえ。
「ああいうのを放っておけません。私が迅速に取り押さえましょう」
「リンさんは休暇中だ。わざわざ面倒事に突っ込む必要はない。ここはボクが――」
「――わたしがやるよ、お姉ちゃん。折角の楽しい時間に水を差したことを後悔させたいの」
「分かった。やりすぎちゃ駄目だからな」
「うん」
ユキが男を追いかけていった。どんどん背中が小さくなっていく。
「ユキ様はお強いですが女の子です。全てお任せして大丈夫なのでしょうか」
「ユキに触ろうもんなら痛い目に遭うのは相手の方だ。心配要らない」
「……では、私たちはお先にお食事をいただいていましょう」
食い逃げなんて2度としたくなくなるだろうねえ。ユキのお仕置きはキツいもん。




